接敵
ほぼ当てずっぽうだったが、運が良いことに3組の生徒を発見した。
すぐさま走るのをやめ、物音を立てないよう慎重に移動する。
「2組が来る前に待ち伏せするか。どうせ向こうも俺たちと1組の位置を把握してんだろ」
そっと木陰から会話をしている二人の男子生徒を観察する。
「そうだな。ただ、2組の奴ら1組方面へ攻めに行ったなら…」
「まさかまさか、2組に強いやつとかいたっけ?」
「んー、実際見たわけじゃないけど明石は60、長石は70越える魔力量だったらしいぞ?」
「へぇー。あ、そういや聞いたわ。噂になってたもんな」
美香のようなヤバイ雰囲気はしない。
刀の鞘に手をかけつつ、周囲の様子を確認する。
気配も物音もしない。
正直、ここで戦ってもいい。
でも、3組が3km圏内にほぼ全員いる現状で、一人の脱落ですぐに全員が…ここに……。
(いや、これは使える)
刀を抜き、高く跳躍する。
「っ!?おい!後ろ!!」
「え?」
「はっ!」
刀を振りぬく。
「ぐぅわ!」
片方の生徒に直撃し、障壁は一瞬で緑から赤色に変色した後、砕け散る。
その勢いを維持したまま、もう片方の生徒の障壁も割ろうとしたが、さすがに回避された。
「誰だっ!」
コアが振動したため、画面を確認する。
[3組の吉田健司の障壁コアの破壊を確認]
画面にはそう表示され、所有ptも2になっている。
「なるほど、こういう感じか」
「おい健司!くそ…」
健司と呼ばれた男子生徒は、ぐったりと横たわっている。
支給されている武器は刃が無いからといって、力を入れすぎるのも良くないのかもしれない。
「お前、何組だ?」
どうやら相手は俺の顔を知らないらしい。
試しに1組を装ってみることにした。
「俺は1組――」
「――違う。そいつだ!噂になってる2組の魔力9の奴!」
「えー…」
障壁を割られ失格になった健司は、もう片方の男子生徒に叫ぶ。
実質、死人のような立ち位置なのに、情報残していいのかよ…。
「第一、風見が言ってたろ。1組は天宮紗優と六谷以外は全員初期地点だって」
「え?そうなの」
予想外の一言に驚くと同時に疑問が生まれる。
なぜ、そんな情報を3組が知っているのだろうか。
美香のメッセージにも、六谷に関連する報告しかない。
まさか…結乃のメモにあった『スキル』が関係しているのか…。
「もう使うハメになるとはなっ!」
目の前の男子生徒が空に向かって銃を撃つ。
その隙に距離を詰め、障壁を割ろうとしたが、盾で防がれてしまった。
「くそっ!馬鹿力が!」
体勢を崩しながら後退する男子生徒に追撃をしようとした瞬間、どこからか風を切るような音が聞こえる。
「…なんだ?」
耳を澄まして、音の発生源を特定する。
「…これ、上……っ!?」
視線を空へ向けると、無数の矢が見えた。
「嘘…だろっ!」
正面にいた男子生徒は盾を上に構え、防御している。
そのための盾か。
「はっ、残念だったな。お前は脱落だ」
「まだ決まってない」
呼吸を整え、上空にある矢を注意深く見る。
(最初に降ってくるのは…あれか)
刀を構え、矢を待つ。
そして、矢が刀の射程圏内に入った瞬間、矢を弾いていく。
1つ…2つ、3つ…。
頭や胴体に直撃しそうな矢を優先して弾き落とす。
その間、障壁コアの自動障壁機能が複数回発動していた。
「はぁ…」
矢の雨を、どうにかやり過ごせたことに安堵しつつ、状況を確認する。
掠ったのが少し怖かったが、障壁はまだ緑色と余裕がある。
安心できたのはその一瞬だけで、俺の思考はすぐに嫌な結論を導く。
弓矢での攻撃…、現代の流派で唯一弓術を扱っているのは…
「風――っ!!」
背後から木が砕かれるような音がし、咄嗟に再度ステップで回避行動をとる。
直後、ものすごい勢いで矢が真横を通り過ぎ、正面にあった木に握りこぶしぐらいの空洞を作る。
「勘、かな?良く避けたね」
声のする方へ視線を向ける。
そこには、黒髪のウルフヘアが特徴的で、手に弓を持った男子生徒の姿があった。
流石の俺でも、彼のことは知っている。
「風見…辰馬」
「そうだよ。君は誰かな?」
「2組の東雲凪だ」
「へぇ、君がハルの親友か。ちょっと申し訳ないけど、脱落してもらうよ」
弓を構える風見に近づこうと一歩踏み出す。
「風見、気を付けろ。あいつ、かなり動けるぞ…」
やり損ねた男性生徒が、盾を構えて風見の横についた。
厄介極まりないな。
「そうみたいだね。でも大丈夫。油断はしない」
周囲に微かな物音と、人の気配…それも一人や二人じゃない。
流石『十二天』。
こんな目立たないし、魔力も9程度の生徒相手にも全力ってわけか。
俺は腰の銃を確認し、薄ら笑いを浮かべる。
「油断?弓使いが前に出ておいてそれ言うか?」
「ん?」
先手必勝という言葉は実に素晴らしいものだ。
そう思いながら素早く銃を手に取り、銃口を風見へ向ける。
「――結乃、使わせてもらう」
引き金を引いた瞬間、砂と無数の小石などが風見へ向かって放たれる。
彼は咄嗟に障壁を展開した。
「っ!読まれたかっ!皆、攻めろ!」
周囲の木陰から3組の生徒の姿が現れ、こちらへ武器を持って突撃してくる。
(1…2…3…4…5人か。ハルの姿はない)
本来なら逃げるべき状況なのだが、あるものを目にしてから考えが変わった。
結乃特製の銃の攻撃を防ぐために展開された障壁。
その時、たまたま視界に入った風見の障壁コアは、結乃の物と同じ装飾がされていた。
要は――
「狙うはリーダーだろ!」
思い切り大地を踏み、風見の元まで接近する。
他の生徒なんて知ったものか。
「なっ!はっや!」
風見は矢を手に持ち、対抗しようとするがその行動は間に合わない。
俺の刀が届く方が先――
「危ないっ!」
「!?」
突如として現れた女子生徒は、俺に剣を振るってきた。
風見への攻撃を即座に諦め、迫る剣を防御する。
「くっ…、嘘だろ」
不意打ちに近い形だったため、完全に防御することができず、障壁にダメージが入ってしまった。
障壁が黄色に変色したことから、一撃すら警戒しなければならない。
それ以上に最悪なのは…
「辰馬、大丈夫?」
「ああ、助かったよ。唯」
『十二天』風見辰馬と彩霞唯がそろってしまったことか。
「彩霞流『刻旋花』。やっぱり本物は違うな…」
「ん?もしかしてうちの流派の人?」
「いいや。昔、師匠に彩霞流を教えてもらったことがあるだけで、正式には学んでいない。ある程度知識があるだけだ」
彩霞は驚いた表情でこちらを見てくる。
やはり剣士どうし、お互いの練度はなんとなく見抜けるか。
「へぇ…。辰馬…下がって」
彩霞の顔は少しだけ険しくなっていた。
「えーっと、名前教えてもらえる?」
「東雲凪だ」
「東雲君ね。とりあえず、うちのリーダーがお世話になった分のお返しをするね」
彩霞がそう言って剣を構えると、周囲の生徒たちが俺に近づいてくる。
そう言えば周囲の生徒忘れてた…。
これ、本格的にマズイいんじゃ…
「皆、彼は私と辰馬に任せて。プランBに変更だよ」
彩霞の言葉を聞いた3組の生徒たちはこの場から走り去る。
(流石に俺一人に全員のヘイトは集中させてくれないか)
ここまで目立つ行動をした理由の一つに、結乃たちに意識をヘイト向けさせないというのがあったのだが…抜かりないな。
ただ…風見と彩霞が残ってくれているなら、向こうでも対処は可能のはず…。
だからこそ、俺は自分のやるべきこと…風見辰馬を脱落させよう。
あの弓術が、今の2組に向けられるのはマズすぎる。
最優先で倒したいのだが…
「こっち見なよ。私だって、あなたの敵だよ?」
風見を見ていた俺の視線の先に、彩霞が立った。
「一筋縄じゃ行かないよな」
頬を伝う汗をぬぐい、気を引き締めた。
――結乃視点――
「東雲、早すぎじゃね?」
「そうだね。そろそろ追いついてもいいころだと思うんだけどね」
私たちは東雲君の進行ルートから少しずれて、3組の転移場所へ最短ルートで移動していた。
「まだ走れますか?」
「あぁ、男子は問題なし」
「女子も大丈夫よ。そこまでヤワじゃないわ」
皆、努力して『英専』に入学してきた事を再認識する。
少し、甘く見すぎていたようだ。
それはそれとして、つい先程、障壁コアの通知に3組の脱落者が表示されていた。
東雲君が接敵した可能性が高い以上、私たちも少し急ぎ目に――
「なに…あれ……」
長石さんが空を指さした。
全員の視線がゆっくりと、上空へ向けられた。
「ん?なんだ、あれ…」
はっきりとは見えない。
何か棒のよう…な……。
強く心臓が鼓動すると同時に、口を開く。
「皆さん、全力で移動しましょう。東雲君はおそらく風見さんと接敵しました」
「嘘だろ」
「マズいね。東雲君が脱落しちゃったら、風見君の警戒をしないといけない」
長石さんの言う通り、東雲君が風見さんのヘイトを買っている今がチャンスだ。
そこまで考えた時、脳裏にある作戦が過る。
それは東雲君の賭けよりもはるかに重要なものだ。
「天宮さん?」
考えこむ私を見て心配したのか、長石さんが声をかけてくる。
「すいません。……皆さんはクラス順位…1位を狙っていますか?」
「え?そりゃもちろん」
「うん、とれるなら…ね」
私は一度深呼吸をし、慎重に口を開く。
「賭けませんか?私に」
※現在の得点
・クラス
1組 6p 残り9人 リーダー 天宮紗優
2組 2p 残り7人 リーダー 天宮結乃
3組 2p 残り9人 リーダー 風見辰馬
・個人 TOP5
1 天宮 紗優 6p
2 望 美香 2p
3 東雲 凪 2p
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