第52幕・堂々動乱
朝というのは、現実と向き合う時間だ。
人々は夢から覚め、一日の活動を開始する。
昨夜歩いた街道には、朝日が差し込んでいる。
暗闇に覆い隠されていた街の荒廃ぶりを、光が嫌という程に強調していた。
・ ・ ・
「な…何とか街に着いた…。」
僕は息を荒らげながら、そっと胸を撫で下ろす。
この世界で生命の危機を感じた事は何度かあったが…さっきはダーウィン賞にリーチがかかっていた。
…未だかつて、下り坂で死にかける勇者が居ただろうか。
ちなみに、生命の危機は去っていない。
あまりにも重いリュックのせいで、肩が千切れそうだ。
それでえっと…そうだ、こんな思いは中一の夏休み前――
「何だか騒がしいな…。」
マワリさんが、街道の奥へと耳を澄ませている。
…荷物に気を取られていたが、確かに何かが聞こえる。
足音や、話し声を含んだ喧騒が、遠くから響いてくる。
どこかで、大勢の人々が集まっていると推測できるのだが…
「…でも、まだ朝の4時ですよね?」
何より不自然な点だ。
こんな朝早くに人が集まる理由…それが読めない。
「気がかりだな…行ってみるか。」
マワリさんはそう言うと、スタスタと歩き出した。
続いて僕もスタスタと…いや、荷物の重みに耐えながらのっそりと歩き出した。
・ ・ ・
平屋か、或いは二階建ての住宅が建ち並ぶ街中で、高く掲げられた看板が一際目立っていた。
看板には、"業務スーパー エクスペンシブ"の文字。
…看板を見上げていると、誰かが小走りで僕達の横を通り過ぎていった。
「あれ、今のって…」
僕は振り向き、その人の背中を目で追った。
その人の両腕には、零れ落ちそうな程の食料品やら何やらが抱えられている。
「スーパーの方からだ…まさかとは思うが…」
マワリさんは、神妙な面持ちで看板を眺めている。
「――どけ、邪魔だ!」
突然、誰かが僕の肩にぶつかってきた。
「痛っ…!?」
その誰か…中年の男は、すれ違いざまに僕を睨みつける。
「おいお前、何をする!」
マワリさんはすかさず男を怒鳴りつけた。
男の表情が、一瞬にして焦りに変わる。
「ゲッ…!?警察が居るなんて聞いてねえよ…!」
走り去って行く男の両腕にもまた、大量の食料品…
この瞬間、僕達の"嫌な予感"は確信に変わった。
・ ・ ・
張り詰めた空気の隘路を通り抜け、僕達は開けた通りへ出た。
目の前に現れたのは、くすんだ赤レンガの外壁と、鮮やかな野菜と果物が描かれた看板…初めて訪れた筈なのに、どこか親近感のあるスーパーマーケットだった。
…だが、様子がおかしい。
並ぶ大きな窓ガラスは割れ、一部は窓枠だけになっている。
窓の奥に見えるのは、空っぽの商品棚と荒れ果てた暗い店内。
地面にはガラスの破片が散らばり、入口の前では項垂れしゃがみ込む人々の姿があった。
「…離せっ…コレはもう俺のモンだ!」
その時、男の怒声が耳を突いた。
僕は声のする方に目線を移す。
そこでは、2人の男が乾パンの缶を引っ張り合っていた。
「駄目だ…渡す訳にはいかない!我が家にはもう…食糧が無いんだ…!せめて乾パン1つだけでも…!」
垂れ目の男性が、力一杯缶を引っ張る。
「てめぇの家の事情なんて…知った事かよッ!」
つり目の男は、垂れ目の男性の頬を殴りつけた。
垂れ目の男性は怯み、地面に倒れ込む。
「だっ…大丈夫ですか!?」
僕は垂れ目の男性に駆け寄る…ことは重い荷物のせいで叶わない…ので牛歩で近寄る。
つり目の男はすかさず、垂れ目の男性から缶を奪い取った。
「まっ…待ってくれ…!子供が2人居るんだ…病気の妻も…!このまま帰っても、家族に顔向けが――」
「うるせぇ!腹が減ってんのはてめぇらだけじゃねえ…こんな時に他人の家族に配慮できる程優しくねえよ!」
そう言い放つと、つり目の男は走り去っていった。
To Be Continued




