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理科部冒険記 〜実験結果は異世界転移〜  作者: Taku-3
第1部 理科部冒険記NEXT
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第53.5幕・澄んだ瞳と赤い街

「…それで、俺は気付いた訳よ!コーラにメントスを入れると、激しく発泡して溢れ出すという事実にな!」


薄暗い部屋の中で、通谷は自慢げにそう語っていた。


ヨシヒコ君は戸惑っているかのような、それでいて助けを求めているかのような表情を浮かべている。


「そこで俺は、この現象をメントスコーラと名付け研究対象に――」


その時、床板が軋む音、ドタドタと駆けるような足音が聞こえた。


 ――パチン。


乾いた音が響く。


「なっ…おい、テメェ!」


…誰かが通谷の背中を叩き、そのまま理科室の出入口へとUターンしていった。


「うぇ〜い!窓際族ピンポンダッシュ成功〜!」


誰か…私達と同じ生徒に見える男子は、出入口に立ったまま挑発的に叫ぶ。


「ヒヒッ…マジでウケるんだけど〜!」

「"ナッオイ、テメー!"だってよ〜!根暗っぽい奴はキレても根暗なんだなあ〜!」


男子生徒の背後では、ギャルっぽい女子生徒が笑みを零し、刈り上げの男子生徒が通谷の言葉を復唱している。


…アイツらが、悪意を持って私達に接近してきたという事は明白だった。


「誰ですか…?あの人達…」

ヨシヒコ君が首を傾げる。


「他班の理科部員さ。アイツら…野外活動からの帰り際にちょっかいかけて来やがるんだ…。」

通谷は、恨めしそうに出入口の生徒を睨みつける。



「じゃあ次、俺の番な〜!」

「おいおい、堂々と行くなって〜!メガネの奴、めっちゃこっち見てるぜ?」


刈り上げの男子が足を踏み出す。


「アイツの顔見ろよ、どう見ても反射神経鈍そ…うわあっ!?」


その時、刈り上げの男子が悲鳴を上げる。

引き戸の敷居に躓いたのだ。


「痛ッ…!」

木目調の床から軋む音が響く。


「マー君!?」

「おい、何躓いて…」



「ハッ!因果応報だ、ざまあ見ろ――」

通谷がすかさず刈り上げを嘲笑しようとした時――



 ――ヨシヒコ君は、椅子を引いて立ち上がった。

そのままヨシヒコ君は、刈り上げの元へ歩み寄っていく。


「マー君…誰かこっち来てるって!」

「早く立て!シバかれるぞ!」

「ちょっ…足挫いたかもしれねえ…!」


3人揃って大焦り…正直、いい気味だ。

アイツらも、ヨシヒコ君が動くとは思っていなかったらしい。


ヨシヒコ君は、刈り上げを前にして立ち止まった。


「ひっ…出来心だったんだ!許し――」

「――大丈夫ですか?」


…ヨシヒコ君が怯える刈り上げにかけたのは、信じられない言葉だった。


「立てますか?足を挫いたなら、保健室に…」

「えっ?ああ、いや…大丈夫…。」


刈り上げは、少し戸惑った様子で立ち上がった。


「おっ…おい、何転んでんだよ…」

「ちょっと、ダサいよ…私まで恥ずかしくなるじゃん…。」

2人の生徒は、気まずそうに刈り上げに話しかける。


「ああ…悪い…。もう…帰るか。」


刈り上げは申し訳無さそうに私達を一瞥し、2人と共に去っていった。



「…ヨシヒコ君。アイツが転んだ時、どうして助けようとしたの?」


3人の背を見届け、席に戻ろうとするヨシヒコ君に、私は問いかけた。


「どうして、そんな事を聞くんですか?」

「……別に。気になったからよ。」


「…他人事だと、思えなかったんです。」


…ヨシヒコ君は考え込むように俯き、5秒もしない内に再び口を開いた。


「あの人が転んだ時、僕は自分が転んだような気分になりました。そして僕が転んだ時は、誰かに手を差し伸べて欲しい…きっとそう思うからです。」


「そう…ヨシヒコ君は、優しいのね。」


「べ…別に優しい訳じゃないですよ…。人の不幸を見過ごせないってだけで…。」

照れくさそうにヨシヒコ君が答える。


「…それを優しいって言うんじゃね?」

通谷がボソリと呟いた。


…少しの沈黙。

私は意を決して、新たな問いを投げかけた。


「…ねえ、ヨシヒコ君。今だから聞くけど…私達の班に入ったのは、本当は同情からだったんじゃないの?」


「あ〜…そういや班長って、同情されるのが死ぬ程嫌いだだだだだ」

余計な口を挟んだ通谷の頬をつねりながら、私はヨシヒコ君の目を見た。


「…いえ、それは違います。」


ヨシヒコ君は、迷わず首を横に振った。


「本当に?」

「初めて会った時、言ったハズです。先輩方が格好良いと思った…そして、僕はそれに憧れたって…。その思いは、今でも変わってませんよ。」


ヨシヒコ君は、澄んだ瞳で私を見ていた。

私達が初めて出会った、あの日を想起させる…そんな目だった。


「そう、なら良かった…けど――」



・ ・ ・



 ――私は不安だった。


ヨシヒコ君の優しさが、いつかヨシヒコ君自身を苦しめてしまうんじゃないか。


憧れの目を向けてくれた後輩に、私達の責任を背負わせてしまってはいないか。



…現実となってしまった憂いと鞄を背負い、私は赤く染まった街を歩いていた。


閑散とした商店街。

鴉の鳴く声と、車の走行音だけが響いている。

殆どの店にはシャッターが下り、古びた看板だけが色彩を残している。


寂れた風景に溶け込む一軒家の扉に、私は手を伸ばして呟いた。



「…ただいま。」




To Be Continued

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