真似事
――凪視点――
「はっ!」
彩霞が素早く距離を詰めてくる。
素早く振り下ろされた剣を刀で受け流しつつ、反撃を――
刀を振ろうとしたと同時に、彩霞は体を捻った。
「!?」
咄嗟にバックステップで距離をとる。
「ふぅ…」
顎を伝う汗を軽く拭い、彩霞を見る。
「本当に彩霞流の剣術を知ってるんだね。これはやりにくいなぁ…」
彩霞がそう言うと、背後から聞き覚えのある風を切る音が聞こえた。
「っと」
最小限の動作で横にずれる。
すると、先程まで立っていた場所に一本の矢が突き刺さる。
さっきから姿が見えないと思えば、奇襲か…。
「…後ろに目がついてたりしない?」
「いいや、ついてないな」
「ほんとかなっ!」
走って距離を詰めてくる彩霞に対して刀を振るう。
「力強いねっ!」
剣と刀がぶつかり、押し合いにもちこめると思ったが、彩霞は受け流した。
力量は把握されているか。
ただ、そこでの受け流しは隙が――
「辰馬!」
「っ!?」
彩霞が叫んだ次の瞬間、真横から矢が飛んでくる。
「くそっ」
俺の障壁はすでに黄色…無視すれば最悪障壁が割れる可能性がある以上、下手に攻めることができない。
攻撃を中断し、刀で矢を打ち落とす。
「っ!」
即座に彩霞へ視線を戻したが遅かった。
「はぁっ!」
体を回転させつつ、剣をまっすぐこちらへ突き出そうとしている。
この構えは彩霞流『尖甲月花』…この体勢じゃ完全に防御できる自信はない。
だったら――
「え?」
刀を握ってない方の手で銃を持ち、彩霞に銃口を向ける。
少し卑怯かもとは思ったが、これも実戦だ。
「ちょっ!?銃!?」
引き金を引く。
この距離なら、いくら弾が砂だとしても障壁が割れてもおかしくない。
おかしくはなかったのだ…
「え?」
彩霞の持つ剣にオーラようなものが纏わりつく。
「『霧散万霞』」
聞いたことのない技名に疑問を覚えたのは一瞬だけだった。
彼女が剣を振るうと、放たれた砂は慣性を失ったように、霧散していく。
その光景に考えていたことがすべてとび、思わず声を漏らす。
「嘘…だろ」
「東雲君って、油断しちゃいけないタイプだね。今のはムッときたけど、そうだよね…実戦ならどんな手段を使っても文句を言えないよね」
動揺が顔に出ないように気を引き締める。
「対抗戦で『剣気』を見るとは思わなかった」
「私だって、紗優ちゃん以外に使うつもりはなかったよ。他の子だって、皆平等に戦えるように『魔法』とか使ってないでしょ?」
彩霞の言葉で、これまでを振り返る。
確かに誰も魔法を使っていない。
せいぜい、身体強化ぐらいだった。
「だからって俺に使うか?」
「強いじゃん。それに、それ…『祝福』でしょ」
「……」
「あれだけ身体能力高くて、激しく動いてるのに、東雲君からは魔力の流れを感じないもん。…でも、ちょっとおかしくないかな?『祝福』を持ってても、身体強化は使えるはずなのに、なんで東雲君からは《《一切の魔力の流れを感じない》》んだろうね」
これだから『十二天』相手なんてしたくないんだ。
戦い方を見るに、おそらく最初から知ってたな。
はぁ…十中八九、ハルの仕業か。
「なんでだろうな」
「ふーん」
まあ、見え見えな時間稼ぎだが、付き合っておこう。
この感じだと、風見は後ろに移動するだろうな。
「君は強いけど、ごめんね。この戦いは私が…私たちが勝つよ」
「そうか。それはそうと、さっきの3組の中にハルがいなかったんだけど。どこにいるんだろうな」
「えっ…。えっと、教えないよ」
あ…。
とんでもない勝機を見つけてしまった。
「そういえば、風見や彩霞たちも、2組の方から来てたなー」
「そ、それを言っていいのかなー?クラスの場所、バラしてるんじゃないかな?」
白々しい。
こっちはすでに美香のメッセージを確認している。
あれでクラスの位置を特定できない知能なら、2組は3組に負けない。
なら――
「ふっ…」
思わず悪い笑みをこぼしそうになり、咄嗟に口元を手で押さえる。
さて、風見…そろそろ仕掛けてこないと、この子はすべてを教えてくれそうだぞ。
「もしかしてなんだけど、3組はとっくに2組の場所に当たりを付けていて、待ち伏せを企んでるとか」
「そ、そんなことはないよ」
彩霞の声のトーンはどんどん不安定になっていく。
本当にこの子わかりやすいな…。
「あ、そういえばさっき姿が見えなかったハルは、すでに2組の近くで息をひそめていたり?あいつ、気配消すの上手いしなぁ」
「ハ、ハル君は、多分…えっと…」
どうやら、俺の予測は当たりとみていいようだ。
近くにあった木を根元から切り裂き、そこからさらに4等分に分割する。
「うわ…すごい……」
彩霞は感心した様子で見てくる。
よかった…どうやら好奇心が働いてくれているようだ…。
攻撃が再開されないように、素早く同じ動作を3,4回繰り返す。
「ちょっと、東雲…君?それは、何かな?」
3組の連中の行先と、風見たちが現れた方角はなんとなく記憶している。
結乃たちは魔力を温存しつつ移動するはずだから……
「あのへんか…」
「あのへん?ちょっと本当に何――」
ちょうどいい感じの重さになった木を思い切り、上空に投げ飛ばした。
「ふんっ!」
「はえ?」
「は?」
彩霞と姿の見えない風見の間抜けた声が聞こえた気がしたが、気にせずに次々と投げていく。
運が良ければ3組に当たるし、悪ければ2組に当たるだろう。
ただ、結乃の知能ならこの行動の意図に気づいてくれるはず。
すべて投げ終え彩霞の方を見ると、飛んでいく木を呆気にとられた表情で眺めていた。
「俺を倒さないといけないんじゃないのか?」
「…ハッ!そうだね!」
彩霞は慌てて剣を構える。
さて…問題は俺だ。
せめて風見だけでも…と思ったが、彩霞が厄介すぎて正攻法じゃ無理そうだ。
「行くよ!」
彩霞が接近してくる。
このままだと彩霞と幾度も剣戟を繰り返しつつ、風見を警戒するハメになる。
まず俺に勝ち目どころか、逃げ道すらない。
だから、チャンスは1回だ。
「見せてあげる!本場の彩霞流の技を!」
彼女の構えから、技はすぐにわかった。
彩霞流『幻失秘刀』。
彩霞流の最高難度の技を見せてくれるとは、やはり天才と言われるだけはある。
ただ――
「嘘っ!」
俺は彩霞と全く同じ動きで、刀を振るった。
(彩霞流『幻失秘刀』)
彩霞の剣と俺の刀の切っ先がぶつかり、微細な力点の差で武器の軌道がズレる。
そこから、手首を捻りつつ、彼女の剣の刃をなぞるように刀を滑らせた。
このままいけば刀は彩霞に届く。
だけど――
「そうはさせないよな」
「唯!」
背後から風見の叫び声が聞こえた。
その瞬間、彩霞本人ではなく剣を力強く弾き体勢を崩させる。
そして追撃せずに、一直線に風見へ向かって走った。
「っ!辰馬っ!ダメ!!」
彩霞の叫びは遅く、すでに風見は俺に向かって木の上から弓を引いていた。
彩霞は体勢を崩しているから俺に追い付けない。
決めるなら今だ。
「くそっ!」
風見の放つ矢を刀で叩き落す。
「なんでそんなに落せるんだよっ」
悪態をつく風見は、他の木に飛び移ろうとしていた。
逃がしてたまるか。
風見の乗る木を根元から切り裂き、足場を不安定にする。
「うぉっ。ほんとに馬鹿力だっ」
風見は空中に跳躍し、そのまま弓を引く。
彼ならあの体勢でも、的確に射抜いてくるだろうな。
でも、やっぱり文明の差が出た。
「っ!?」
刀を手放し、空いた手をポケットに突っ込みつつ、風見に向かって銃口を向けた。
「銃と弓、どっちが早いかな」
悔しそうに顔を歪める風見に、引き金を引こうと指に力を入れたその瞬間――
「させないっ!」
距離はかなり離れていたはずなのに、気づけば正面に彩霞がいた。
「ぐっ!」
彼女の一閃は、俺の展開していた障壁をいとも簡単に砕いた。
「くそっ!」
腹の奥底から声を出しつつ、その場に膝をつき地面をたたく。
「ナイス唯」
「辰馬もね」
二人は俺の目の前でハイタッチをし、喜びを共有していた。
「いい戦いだった」
「本当だよ」
そう言いつつ、二人は俺に近づいてくる。
なんかいい話で終わらせようとしているな…と思いつつ、口には出さないように俯いたまま黙る。
「東雲は相当強かった。ごめん、噂を信じすぎてたよ」
「うん、自信もっていいよ」
静かに手を差し伸べてくる風見を見る。
その瞬間、心臓の鼓動が強くなり、同時に背徳感に襲われた。
それでも、やるべきことから目を背けるべきじゃないんだ。
気取られないよう、至って自然なトーンでゆっくりと口を開く。
「謝るのは俺の方だよ、風見。俺は卑怯な奴だ」
俺は左手を目立つように動かしながら壊れた障壁コアを落とす。
「……え?」
「……は?……っ!!離――」
「もう遅い」
素早く近くに落としていた刀を握り、風見に向けて振りぬく。
「ぐぁっ!」
風見を守るようにして展開された障壁は、呆気なく砕け散った。
――紗優視点――
「おや…、折角一人で来たのに誰もいませんか…」
木々のない開けた空間の真ん中には巨大な箱がある。
地面を注意して見ると、足跡が若干残っており、そこから2組のほぼ全員が3組の方へ移動した事が予測できる。
「2組の指揮はかなり優秀な人物のようですね…。それで、2組が…結乃と東雲君がいない以上、あなたが暇つぶし相手になってくれるんですか?望さん」
「えぇ―、バレてたの?」
背後の木陰から望美香が軽い足取りで現れる。
「バレるも何も、見つけてほしかったんでしょう?そうでないなら、ほんのわずかに魔力を放つなんて事、しなくていいですよね?」
「あ、バレてた?流石さゆっちだね」
望美香とは、ほぼ初対面に近しいはず。
そこから考えるに、望さんはかなり距離感がおかしい人種だと理解できる。
「それで、何用ですか?」
正直、彼女のようなタイプは苦手だ。
何を考えているのかわからないというのは、不気味以外の何物でもない。
「んっとね。別に戦いに来たわけじゃないんだよ?だって私障壁コアあげちゃったし」
「コアを?」
「凪っちにね」
彼女と東雲君が接触したとするなら…2組はもう3組とぶつかっている可能性があるということになる。
いや、それ以前にこの状況はおかしい。
なんで望さんはこの場所に一人で来ていて、コアを東雲君に渡すなんて行動に出ているのか。
「望さんも理解しているはずです。障壁コアをなくした場合も破壊されたときと同様、失格になります」
「美香で良いよー、堅苦しいの苦手なの。で、さゆっちたちは頭が固いなぁ。なくしたんじゃなくて、預けたんだよ?それとさ、私も気になったんだけどさ、さゆっちってクラスの位置最初から知ってた感じだよね?」
「隠すまでもありませんよ。ただ、私は《《聞いただけ》》です」
そう答えると美香は一瞬だけ目を見開く。
「あー。あはっ、あははは。そういうことね。確かにっ!主要なルールの説明がメールのみって時点で気づくべきだった。あーあ、私も先生にエリアの説明を聞きに行けばよかったなー。他に誰か聞いてた?」
「私の見ていた範囲では、誰もいませんでした」
「だよねー。普通、ルール説明がないなら、対応能力を試されてるなんて思考になるよねー」
平然と会話をしているが、まだ彼女を信用できない。
コアを東雲君に渡したと言っているが、それも本当かはわからない。
それに、なんで彼女は私に付きまとうのだろうか。
「あ、そっか。さゆっちは勝つつもりだからゆっくりできないよね。ごめん。すぐに本題に入るね」
「そうしてくれると助かります」
一瞬にして、美香の雰囲気が変わった。
先程までの人懐っこさが消え、まるで機械…いや結乃のような…。
「いつまでゆのっちの真似事してるの?」
「………」
辛うじてポーカーフェイスは崩さなかったが、言葉が咄嗟に出なかった。
喉の奥に何かが詰まったような感覚と、心が苦しくなる感覚で感情の処理が追い付かない。
「前から思っていたんだー。さゆっち喋りにくそうだもん。一応言うけどさ、そんなことしたって、結乃っちは救われないんじゃない?」
「…美香さん、あなた――」
私が最後まで言う前に障壁コアが震えた。
今この時も戦況は絶えず変化していく。
敵意のない美香をこれ以上相手するのは、良い選択とは思えない。
障壁コアの通知を見て、思わず目を見開いてしまう。
「どう?私の障壁コア壊れてる?」
「……えぇ」
「そうかー。凪っち、ちゃんと使ってくれたんだ」
障壁コアの通知画面には[3組の望美香の障壁コアの破壊を確認]と出ている。
「私は観戦に行こうかな」
そう言っている美香のもとに一羽のカラスが飛んできた。
「おー、カラス。ん?」
〈望さん、失格したので障壁コアに表示されている位置に移動してください〉
カラスの首元についている小型のスピーカーから声が聞こえた。
おそらく『英専』の教師の誰かだろう。
「障壁コア渡しちゃった」
〈……案内します〉
「ありがとうございます。じゃーね、さゆっち」
美香はそう言って、森の中へ歩き去った。
彼女がいなくなってからも、結乃を救うことはできない、という言葉が頭から離れてくれない。
「人の気も知らないで…」
思わずこぼれたその言葉で、逆に冷静になった。
「ふぅ…」
深呼吸をして気持ちを切り替える。
私が取り乱すワケにはいかない。
対抗戦を1組の優勝で終わらせるためにも。
――明石視点――
「本気なんだね?」
「はい」
結乃さんの提案したことは、僕たちと別れて単独で行動し東雲君と合流するというものだった。
確かに『祝福』を持った生徒が貴重な戦力になるというのはわかる。
でも彼女の東雲君への想いはそれ以上の何かを感じてしまう。
「……」
深く考えれば考えるほど、表情を一切変えない結乃さんの異常さに恐怖を覚えてくる。
「明石さん?」
「っと、ごめん考え事してた。どうしたのかな?」
「囲まれました」
「え?」
静かにそう言った結乃さんは、手に剣と銃を持ち僕の背後を見る。
思考が追いついた瞬間、全員に聞こえるように言い放つ。
「皆!周囲を警戒してくれ。囲まれている」
僕の言葉を聞いた長石や鍵谷たちはすぐさま武器を構え周囲を見回す。
「多分3組だ。リーダーを守――」
「明石!天宮!」
鍵谷の叫びに反応し、彼へ視線を向けようとした時、地面に大きな影ができていることに気づく。
「ん?」
「明石君!天宮さんが!」
長石さんの声で天宮さんを見る。
彼女は空を見たまま固まっている、その向こう側で男子生徒が剣を片手にこちらに向かってきているのが見えた。
「天宮さん、正面に敵!」
くそっ!
あの男子生徒はどこから現れた?
ここからじゃ間に合わない…。
天宮さんがせめて周囲の警戒をしてくれてれ…ば……。
いや、それこそおかしい。
天宮さんが意味のないことをするか?
「…くる」
天宮さんがそう呟く。
ふと、視界を落とし地面を見ると、あたり一面が暗くなって…。
「っ!?」
違う、これは影だ。
咄嗟に上を向く。
「は?」
目の先には、こちらに向かって勢いよく落下してくる木々があった。
頭が理解するより先に、全力で叫ぶ。
「皆!上だ!!」
僕の叫びが響いた直後、天宮さんに襲いかかっていた男子生徒に、空から降ってきた木が直撃し障壁が割れた。
※剣気
定義が定まっておらず、魔力のない人物には使えないことから、人によっては魔力とも言われている。
※現在のポイント
・クラス
1組 6p 残り9人
2組 14(4)p 残り7人 リーダー 天宮結乃
3組 -3(2)p 残り7人 リーダー 風見辰馬
〇 望美香の障壁コアは同クラスの彩霞が破壊したため0p
〇 最後の男子生徒は計算外
〇 リーダーのコアを破壊時、破壊者は10pt、壊された側は-5
・個人 TOP5
1 東雲凪 14pt
1 天宮紗優 6p
2 望美香 2p
4 4以下は0pのため非表示




