避けるべき人物
俺の発言で、この場のほぼ全員が唖然としている中、鍵谷と明石が口を開く。
「東雲、『祝福』持ちだったのか」
「え?じゃあ代償ってもしかして…」
どうやら、代償という言葉と以前の魔力測定で俺の出した9という数値が全員の中でつながったようだ。
「大体予想はついてると思うが、俺の『祝福』は魔力量の大半を代償にした、五感と身体強化だ」
結乃の様子を伺う。
普段の結乃なら追求してきそうな発言だったが、特に何か言ってくる気配がない。
俺に合わせてくれているようだ。
「……もう少し早くみんなに伝えていたら、あんなことにならなかったのに…」
明石が小さく呟く。
あんなこと…おそらく魔力測定の件を指しているのだろう。
「あまり目立つのが好きじゃないんだ。結果的には変わらないぐらい悪目立ちしてるけどな」
「あはは…」
明石は「自覚あったんだ」と言い、苦笑いする。
「その話は置いといて。『祝福』があるから、魔力量の変化で戦力は変化しない。つまり、他の奴が動くよりは効率的だ」
「…たしかに」
「そうだな。というか、早く決めないと天宮紗優が向かってきてるんだろ?」
鍵谷の言う通り、ここにいたら、そう遠くないうちに紗優達が来る。
あの圧倒的なカリスマリーダーが率いる1組に奇襲、待ち伏せなんてされたら2組じゃ到底勝てない。
良くて半壊、悪くて全滅だろうな。
障壁コアを取り出し、結乃に確認をとる。
「これ、メールみたいな機能があるんだっけか?」
「そうですね。ただ、メールを送信する相手と離れすぎるとダメみたいです」
結乃の見せてくる画面には、『メールの送受信は3km範囲内の同クラスメンバーのみ可能』とメッセージが表示されていた。
本当にこの試験はタチが悪い。
情報は手探りで、文明の利器の使用も最小限に制限されている。
多くのプロハンターを輩出するワケだ。
「その…、悪かった東雲」
「え?」
いきなり謝罪をしたのは高山だった。
どこか気まずそうに、髪をいじりつつ口を重々しく開く。
「私も少し、警戒しすぎた…というか…ひゃっ!」
高山の頬を誰かの手が包む。
驚いた高山は、可愛らしく悲鳴を上げた。
「ほら、東雲君。英子って可愛いでしょ?別に本気で東雲君を嫌ってるとかじゃないの。だから、ね?」
「ね?じゃない!あゆみ何してんの!」
高山の肩に優しく手を置き、長石あゆみは微笑みつつ俺を見てくる。
その視線は優しそうに見えて、どこか計画深さを感じる。
全く、油断できない学校だ。
「誤解はしてない。高山は仲間思いって聞いたから、その警戒も当たり前の反応だ。だから、気持ちを切り替えて、作戦に協力してくれ」
「っ、わかった」
クラスの雰囲気が少し和んだのがわかった。
これはいい傾向だが、相手が相手だ。
どこまでいけるものか…。
「東雲君」
「ん?結乃、どうした?」
静かに横に立つ結乃に内心驚きつつ、表に出ないように冷静に訊く。
「少し時間…貰ってもいいですか?」
結乃について行った先は2組の転移場所からそう離れていない森の中だった。
そこで彼女は無言で砂をかき集める。
「え?何してんの?」
「見ての通りです」
見ての通りと言われても……。
複数の砂の山ができたあたりで、結乃は銃を取り出す。
「気になってたんだけど、それ本物?」
「いえ、対抗戦用なので、本物並みの殺傷能力はありませんよ」
そう言いつつ、彼女は銃から3発分の弾を取り出す。
「……」
結乃は片手に銃弾、空いている方の手で砂に触れる。
次の瞬間、彼女の両手が発光する。
「なっ!」
これは以前にも見覚えがある。
結乃のスキル、『合成』を発動したときの光だ。
反射的に閉じた瞼を上げ、状況を確認する。
彼女が触れていたはずの砂は消滅し、片手に銃弾のみが残った。
「『合成』か」
「はい」
結乃は無機質に返事をしつつ、手に残っていた弾を銃にリロードし、こちらに差し出してくる。
「えっ、それ俺用なの?」
「そうですよ。3組との交戦を想定するなら、これは役に立ちます」
「役に?」
「はい。私の『合成』で弾の内部に砂を込めました。引き金を引けば、砂を前方に拡散する疑似的なショットガンになります」
「ショッ…トガン??」
「威力は期待しないでください。せいぜい視界を妨害する程度が限界です。ただ、近距離なら障壁を壊す可能性はありますね」
「いや、え?ごめん、頭がついていってないわ」
俺は頭の回転は速い方だと思っていたが、さすがに理解できない内容だった。
「すいませんが、ゆっくりと説明している時間は無いので、好奇心は抑えてください」
「…それは、そうだけど…。いや、そうだな。ありがたく使わせてもらうよ」
「はい」
結乃のスキルは戦闘向きとは言えないが、応用が効きすぎる。
シンプルに敵じゃなくて良かったと思う。
「箱の中には帯刀ベルトのようなものが複数ありました。移動を意識するなら取っておいたほうがいいと思います」
「そうだな。流石に刀と銃の両手持ちはキツいしな」
そう言いつつ、ベルトを取りに行こうとした俺を結乃は引き止める。
「東雲君」
「ん?」
「先行は良いですが、無理と思ったら引いてください。後ろには私や明石さん達がいますので」
彼女なりの心配というやつか。
「あぁ、分かってる。全力で頼るよ」
「はい」
そう言って結乃に背中を向ける。
頼る…か。
いつぶりだろうな、こんな事言ったの。
脳裏に優の背中が過ぎる。
「っ、集中」
自分に言い聞かせるようにそう言い、頬を強めに叩く。
まずは目の前のことに集中しよう。
◇
結乃と明石に後のことは任せ、俺は一人森を進んでいく。
「もう少し…右に寄ったほうがいいか…」
走りつつ、進行方向を考えていたその時――
「っ!?」
正面の木陰から、ほんのわずかな気配と物音がした。
咄嗟に足を止め、鞘に手を伸ばす。
「誰だ?」
強く鼓動する心臓の音、首筋を伝う冷や汗を嫌というほどに感じる。
走ったからじゃない、本能が恐れを感じたんだ。
「すごいねぇ、なんでわかったの?」
どこか浮遊感のある声の主は木陰から軽い足取りで出てきた。
淡いピンク色のミディアムヘアと、どこか不穏さを感じる淡い紫色の瞳が特徴的な女子だった。
見たことはある…確か3組にいた。
誰だ…
「五感が鋭い方なんだ。で、俺の質問に答えてくれ。誰なんだ?」
「ひっどーい、私はあなたを覚えているのに、あなたは私を覚えてないんだ」
「覚えるも何も接点ないだろ」
「それもそっか。じゃ、改めて。私は望美香だよ」
望…。
ふと結乃のメモを思い出す。
3組の魔力量が多く、不明な点が多いって結乃がコメントしていた人物だ。
「嘘だろ…」
こんなピンポイントで会う事なんてあるかよ…。
心の中でツッコミを入れるも、現実は変わらない。
この状況、どうするのが正解なんだ…。
「私ってそんなに存在感ないかな?」
「いや、俺が周囲を見てなさ過ぎたのが原因だ」
「凪っちも確かに大変そうだよね」
「凪っち?…望――」
「美香って呼んでよ」
なんだこの距離感は…。
「み…美香は何で俺に興味なんて持っているんだ?悪目立ちしてるからか?」
「んっとね、それもあるよ。でもさー、『自分は弱くて無能です』、『人生生きる意味が分かりません』みたいな顔を毎日飽きもせずしてれば、気にもなるよ?」
「は…?」
思考をする暇もなく、美香は木の枝を投げてきた。
「っ!」
木の枝は俺の頬を掠め、背後に飛んでいく。
〈ガァ…〉
何かの鳴き声が聞こえたと思ったころには、美香は俺の目と鼻の先にいて、剣を喉元に突き付けている。
「ほーら、ね?動揺しすぎだよ」
「…なんで寸止めなんだ?もう少しで、俺を倒せるのに」
そう問いかけると、美香はそっと俺の耳元で囁く。
「…刀を握るほんの一瞬、凪っちってさ、どうしてそんな苦しそうなのかな?」
呆気にとられた俺の体を美香は押し、距離をとった。
「私、別に対抗戦に興味ないんだ」
理解が追い付かなかった。
彼女の目的が、言動の裏にあるはずの真意が一切見えない。
「でもね、楽しめそうなものを見つけたよ。ポケット、触ってみて」
美香の指示通り、ポケットの中に手を突っ込んでみる。
「は?」
そこには俺のじゃない障壁コアがあった。
「どういうつもりだ?」
「深い意味はないよ。ただ、私が楽しみたいだけ。凪っち、私のコアの分、ちゃんとこの対抗戦を面白い結果にしてね」
そう言って、どこかへ歩き去ろうとする美香を引き留める。
「美香」
「ん?」
彼女の行動の意味を訊く行為が無駄というのは理解できた。
ただ、気になることがある。
「コアを渡したの、なんで俺なんだ?対抗戦に興味がないなら、適当にクラスに協力するとか、手っ取り早く他のクラスの戦力を削ったりとか、美香ならできたんじゃないのか?」
一瞬にして美香の雰囲気が変わったように感じた。
「だって…障壁なんてあっても…」
喋り始める美香は徐々にこちらへ振り返る。
そして、先ほどの美香からは想像もできないほど、鋭く冷たい視線が俺を射抜く。
「私、殺しちゃうから」
視線同様、その声は冷めきっていた。
無感情とは違う、憎しみのようなものを薄っすらと連想させる声だ。
「あ、凪っち。障壁の手動発動は知ってるでしょ?」
一気に美香は元の雰囲気に戻る。
「ん?凪っち聞いてる?」
「あ、あぁ…。なんかこのボタン押せばいいんだろ?」
「そうそう。じゃ、頑張ってねー」
姿が見えなくなるまで美香を見届け、先程鳴き声が聞こえたあたりへ視線を向ける。
「うわ…」
そこには喉元を木の枝で貫かれたカラスの死体があった。
美香の異常性を再度実感しつつ、ふと小さな疑問が生まれる。
「なんで美香、単独行動してるんだ…」
彼女から受け取った障壁コアの画面を確認する。
「っ!」
障壁コアの所有Pt数を見て、息をのんだ。
[望 美香 2p保有]
俺の知る限り、通知に合った失格者の名前は全部で4人。
そして、佐藤達を除いた脱落者は1組の六谷ただ一人だけ…。
「まさか…」
脳内で情報が繋がっていく。
3組方面へ向かっている最中での出会い、メールの送受信可能な3kmという範囲、望美香の2ptの所有…。
メール画面には、一通のメッセージの送信履歴があった。
宛先は彩霞唯…内容は――
『1組の六谷君を倒したよ。方角的には草原が1組っぽい。あとは任せたよー』
そして、メールの送信先を指定する画面では、3組の生徒ほぼ全員に送信可能という表示が出ていた。
「くそっ」
コアを即座にポケットに突っ込み、走りだす。
(何が対抗戦に興味がないだ。MVPじゃないか!)
3組が2組方面へ移動すると仮定して、現在地を予測する。
これでもし、俺が3組を見つけることができなかったら――
――2組は全滅する。
※現在の得点数 確認用(読み飛ばしても問題なし)
・クラス順位
1組 6pt
2組 0pt
3組 2pt
・個人 TOP5
?位 望 美香 2pt
6pt不明




