第49幕・夜行する者達
月明かりを除けば、一筋の光も無い街。
僕達は、お互いに一言も発さないまま歩き続けた。
道中、僕が付いてきているか確認する為か、マワリさんは何度か振り向いた。
その際に目が合う事もあったが、マワリさんは何も言わなかった。
僕も、何も言わなかった。
――かけるべき言葉が、見つからなかった。
歩いている内に、周辺の民家は疎らになっていく。
気付けば、僕の足は上り坂に差し掛かっていた。
辺りには木々が立ち並び、雑草が生い茂る。
鬱蒼とした森が月から僕達を覆い隠す中、マワリさんは懐中電灯のスイッチを入れた。
円形の光に、デコボコした山道が照らされる。
…僕は何処に向かっているのだろう。
本当に、この道で合っているんだろうか。
ふと、そんな不安を覚えた。
しかし、今の僕には疑問を呈す事も、後戻りをする事も許されないような気がしてならなかった。
…たった一筋の光を、信じるしか無かった。
・ ・ ・
歩き始めてから、体感で30分程経った。
数え切れない程に並ぶ樹木が、突如として途切れる。
再び空が現れ、月明かりが僕達を照らす。
そこには、木々に囲まれた開けた土地があった。
学校のグラウンドのおよそ半分程度の面積に、ポツンと小さな木造の小屋が建っている。
「…ここだ、着いたぞ。」
マワリさんは小屋の方を向いて呟く。
「ほっ…本当にココですか…?」
僕は疑いからか、或いは戸惑いからか恐る恐る尋ねた。
「ああ。…まあ、その反応も無理はない。こんな丘の中腹に住んでも、不便なだけだからな。」
小屋に向かって歩みつつ、マワリさんは答える。
「…じゃあ、なんでこんな場所に住んでるんですか?」
僕が尋ねると、マワリさんは俯いて考え込むような素振りを見せる。
「家賃の都合だ。」
「あっ…はい。」
「とにかく上がれ。怪我の手当てもしないとな。」
マワリさんは、小屋の扉を開く。
僕達は、小屋の中へ足を踏み入れた。
…当然だが、室内は真っ暗闇だ。
光源はマワリさんの持つ懐中電灯のみ。
「流石に暗いな…災害用ランタンを出すか。」
マワリさんは懐中電灯を片手に、タンスの中を漁り始めた。
「わざわざすいません…。」
「気にするな。それより、後で君の分の布団を敷くから、机を退かすのを手伝ってくれ。」
マワリさんがランタンの電源を入れる。
壁と天井を、微かな光が照らし出した。
(外観で分かってはいたけど…狭いな…。)
壁に取り付けられた2枚の扉…恐らく風呂とトイレだろう。
それらを除くと、大体8畳あるか無いかといったこの部屋が、この家の全てだ。
最低限まで機能を削減したキッチン、こじんまりとしたブラウン管テレビ、あとは机と布団…
…上京したての学生でも、もう少し充実した住環境があるようにすら思えた。
「…悪いな、狭い家で。」
「あっ、えっ…いえ!別に狭いだなんて…思います!」
「どっちだよ…。」
…見透かすかのような質問に焦って、ついしどろもどろになってしまった。
「一先ず顔を洗ってこい。俺は裏の倉庫から救急箱と布団を持ってくる。」
そう言うとマワリさんは、再び玄関の外へと出て行った。
・ ・ ・
「――"ペプシ"と連絡がつきました。」
会長執務室の豪華絢爛な扉を押し開きながら、アミノは言った。
「…彼は何と?」
ハルシアンはデスクの上で頬杖をつきながら問いかける。
「"すぐに向かう"との事です。」
アミノは携帯電話を閉じながら答える。
「…アミノ、幾つか質問しても良いかな?」
「どうぞ。」
「…今の時間は?」
「午後11時です。」
「彼の居場所は?」
「"メテオーライズ市"…隣市とは言え、この学会本部からは80km以上離れています。」
「交通機関は何を使うと?…扉の外で君の"徒歩で!?"という反応が聞こえたんだが…」
「…使わないそうです。自分の足で十分だと…」
「…君の旧友は馬鹿なのか?」
「はい。」
「即答かぁ…その男は本当に戦力になるのか?メガバイト村滞在中は、彼含めた3人のみで行動する予定なのに…」
ハルシアンの頬杖が、即座に額杖へと変わる。
「…ご安心を。彼は馬鹿ですが、実力は折り紙つきです。」
アミノは、言葉を一切淀ませずに言う。
「正直…彼がモンスターに負ける姿は、私にも想像が付かないのですから。」
To Be Continued




