第58幕・脱出者
「フゥ…実に不味いカップ麺だった…。」
マワリさんは、空になった容器をゴミ箱に放り込む。
「ヨシヒコ少年、君も完食したか?」
「あっ、はい。」
「よろしい。この村には、食糧がもう残っていないからな。…伸びたカップ麺でさえ、粗末にする訳にはいかん。」
マワリさんは、苦々しい表情を浮かべる。
「村の外から、食糧は入って来ないんですか?」
僕は尋ねた。
「…物流拠点となる大都市は、殆どが壊滅状態だ。期待は出来ないだろう。」
「国家連合からの支援はどうです?この惨状に対して、何の行動も起こさないとは考えにくいですけど…」
今度はアレフさんが尋ねる。
"国家連合"…僕は初めて聞く単語だが、恐らく元の世界の国際連合と似たような物だろう。
…そう考えていた矢先、マワリさんは首を横に振った。
「…地方であるメガバイト村への支援となれば、優先度は落ちるだろう。それに…」
「"それに…"何です?」
アレフさんは、マワリさんの言葉に踏み込んでいく。
「…村の周辺で、モンスターの小隊が目撃された。直接攻めて来る様子は無いが…外部からの支援は断たれてしまうだろう。」
深刻そうにマワリさんは呟く。
…そう言えば、昨晩言っていたな。
確か暴漢に絡まれた時……。
(「…この村の周辺に、モンスターの小隊が確認された。恐らく襲撃隊の残党…この村の中にも、まだモンスターが潜んでいる可能性がある…。」)
あの時は、状況が状況だっただけに頭が回らなかったが…
僕達が置かれている状況は、思っていたより遥かに悪いようだ…。
「…それじゃ、誰も村を出入りできない…物資不足を解決する手段が無いって事じゃないですか…!」
アレフさんは不安感を隠さずに言う。
…確かにこのままでは、村の人々は飢え死にしかねない。
かと言って…村の外に出るのは危険、いや――
自殺行為にも、等しいかも知れない。
・ ・ ・
「がっ…ハッ……!」
靡く草原の上。
1体のモンスターが、その身を刃で貫かれ悶えていた。
血が滴り落ち、雑草を赤く染め上げていく。
大地には死屍累々。
十数体ものモンスターの死体が散乱している。
「あの男…たった1人で…!」
「…我々では勝てん!ノゾキーマ様とコナードゥ様を呼ぶのだ!」
数体のモンスターが、ある男に背を向け逃亡する。
「…ディメンション・オーダー。」
呟いた男の手元に、ロケット砲が出現する。
「――逃がさん。」
男は、ロケット砲を撃ち放った。
爆発音と共に、土石と煙、焦げた草花が巻き上がる。
そこに悲鳴が織り交ざり、辺りは一瞬にして阿鼻叫喚と化した。
「くそ……化け物…め……」
恨み言を垂れ、あるモンスターは息絶える。
その身は真っ黒に焼け焦げ、炎を灯していた。
「…モンスターには、言われたくないな。」
男…リカブはモンスターを冷たく見下ろし、その場から歩み去っていく。
(残りの弾は…2発か。これ以上の戦闘は避けるべきだな。)
リカブは手元のロケット砲を、再びディメンション・オーダーによって収納した。
(ノゾキーマと、コナードゥと呼ばれていたか…。先程の強烈な光が奴等の力による物ならば…今の私に勝ち目は無い。)
リカブは歩調を早める。
(この村さえ抜ければ…比較的安全に交通手段を利用出来る…。モンスター共に見つかる前に、急がなくては…!)
リカブは走り出した。
(くっ、傷が痛む…。あの戦いから、まだ2日しか経っていないからな…。)
ふと、リカブは立ち止まる。
そのまま振り向き、遠くに映るメガバイト村を、ただ静かに見つめ始めた。
「私は…私の使命を果たす。だから…それまで死ぬな、9万、ヨシヒコ君…!」
リカブは、再び前を向いて走り出した。
To Be Continued




