準備
「皆さんおはようございます」
朝のホームルームが終わってすぐ、1年は体操服に着替え、体育館で校長の話を聞いていた。
「以前より、担任から連絡があったと思いますが、本日はクラス対抗戦を実施します」
一部クラスメイトたちの視線が楠乃先生へ向いていた。
そう言えば、うちの担任がクラス対抗戦の説明をしたのは今朝が初めてだったな。
「入学前に配布している資料に記載があるように、この学校の恒例行事です。えー、私が長話をするのも何ですので、来賓の方々に挨拶にうつります」
校長がそう言うと、ステージの幕の裏から二人が歩いて出てくる。
「皆さんこんにちは」
「え?」
「あれって…」
「おいおい、マジかよ」
ライトに照らされ、明らかになった顔を見た生徒たちがザワつき始める。
それもそのはず、俺たちの前に立った人物は――
「ハンター協会の代表、賀茂憲明です。本日は皆さんのクラス対抗戦を見に来ました」
国内どころか世界でも数えるほどしかいない国家戦略級と認定された、現日本最強のハンター兼、ハンター協会の代表だ。
ただ、俺が驚いたのはそこではない。
賀茂憲明の横にいる、見知った顔の老婆…
「ミチ婆?」
思わず声が漏れた。
周囲の何人かがこちらを見てくる。
ミチ婆も俺に気づいたのか、優しく微笑んだ。
◇
クラス対抗戦前の、来賓の言葉と校長の話が終わり、10分休憩に入る。
ミチ婆は毎年、クラス対抗戦などのけが人がある程度出る行事の際、治療の担当として来ているらしい。
ミチ婆って結構顔が広いんだな、と感心していると結乃が歩いてくる。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
彼女はじっと俺の顔を見つめる。
その顔はもちろん無表情で、何を考えているのかわからない。
「東雲君、楠乃先生と何か企んでいますか?」
「…俺って考えてること顔に出やすいのか?」
「いえ、ただ今朝のホームルーム、楠乃先生とあなたの目が合う回数が多かったですし、先生の目は品定めするものに近いと感じたので…」
意外と正反対に見える紗優と結乃でも、こういう観察眼が鋭いところとかは似てるんだよな。
やはり血か。
「別に隠すようなことじゃない。上級ハンターの資格が欲しくなって、それで楠乃先生に頼んだんだ」
「…上級ハンターですか。確かに楠乃先生は推薦することができますね。ですが、あの人が簡単に推薦するとは思えませんし、なぜこのタイミングで東雲君が上級ハンターを目指すのか、理解できません」
楠乃先生の性格を理解しているな。
「そうだな。実際、条件は出された。クラス対抗戦で個人TOP3に入ることってな。上級ハンターの資格が必要になったのはお金の問題だ」
まあ実際、資金面で困っているのは事実だから嘘にはならないだろう。
「そうでしたか。必要なら私がお金を貸しましょうか?」
脳裏に悪魔のささやきが過る。
ここで結乃に甘えるのは人としてアウトだ。
「ありがとう。その気持ちだけで十分だ。ただ、いくら仲が良い友達だとしても、お金の貸し借りはトラブルの種になるからな?」
「?…わかりました。それにしても学年TOP3ですか…」
結乃は俺の体を見ながら考える素振りを見せる。
「結乃的にはどう?いけそう?」
「今年じゃなければ可能性はあったと思いますよ」
「…マジ?」
「はい。東雲君はどこまで対抗戦のルールを把握してますか?」
「クラスごとと個人で順位が出ること。あとは、ポイントの出し方の一部ぐらいしか知らないな」
ジト目で見てくる結乃の視線を感じ、顔を少し逸らす。
「そんな状態で…。まあ、いいです。簡単に説明しますね」
「…はい」
「東雲君の言った通り、ポイントの配転には、障壁コアの破壊と、戦術や知識という要素が関係するのは確かです」
「障壁コア?」
「はい、クラス対抗戦での必須アイテムで、身を守るための道具です。障壁コアは半自動的に展開されるので、展開された障壁の破壊によりポイントが割り振られます」
ほう…意外と単純なルールだ。
「その流れだと、障壁が破壊されたら失格って感じだろ?」
「そうですね。ただ、リーダーが持つ障壁コアの破壊では、ポイントが増えたりと、細かいルールはあるようです」
そう言いつつ、結乃はスマホをタップする。
数秒後、ポケットに入れていたスマホから振動が伝わってくる。
「ん?」
「今、クラス対抗戦のルールが確認できるPDFを送信しました」
「え?そんなものが…」
「クラスメールに流れている配布資料の中に紛れてますよ。重要な要素の半分は口頭で伝えたので、後は自分の目で確認してください」
「あ、ありがとうございます…」
正直、文字の羅列は見るのが面倒だから、結乃の口頭での説明はありがたい。
ルールに一通り目を通す。
「…個人評価に協調性があるな…」
「はい。そこがおそらくネックになると思います。東雲君は、クラスで浮いているので期待はあまりしない方がいいですね」
「……そ、そうだな…」
結乃もだろ、と声に出そうになるが堪える。
「そしてTOP3という目標を難しくしている最大の要因は、今年の1組と3組にいる一部の生徒ですね」
「やっぱそうだよな……」
1組には紗優がいるし、3組は…、あれ…。
そういえば、3組はハル以外知っている生徒がいない。
「なぁ、3組って何が危ないんだ?」
「てっきり東雲君は知ってると思っていました」
「正直、他のクラスまで見る余裕…」
ふと、脳裏にいつの日か聞いた同級生の会話が過った。
「……『十二天』」
「そうです。3組には2人います。一応、私視点での情報になりますが、それぞれの人の情報をまとめましょうか?」
「頼む」
「わかりました。少し時間をもらいますね」
「あぁ」
すごい勢いでメモを作成する結乃を片目に、楠乃先生を見る。
本当にいい性格した担任教師だ。
※以下は気になる人用
結乃のメモは最後に
〈クラス対抗戦のルール〉
・対抗戦中はチーム行動も個別行動も自由。
・指定されたエリアより外に出ない。
・『リーダー』は担任教師の指名でしか認められない。
・『リーダー』は専用の障壁コアを必ず携帯すること。
〇失格行為
1 自分用に配布された障壁が破壊された場合
2 障壁コアをなくし、自衛ができない状態の相手を意図的に攻撃した場合
3 同クラスメイトを意図的に攻撃した場合
4 投降の意志を表している生徒への過剰な攻撃など
5 障壁コアを無くした状態で一定時間が過ぎた場合、失格となる
〈ポイントの配点基準〉
〇(クラス)
試合終了時に〈クラスの残り人数〉×1+〈クラス内メンバーが破壊した障壁の数〉×2+〈クラス内メンバーが破壊したリーダー用の障壁コアの数〉×10
〇(個人)
戦術、知識、戦闘、協調性の4つの視点でみられポイントが付与される。
戦術 奇襲など戦闘においての立ち回りを評価
最大5
知識 地形や天候といった、外的要素の利用または応用
最大5
戦闘 技の練度や技術、判断力、基礎的な身体能力など
最大5
協調 チームワーク全般
最大5
上記のポイントに、破壊した障壁コア(リーダー用も含めて)の数のポイントを足し、個人ランキングを表示する。
リーダー用の障壁コアを破壊した場合のポイントは10とする。
リーダー用の障壁コアが破壊されたクラスは-5となる。
通常の障壁コアの破壊は1点
※備考 1学年全体&結乃が思う危険人物 メモ
1組
1 天宮 紗優 魔力量98 極力戦闘は避けてください。出会った場合も、逃げを優先することをお勧めします。
2 柏木 沙耶 魔力量23
3 茅場 和夫 魔力量66
4 榊原 光彦 魔力量44
5 篠原 瑞樹 魔力量71 彼女は魔法の扱いに長けています
6 白井 里香 魔力量20 白井は私と紗優の護衛としての役目を持っています。実力は正直、紗優と互角ぐらいあります。流石に皆の前では本気はないはず
7 内藤 寛太 魔力量33
8 仁科 結子 魔力量55
9 山城 小豆 魔力量44
10 六谷 健 魔力量10 彼は身体強化系の『祝福』があります
2組 (ほかのクラスが思う危険度メモ 結乃調べ)
1 明石 徹 魔力量62 危険
2 秋葉 頼一 魔力量24 ふつう
3 天宮 結乃 魔力量74 要注意
4 鍵谷 鷹 魔力量30 ふつう
5 佐藤 茂 魔力量45 少し怖い
6 東雲 凪 魔力量0(9) ウワサの問題児、弱い
7 高山 英子 魔力量49 少し怖い
8 長石 あゆみ 魔力量70 危険
9 浜口 力哉 魔力量34 ふつう
10 藤本 繭 魔力量44 少し危険?
3組
1 朝日 健司 魔力量22
2 彩霞 唯 魔力量32 彼女は十二天の一つ『彩霞家』です。できるだけ交戦を避けてください。交戦した場合、剣術に注意してください。
3 風見 辰馬 魔力量59 彼も十二天の一つ『風見家』です。できるだけ交戦しないようにしてください。彼の得意は弓なので、遠距離戦闘は危険です。
4 北川 政 魔力量43
5 月山 広幸 魔力量36
6 新田 晴馬 魔力量66
7 沼津 健二 魔力量61
8 望 美香 魔力量92 魔力量が異常な子ですが、情報がありまんせんでした、不気味です。注意してください。
9 吉田 健司 魔力量35
10 渡辺 公一 魔力量29




