第七幕・LIVE
「すみませーん!浴室で"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"してたら浴槽が蒸発してしまって…」
「何ぃ!?"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"だと!?何故私も混ぜてくれなかったんだ!」
「何なんですか"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"って!何がどうスペシャルで氷山でサウナなんですか!」
…ともかく、テレビを付けるなり映ったのは緊急速報だ。
画面右上のテロップには"王都陥落"の文字。
「9万、"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"はいいからテレビを見るんだ。」
「…王都……陥落……?」
『…国王夫妻は既に海外に亡命され、襲撃隊との応戦に当たった王国騎士団は壊滅状態であると、先程警視庁からの発表がありました。
王都の日真田キャスターと繋げます…
__日真田さーん?』
中継映像は数秒のノイズと砂嵐の後、途切れた。
『…現在、通信が不安定なようです。
繋がり次第お伝えします…。』
アナウンサーは何かを悟った様子で、カメラの前に曇った表情を見せた。
「…どうやら、状況は想像以上に深刻なようだ。」
リカブさんは重い表情を浮かべ、呟いた。
・ ・ ・
「…やはり、どのチャンネルもこの話題で持ち切りですね…。」
「残された時間は短い、という事か…。」
そう言いつつ、リカブさんはチャンネルを切り替える。
『…魔術学会の声明によりますと、デキ市内で死亡したモンスターの体内から新型の"魔導兵器"と見られる物が確認されたとの事です。』
「……?」
「……!」
9万職員さんとリカブさんが前のめりになってニュース画面を凝視する。
「…?
何ですか?その…"魔導兵器"と言うのは?」
リカブさんはテレビから僕の方に視線を逸らし、話し始めた。
「魔導兵器は…そうだな…。
"魔法を原動力とした道具や兵器"の事だ。」
「そんな物が…。正にファンタジーですね…。」
感銘を受ける僕の横で9万職員さんが話す。
「この家の給湯器も魔導兵器ですよね。」
「へぇ…。……この家の給湯器!?」
「よく気付いたな9万。
この給湯器はコードレスな上、10秒で水を沸騰させる事の出来る"魔導給湯器"だ。
電気代もかからないからお得だぞ。」
「凄いハイスペック…。
僕の世界にも欲しかったなぁ…。」
この世界の技術力から夢を広げつつ、給湯器で淹れたばかりの紅茶を口にする。
「…コレって、かなりの高級家電ですよね?
リカブさん、案外お金持ちなんですね。」
9万職員さんが紅茶を啜りながら言った。
「まあ、訳あって金には困っていないからな。」
「…? …訳あって…?」
「そんな事よりテレビだ。学会の専門家が話し出すぞ。」
『…魔導兵器がモンスターの体内から発見され事から、これらは魔王軍によって開発された物と見られ__』
「魔術学会って、そのまんま魔術の学会って解釈で良いんですか?名前だけは耳に覚えがあるんですが…。」
「まあな…だが、魔術の事に関しては9万の方が詳しいからな…。」
そう呟きつつ、リカブさんは9万職員さんの方をチラリと見た。
「…えっ?私が解説する流れですか?」
「頼む」
「お願いします」
「良い機会だ、教えてくれ」
「魔導学会というのは、"魔術を研究する魔導士や研究者の集まり"でして…
神に準ずる存在とされる"賢者"の子孫によって創設された団体とされております。」
「"神に準ずる存在"ですか…そんな物が…。」
「"賢者"の話は子供の頃童話で耳にしたな…」
「俺は無神論者だし、"賢者"も存在したとは思えないけどな。」
「「………?」」
唐突に背後から聞き覚えの無い声が流れた。
怪訝そうな様子のリカブさんと共に振り返る。
「……えっ…?誰ですか…?」
「不審者だァーーーッ!!!」
「待て待て待て!怪しい者ではないんだ!」
不審者(?)はロケット砲を構え出したリカブさんを慌てて静止する。
「…この人、リカブさんのお知り合いでは無かったのですね…。ずっと前から居たんでてっきり…。」
「何だと9万!?何時から居たんだ!?」
「…そこの娘が"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"をし始めたタイミングには既に来ていたさ…。鍵も開いていたからな…。」
リカブさんはますます焦った様子だった。
「鍵がかかっていなかったのか!?
最後に家に入ってきたのは誰なんだ!」
リビング中の視線が一点に注がれる。
「…私だ。
…くっ…戦士失格だ…。甘えた防犯意識で、不審者の侵入を許してしまうなど…。」
「まあまあ…元気出して下さいリカブさん!
僕も鍵の閉め忘れ位しますから…」
「何ぃ!?ならんぞヨシヒコ君!
不用心が過ぎるぞ!」
「やっぱ元気出さないでいいです…。」
「…では、続けていいか?」
「あっ、はい。」
「俺は"サンダ・オ・マワリ"だ。
魔王軍対策本部にて警部をしている。」
僕達が不審者だと思っていた渋い男性は、
警察手帳らしきものを取り出した。
・ ・ ・
『我々魔術学会は、発見された魔導兵器を
"魔力の種子"と名付けました__』
「勇者……ヨシヒコ少年で良かったな?
テレビの音量を上げてくれないか?
耳が遠いものでな…」
「あっ、了解です」
「…先程は失礼した。マワリ警部。
まさか警部だとはつゆ知らず…」
バツが悪そうにリカブさんが警部に話しかける。
「まあ、家に知らない奴が上がり込んでたら、割と正しい反応だろうさ。
それと、この前は部下が世話になったな。」
「とんでもない!アレは我々の起こした事故で…"世話になった"などと感謝されるような事では…」
「事故…ゴールド免許……ヴッ…」
倒れ込む9万職員さんを他所に、2人の会話と学会の中継は進行して行く。
『"魔力の種子"は、紫がかった真珠のような見た目が特徴で、体内に埋め込む事により
"圧倒的な力"と引き換えに"魔王への忠誠"に縛られる…という物であると現段階では結論付けられています。』
学会の研究者が話し終え、インタビュアーへ発言権が移る。
『魔王軍のモンスター達はこの魔導兵器によって圧倒的な力を振るっていた…という認識でよろしいでしょうか…?
王都が陥落に至ったのも…?』
『ええ。魔力の種子が影響していると見ていいでしょう。
それにしても、これは最早"魔導兵器"と呼ぶよりも…
"呪い"と呼ぶ方が相応しいでしょうね…。』
・ ・ ・
「圧倒的な力と引き換えに得る呪い…
そんな童話がありましたねぇ…。」
「9万職員さん?いつの間に起きて…」
「さて、雑談なら後にして貰おうか。
俺がここに来た理由は、"この事"を伝える為だ。
勇者一行、もう時間が無い。
先程、魔術学会から警視庁に"王都からモンスターが撤退した"との発表があった。
中継で発表したような調査を行えたのもその為だが…。」
僕は、息を呑んだ。テレビ中継の内容と照らし合わせれば、マワリ警部の言おうとしている事に察しが付いてしまったからだ。
「魔王軍は既に王都を破壊し尽くし、他の都市へと襲撃を行う手立てを立てている事だろう…。
例の文書はもう不要だ。直接答えを聞きに来た。」
「勿論、やります。」
「…まあ、断られても困るしな。
その答えが聞けて良かった。」
警部は背を向け、玄関へと歩き出した。
「恐らく奴らの目的は人類の殲滅だ。
いずれこの村にもやって来るだろう。
明日の午前4時、戒厳令が発される。
そのタイミングから、
君らには村周辺の警備を頼む。
これが集合場所だ。頼んだぞ。」
警部は一枚の地図をヒラリと投げ、去っていった。
To Be Continued