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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
クラス対抗戦編

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決めたこと

「……朝か…」


 カーテンの隙間から漏れる日光により目が覚めた俺は、朝食を作るために1階へ降りる。

 結局、自分の家に帰りつくまで休む暇がなかった気がする。

 結乃のこと、ゲートのこと…考えることが山積みになってしまった。


「ん?」


 リビングに置いてあったはずの木刀の数が1本少ない。

 

「時雨か?」


 微かに庭から物音が聞こえた。

 舞花は朝に弱いから、弟の時雨が剣術の練習をしているのだろう。

 木刀を手に取り、庭へと向かう。


「はぁはぁ」


 庭の真ん中には、汗を流しつつ木刀をふるう時雨がいた。


「おはよう」

「ん?あ、兄ちゃん、おはよう」

「時雨、久しぶりに模擬戦してみる?」

「…やる」


 時雨は木刀を構え、俺から距離を取る。

 

「勝利条件は首に寸止めだ」


 寸止めは甘く見えるが、意外と難しい。

 全力で振ればできないし、手を抜きすぎても逆に隙を利用され、勝負にならない。

 割と判断とか力の制御の練習になったりする。


「先手は譲るよ」

 

 弟に先手を譲った瞬間、時雨は一直線に距離を詰めてきた。

 時雨と舞花には昔から剣術を教えている。

 正直なところある程度身につけば及第点、という感じに期待値は低めだった。

 しかし、いざ教えてみると二人とも才能があったみたいで、いつの間にか本格的に東雲一刀流を覚えるまでに成長していた。

 要は、油断できないぐらいには強いってことだ。

 目と鼻の先まで迫った木刀の刀身を最小の動作で躱し、反撃に出る。


「っ!」


 時雨は俺の木刀を受け流すことは不可能だと咄嗟に判断したのか、素早く後退した。


「兄ちゃん力強すぎ!」

「時雨、モンスターってのは人間よりも力の強い個体が多くいるんだ。それに、そこまで力、入れてないぞ?」

「馬鹿力!」


 時雨の文句が聞こえてくるが、手は抜かない。

 距離を詰め、木刀を天高く振り上げる。

 剣術の定番、振り上げからの体重を乗せた一撃。


「っ!」

「ふっ!」


 振り下ろした木刀が時雨の木刀とぶつかった。

 その瞬間、時雨が木刀の角度を変える。


「っ」


 そのまま、全身を緩やかに動かし俺の木刀を自身の木刀の刀身に沿って受け流した。

 そして、力強い踏み込みとともに放たれる――


「――一閃」


 強力な一太刀。

 動きはもう、熟練者と遜色がない。

 軌道がずらされた木刀で、咄嗟に時雨の木刀を弾く。

 

「力で勝てない相手への基礎技術『流動』、いい感じにできてるじゃないか。それに『一閃』は同年代で時雨に勝てるやついないんじゃないか」

「ありがとう兄ちゃん、でもそれはキモい」


 自慢のコンボを防がれ不満だったのだろう。

 

「別に落ち込む必要はないぞ。俺は時雨よりも体ができてるし、何より実戦での経験値がある。勝てなくて当然だ」


 時雨のそばに移動し、頭を撫でる。


「時雨は強い。これは保証する。ただ、いくら同世代の相手でも油断はするなよ。特に――」

「スキルもちと『祝福』を持ってる相手には。でしょ?」

「あぁ。…さて、型の確認をしようか」


 時雨と横に並び、深呼吸をする。


「東雲一刀流『山紫水明』、行くぞ。せーのっ」

「っ!」


 ほぼ同じくして、俺と時雨は木刀を振るう。

 風が…音が切られたことに気づかないぐらいのイメージで静かに、そして素早く。

 一振り…二振り…。

 横目で時雨の様子を見つつ、技を終える。


「ふぅ…」

「はぁ…、はぁ…」

「お兄もシグ兄もすごい!」


 いつの間にか舞花が起きており、俺たちに向かって拍手をしていた。


「舞花、起きたのか」

「はぁ…もう、無理」


 時雨はその場に座り込む。


「技はまだもたつきがあるけど、前より良くなったな」

「東雲一刀流の中じゃ簡単なんでしょ?」

「簡単?なの?」


 時雨の不満げな声に、舞花が首を傾げつつ俺を見てくる。


「ああ、簡単らしい…。兄ちゃんの師匠がそう言ってた。でも、簡単な技だからこそ、じっくり練習する必要があるんだ。戦いにおいて基礎の差と熟練度の差ってのは経験の次に重要になるからな」


 「へぇ」と納得しつつ、時雨は木刀を見つめる。


「兄ちゃんの師匠って、優凪さんだよね。こんな綺麗な技を編み出すってすごいね」

「違うぞ。『山紫水明』は数代前の東雲一刀流の使い手が、大自然の中で美しい景色、川の流れとかから着想を得て編み出した技らしい」

「え?そんなに東雲一刀流の歴史って長いの?」

「あぁ、まあ実際俺も見てきたわけじゃないから、真実は知らないけどな。でも、今主流の剣術の流派のほとんどが、数百年前から細々く継がれていたものらしいから、そう珍しいものじゃないだろうな」


 そう言って俺は軽く木刀を振るった。


「そういえば兄ちゃんってさ、東雲一刀流を教えてくれる時、なんか一瞬変じゃない?」


 はぁ…やっぱり時雨も目がよくなったな。


「それはきっと時雨の動きを見落とさないようにしているからだ」

「ホントに?」

「ホントだ」


 なぜか納得しない時雨に、表情を変えずに答えた。

 まったく、変なところばかり似てくるな。

 

「んー、まあいいや。それとさ、兄ちゃんって今日なんで気合が入ってるの?」

「ん?あぁ、今日は学校でクラス対抗のイベントがあるんだ」

「クラスたいこう?お兄が興味もつなんてめずらしー」

「普段なら興味は持たないんだけどな…」


 昨日のS級ゲートの攻略の話については、保留にしてもらった。

 紗優の話によれば、攻略隊は上級ハンター以上で構成されている。

 そんな中に上級ハンターの資格をもたない俺が入るのは場違いだ。

 それに……


『もし姫を救いたいなら、最後の試練を受けにこい』


 意識を手放す直前のラルドの言葉が気になる。

 他の誰かではなく、俺に最後の試練を受けにこいと言った。

 そして、それは姫…結乃を救う何かになると。

 状況を完全に把握できたわけじゃないし、何が最善かなんて分からない。

 だから、ひとまず上級ハンターの資格を取ろうと考えた。

 そうすれば、最悪の場合でも紗優たちについていく選択肢がとれる。

 ただ、そうすると一つ問題が発生する。

 それは上級ハンターの資格試験に規定されている年齢制限だ。

 基本的に18歳以上じゃないと受けられないのだが……


「ん?」


 舞花が何かに気づいたのか、家の中へ走る。

 

「お兄、電話」


 そう言って戻ってきた舞花の手には、俺のスマホが握られている。


「ありがとう。もしもし」

『あー、楠乃だ。ったく、昨日の夜遅くに連絡してきやがって』

「すいません。今日の朝まで我慢できなかったもので」

『ま、お前の年齢ならそのぐらい活発なのが普通なんだろうなぁ。で、上級ハンターの資格試験の推薦の件、受けてもいい』


 上級ハンターの資格試験の参加条件にある年齢制限、それは推薦という手段で無視することができる。

 推薦人の条件として、『資格挑戦者推薦適任者』という資格を持っている人物に限定されているが、運のいいことに『英専』の教師は半数以上が持っている。

 このチャンスを利用しない手はない。

 

『ただ、条件を一つつけるぞ』

「条件?」

『ああ。俺も教師だから、適当なやつを推薦はできない。だから、実力を示せ』

「実力…ですか?」

『あぁ、()()()()()()()()だろうが、そこは平等にしないとな。それに、タイミングがいいことに、今日はクラス対抗があるだろ。クラス順位とはまた別に、個人にも順位がづけがある。戦術、知識とかの観点とプラスαでポイントが割り当てられ、その合計点で順位を決めるんだ。とりあえず、学年3位以内を目指せ』


 学年3位以内…。

 実戦形式かつ正面戦闘なら、俺には実戦経験のアドバンテージがある。

 それでも紗優みたいに、才能に溺れず努力もしている人間が、そこそこいるのが『英専』だ。

 油断はできない。

 それに先生は先程、ポイントが割り当てられるといっていた。

 今回のクラス対抗戦、純粋な戦闘能力のみでは評価されないということだ。

 

「厳しい条件ですね」

『その年で上級になるってことは、この程度は乗り越えないとな』

「まあ、頑張ってみます」

『ま、ほどほどにな』


 通話を終了し、俺は木刀を握る。

 学校での俺の評価はここ最近で最低値を更新し続けていることだろう。

 ここから学年TOP3なんて結果を出してしまえば、いい意味でも悪い意味でもさらに目立つ。

 本音を言うと、目立つなんてごめんだ。

 ただ、もう決めたことだ。


「さて…いっちょ評価を覆すか」

「お兄おなかすいた」

「……そうだな。ごはん…食べないとな」

「やったー!」

「……」

「……」


 カッコよく意気込みをしようにも、キマらなかった俺に、呆れたような時雨の視線が刺さった。






※備考

『祝福』 体の一部や魔力などを代償に、突出した力を得る

     『スキル』同様、生まれつき代償を支払っている。(個人差あり)


剣術基礎

 初級 『一閃』 ←時雨が使用した

 中級 『流動』 ←時雨が使用した

 上級 『縮地』 

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