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理科部冒険記 〜実験結果は異世界転移〜  作者: Taku-3
第1部 理科部冒険記NEXT
54/58

第47幕・傍観論

ゴシック調の広大な部屋。

天井にはシャンデリアが吊り下げられており、部屋の隅には客人用のテーブルとソファが配置されている。


大窓も幾つかあるが、外部の景色は全てカーテンによって遮られている。


幾何学模様が描かれた壁と、壁際に並ぶ数え切れない程の骨董品は、入る者を見飽きさせない。


そんな部屋の真ん中に置かれた、アンティーク調のデスクの前に、アミノは立っていた。


「――以上の理由より、休職届の受理をお願いします。」

アミノは深々と頭を下げ、1枚の書類を差し出した。


デスクによって隔てられた先から、卓上をなぞるように、書類に向かって腕が伸びる。

白くか細い指が、紙の端を摘み、アミノから遠ざかっていく。


アミノは顔を上げ、目の前に座る人物を見た。


そこにあったのは、腰まで伸びた金髪と、木漏れ日のように暖かみのある白い肌を持つ少女の姿。


幼く見える背格好とは裏腹に、スーツの漆黒がその身を包んでいた。


背に流れる髪は生糸のようで、光が波打つかの如く反射している。


少女は、手元の書類を静かに見つめている。

前髪が光を遮り、額に影を落としている。


少し経ち、少女が顔を上げる。

夕焼けのような紅い瞳がアミノを見つめた。


「…成程ね。」

少女は、アミノと目を合わせて呟く。


直後、書類を前方へと放り投げた。

1枚の紙切れは卓上を滑り、アミノの元へと戻っていく。


「…届に何か不備でも?」

アミノの眉間が微かに歪む。


「これを見る限りだと、君は異国の地で巻き起こっている騒動に武力介入する…だから休職したいという事だね?」

少女は頬杖をつき、目を細めてアミノを見上げる。


「間違いありません、その通りです。」

アミノはほとんど間を置かずに回答した。


少女は両腕を高く伸ばし、そして溜め息を吐いた。


「"ハルシアン会長"、これは一国の騒動には留まりません。魔王軍は世界の脅威になり得る…いえ、なっていると言えます。」


「アミノ…3年前に出した声明は覚えているね?」

少女――ハルシアンは、そう語りつつ椅子から立ち上がった。


「…"我々は、如何なる紛争に対しても武力介入を行わない"。私達は研究機関であって、軍事組織ではないんだよ。」

椅子をデスクの下にしまいつつ、ハルシアンはアミノを見る。


「分かるかい?私達は世界を代表する研究機関として、全ての人類に対して中立的であるべきなんだ。」


「…今起きているのは、人間同士の戦争とは異なります。」

アミノは、ハルシアンと真っ直ぐ目を合わせた。

ハルシアンは振り向いて、大窓に向かって歩いていく。


「――モンスターも、元は人間だ。」


ハルシアンはカーテンを掴み、引き開けた。


カーテンレールの擦れる音が響き渡ると共に現れたのは、白い街灯、ビルの窓の明かりが無数に輝く、夜空の下の壮大な摩天楼の姿。


見下ろした先の道路からは、人々の喧騒と行き交う車のクラクションが微かに響いてくる。


「…モンスターも元は、この都市の明かりの中で暮らす人々のように、平凡な毎日を送っていたのかも知れない。」

ハルシアンは、眩しい夜景を眺めながら呟いた。


「人を襲う以上、モンスターの死は仕方が無いでしょう。目の前の脅威から目を逸らす訳には――」

「――誰もそんな話はしてないよ、アミノ。」


ハルシアンは、アミノの言葉を遮った。


「…モンスターが死ぬ事自体はどうでもいい。モンスターの正体…今は一般人に伏せられている話だが、情報統制がいつまでも効く訳がない。

学会に"モンスターの正体を知りながら殺した"という事実が出来上がるのが問題なんだ。」


そう呟きながら、ハルシアンは部屋のカーテンを次々と引き開けていく。


やがて最後のカーテンを開き終わると、ハルシアンは再び口を開いた。


「…魔術に精通する私達が、魔術によってモンスターに変えられた"可哀想な"人間を見捨て、殺したとなると…最早学会の中立主義なんて詭弁も同然…国際的な立場も危うくなるだろうね。」


「――だったら、武力不介入の原則に従って何もしない方が良い。"裏でモンスター化した人間を救う為の研究をしていた"とでも言えば誤魔化せるさ。」


「…モンスターを人間に戻す手立てが?」

アミノはハルシアンの背を眺め、問う。



「無いよ。…魔王を殺す他にはね。」




To Be Continued

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