第48幕・強くあれ勇者
「アミノ。魔王軍の事なら、君が動く必要は無い…いや、寧ろ動かないでくれた方が良い。」
ハルシアンは再び椅子に座り込み、デスクの上に腕を乗せた。
「本来ならば、今回の件は国家連合の役目だ。あそこの上層部はモンスターの正体を知っているけど…紛争解決が主な役割である以上、脅威を静観する訳にもいかないだろう。…汚れ役は、彼等が勝手にやってくれる。」
右手で前髪を梳かしながら、ハルシアンは言う。
「…事情は大体分かりました。つまり、私が魔術学会に身を置いている以上、休職は受理出来ない…という事ですね。」
「イグザクトリー!その通り!」
ハルシアンは指を鳴らした。
「…でしたら――」
アミノは、デスクの上の休職届を乱暴に掴み取った。
グシャリという音と共に、紙切れは丸められていく。
「――書類を変更します。休職届から、"退職届"に…!」
「……うえぇ…困るなあ…。君程優秀な魔導士兼秘書となると、代替となる人材なんてそうそう居ないだろうし…」
ハルシアンは嘔吐いたかのような声を出しながら、頭を掻きむしる。
「では、休職の受理を。」
「でもアミノ…魔術学会の名で波風立てるような真似をするのは――」
「――困るんでしょう?私に離職されると。」
アミノはハルシアンの顔を覗き込み、グシャグシャになった休職届をデスクに置いた。
ハルシアンは人差し指に髪を巻き付けながら、ただひたすらに唸っている。
「…ああもう、分かった!分かったよ…!休職を受理する!君1人の独断…かつ休職中の行いなら、責任の所在は誤魔化しが効く…決して"魔術学会"の名は出すんじゃないぞ!」
ハルシアンは、休職届に判子を押した。
アミノは静かに頭を下げる。
「ありがとうございま――」
「――ただし!…1つ条件がある。」
「…何でしょうか。」
不機嫌そうな声で、アミノは問いかけた。
「私もメガバイト村に連れて行って貰う。」
「…何故。」
ハルシアンはふっと微笑を浮かべ、口を開いた。
「 会ってみたいんだ…勇者に。 」
・ ・ ・
「…マワリさん。」
「何だ?ヨシヒコ少年。」
…あの後僕達は、無事に女性を自宅まで送り届ける事が出来た。
今は僕の怪我の応急処置をする為、マワリさんの家に向かっている最中だ。
「助けてくれて、ありがとうございました…マワリさんが居なければ、僕もあの女性もどうなってたか…。」
「気にするな、怪我は大丈夫か?」
僕の1歩先を歩くマワリさんは、振り向いてそう言った。
「はい…擦り傷と鼻血位で済んだみたいで…」
…ちなみに僕は、現在進行形で鼻をティッシュで押さえている。
僕の一言一句全ては、自覚出来る程の凄い鼻声になっている。
…どうにも情けない姿だ。
暴漢達を相手に何も出来なかったのが悔やまれる…。
これじゃあ、モンスターから人々を守る事なんて――
「…マワリさん。」
僕は俯きながら呟いた。
「どうした、傷が痛むか?」
マワリさんは道の先を見つめながら答える。
「僕…強くなりたいです…。」
「――強く…?」
…マワリさんは立ち止まった。
「マワリさんは…あの大男相手に1歩も退いてませんでした…。僕も…マワリさんのような、誰かを守る強さが欲しいんです…!」
「…そうか。」
「マワリさん!僕に…戦い方を教えてくれませんか…!?」
僕は、マワリさんの背に向かって頭を下げた。
僕の声が、空高く響き渡る。
「…本気か?」
マワリさんは、立ち止まったまま振り返った。
「はいっ…!勿論タダで教えを乞うつもりはありません…どんな見返りでも払うつもりです!僕はもう…自分の無力さに打ちひしがれるのは嫌なんです!!!」
僕は頭を下げたまま、叫んだ。
「…タダで良い。見返りなど、欲しくは無い。」
…僕がゆっくりと頭を上げると、マワリさんは僕と目を合わせるのを避けるかのように再び前を向いてしまった。
「…本来ならば、それは我々の罪だ。」
マワリさんが、何か呟いたような気がした。
「そこまで言うのなら良いだろう。だがまずは、俺の家に来ない事には始まらないぞ。…少し歩くが、構わないな?」
「…はいッ!!!」
僕達は再び、暗い夜道を闊歩し始めた。
星明かりの他には何も無い、真っ暗な道を…
To Be Continued




