英雄と宝物
小説家になろうは初投稿です。まだ文章にも拙い部分や誤字脱字があるかもしれませんが、温かい目で見てくれると嬉しいです。
その日、常識は常識ではなくなった。
世界各地に出現した空間の裂け目、通称『ゲート』から異形の生命体が現れ、人々を襲い平和を壊した。
これにより、世界は大きな変化を遂げることとなる。
『魔法』や『スキル』という非現実的な概念が現実となり、『死』は誰しもが身近に感じるものとなった。
――2015年 ???視点――
ゲートの出現から、10年経った今でも、モンスターによる被害は減ることがない。
私は一人、人気の一切ない街を進んでいく。
「……」
ひと昔前だったら、異常ともいえるその光景は、今や見慣れたものだ。
〈ガァァァ〉
進行方向に狼に似たモンスターが現れる。
モンスターは口元から唾液を垂らし、いかにも飢えている。
「…」
視線が交差し数秒後、狼型のモンスターは勢いよく突進してきた。
それに対し、ほぼ無意識に鞘から刀を抜き、モンスターを切り伏せた。
「はぁ…」
刀に付着したモンスターの血液を拭き取り、鞘へ戻す。
「まったく、慣れないな」
再び足を進めつつ、周囲を見ては気分を落とす。
「ここは、酷い…」
苦痛の表情で息絶えている死体、あちらこちらから漂う血の匂い、さらには腐臭もある。
いつまで経ってもこれだけは慣れない。
いや、慣れちゃいけないものだ。
「はぁ…はぁ」
ふと、弱々しい呼吸が耳に入る。
「ん?」
振り向いた先には路地裏へ続く道がある。
足音を立てずに、そっと様子を確認した。
そこで、包丁を握ったまま壁にもたれかかっている少年の姿を見つけた。
近くには複数のモンスターの死骸があったため、その少年がやったんだとすぐに察した。
「へぇ…」
あの年齢で複数のモンスターを倒せる能力に続き、数年間放置された無人街しかないこの孤島で、生き残っている事実に驚いた。
私は少年にゆっくり近づく。
「私は東雲優凪、ハンターだよ。君は?」
できるだけ優しく声をかける。
だが、少年は警戒を解いてくれる様子はない。
私のほんのわずかな攻撃の意思を察しているのか…だとすれば、この子の勘は野生どころじゃない。
「……」
「ふむ、無視…ね。まあこの環境じゃあそのぐらい警戒しないと、今日まで生きてないか…」
少年に対しどのような言葉をかければいいのか考えていると、背後に数体のモンスターが現れ、一斉に襲い掛かってくる。
「…!」
目の前の少年がモンスターを見た瞬間、包丁を握る手に力が入った。
それを見て確信した。
この子はこの環境でも、誰かを守るために行動できる素晴らしい子だと。
そして、少年の長く伸びた髪の下にある顔を見えたとき、私は目を見開く。
「…はは、まさかこんなところにお宝があるなんてね」
すぐさま動こうとする少年の肩に手を置き、行動を制止する。
誰かを守ろうとする意志、その光は彼の目に確かに宿っている。
こんな環境にいた子供が、そんな目をする。
これをお宝といわずして、なんと言うんだ。
少年は私の行動が理解できず、呆気に取られていた。
「少年、今この場で選んでほしい。ここで朽ち果てるか。又は――」
振り向きながら刀を振り、目にも止まらぬ速度で背後にいた複数のモンスター全てを真っ二つに切り裂く。
そして、目を丸くしていた彼にそっと手を差し伸べる。
「私の家族にならない?」
――約1年後(西暦2016年) 東雲優凪視点――
私の左右の手は、小さな手を握っていた。
「ほら、凪と優。お店見えてきたよ」
視線を少し落とし、手をつないでいた私の子供たちに言った。
「お菓子!」
「優、走ったらこけるぞ」
優は目を輝かせて走り、凪も口調は冷静だが、どこか楽しそうだ。
男の子の名前は凪、女の子は優という名前で、由来はもちろん私の名前、優凪から一文字ずつ取っている。
「あら!優凪ちゃん、今日は特売日ですよ」
すっかり店の常連となった私は、店員と仲が良い。
中でも佐野美知枝という、60代の女性とは昔から交流があったため、特に仲が良い。
「それは良いことを聞いたね」
「凪ちゃん、優ちゃん。二人とも、ほらこれあげる」
美知枝が二人に差し出したのは、お菓子だった。
「ミチ婆、ありがとう。ほら優、お礼」
「みちばあ、ありがとう」
私が美知枝をいつもミチ婆と呼んでたためか、凪たちもミチ婆と呼ぶのが馴染んでるみたいだ。
「最近この店の外にベンチができたんだ。そこでお食べ」
ミチ婆と共に店の外にあるベンチに移動し、子供たちを座らせる。
そして私とミチ婆は少し離れた場所で、二人がお菓子を食べる様子を眺めながら話した。
「子供の成長ってのは早いねぇ」
ミチ婆の言葉に、凪の変わりようを思い出し、口角が上がる。
「そうだね。凪なんてほんの1年で幼児退行したのか疑うほど、甘えん坊になったしね」
「……時間、あるのかい?」
次に聞こえたミチ婆の声は今までとは一転し、真剣なものになっていた。
「全然余裕だよ。上の連中を長期休暇をもらうために少し脅したからね。それでミチ婆、以前話したこと考えてくれた?」
私の言葉に、ミチ婆はどこか悲しげに離れた場所にいる凪と優を見て口を開く。
「……やっぱり、行くんだね」
「そうだね、でも今すぐじゃないよ。あの子たちが12歳になったら行くつもり。今度は帰ってこれるかわからない…」
「……子供たちを置いて行くのかい?」
ミチ婆のその言葉が、私の心に響く。
痛いところを突いてくるなぁ…。
「なかなか心に刺さるね。でもミチ婆。もう決めたんだ。私は結局、普通のままではいられない。いや、多分いちゃいけないんだよ」
彼女の言い分も分かる。
でも、私にはやらないといけないことがある。
たとえ、大切なものから離れることになったとしても…。
それが、私が持つ『呪い』なんだ。
「12歳は子供だよ。子供には親が必要だ」
「だからミチ婆に頼んでいるんだ。私がこの世界で心から信頼できる数少ない人だからね」
そう言うとミチ婆は少し寂しそうな表情で言った。
「こんな力の無い婆さんにゃ、子守りは務まらないさ」
「そこは大丈夫。二人ともに私のすべてを叩き込むつもりだよ。自分を、友達を、家族を……守りたいものを守れるだけの力つけて、一人でも生きていけるように」
私がそう言うと、ミチ婆は笑う。
「はっはっは、優凪ちゃんも変わったねぇ。日本中から慕われている大英雄が、母親らしいことを言うなんてね」
「まったく、失礼な。私だって母親だよ。…いや、どちらかと言えば師匠かな?」
「ししょー」
「おかあさん!」
ベンチから二人の声が聞こえた。
子供達の楽しそうな表情を見たミチ婆は口を開く。
「やっぱりこんな婆さんにゃ子守は務まらない。だけど私の孫なら面倒を見れると思うよ」
「あー、亜優ちゃんか。確かに真面目で面倒見の良い子だね。ミチ婆がそこまで言うなら……。あの子には負担になるかもだけど」
「亜優は負担になんて思わないよ」
ミチ婆の言葉を聞いて、胸の奥が温かくなる。
私は周りに恵まれている、そう実感できた。
「そうか…安心した」
私は一歩踏み出し、ミチ婆に言った。
「その時がきたら二人を…『大英雄』東雲優凪の宝物、凪と優をお願いします」
…
………
その約5年後。
平和の象徴だった英雄『東雲優凪』の死亡が、世界に伝えられた。
――西暦2025年 日本――
あれから何年が過ぎたのだろう。
未だに世界は英雄を忘れられずにいる。
高くそびえたつビルに備え付けられたモニターが映し出していたのは、かつて存在した英雄の姿だった。
その光景を見た一人の少年は足を止める。
「…母さん」
その声は街の喧騒にかき消されていく。
この世界にはもう…英雄はいない。
しかし、彼女の残した宝物は、確かにこの時代に生きている。
「おっす、凪。朝から辛気臭い顔してんな」
「あぁ…ハルか」
その少年の名は――東雲凪。




