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第2幕・夕暮れの決意

「…次は重曹2kg…通谷!重曹2kg!」

「ああ…はいはい…」


僕は素早くドアを潜り、慌ただしい理科室内へと足を踏み入れる。


「班長!先輩!懐中電灯1ダース用意できました!」

「ナイスよ、ヨシヒコ君!」

班長は僕の両腕から懐中電灯を取り上げ、間髪入れずにボウルへと投げ込んだ。


「はい、通谷!潰して!」

「いや無理っすよ!?」


「アンタの体重ならいけるでしょ?いけ通谷!フライングプレスよ!」

「ポケモンの技みたいなノリ!?てか勝手に俺をデブキャラにしないで下さいよ!そもそも班長が痩せすぎなだけで俺は…」


「班長!錆びたハンマーありました!」

2人の論争に割って入る。ハンマーだけに。


「よくやったわヨシヒコ君!貸して!」

班長は素早くハンマーを受け取り、ボウルに入った懐中電灯を凄まじい速度で叩き始めた。

機関銃でも乱射しているかのような音が、部屋中に響き渡る。


「はあ…全く、イエスマンな後輩を持つと苦労するな…。」

溜息をつきながら、通谷先輩が呟いた。


「えっと…もしかして先輩、実験に参加するのが嫌でしたか…?もしそうだったら――」

そう不安気に零した返答は、すぐに遮られた。

「いや、コレで良いんだ。今の俺には理科部で失う物なんて無いし、むしろガンガン打ち込んでいける位さ。」

通谷先輩ニヤリと笑いながらそう話す横で、秋葉班長が懐中電灯の入ったボウルにハンマーをガンガン打ち込んでいる。


「それに…昔を思い出すんだ。こうやって、何かに熱を注いでると…。」

通谷先輩は、何かを思い出すように目を閉じ、俯いた。


(通谷先輩の昔話、長いんだよなぁ…。

…"小学生の時に育ててた朝顔が咲いた時の話"なんか、全て聞き終わるまで4日かかったし…。部活が1日90分だから、合計6時間――)


「通谷、ガソリン10ml持ってきて!」

回想シーンに突入しようとしていた瀬戸際に、班長が指示を出した。


「げっ…話の最中だったのに…。」

(助かった…。)


「ヨシヒコ君、可燃物を使う時は例のテロップ!」

「あ!はい!」


【※良い子は真似しないでね】


「次!膨張したリチウムイオンバッテリー!

あと光らなくなったペンライト12本!」

班長は次の指示を出す。


「せいやっ!!!」

掛け声と共に、通谷先輩が100均のペンライトをへし折った。

大量のペンライトが眩しい光を放ち出す。


「あとは…バッテリーだけね。」

そう呟くと、班長は手元の本を机に置いた。

「どっちか持ってない?リチウムイオンバッテリー…」


 ――その時、聞き慣れたチャイムの音が響いた。

室内の時計は17時45分を指している。


「あっ、終業チャイムっすね。」

「残念だけど、また明日ね。

…リチウムイオンバッテリーは私が探しておくわ。」

班長は壁掛け時計を恨めしそうに睨んで言った。


「ふふっ…」

「…?何で笑ってんすか、班長?」

突如笑みを見せた班長に、通谷先輩が問う。


「…こうやって、皆で実験に熱中するのって、何時ぶりかな…って思ってね。」

「確かに…通谷先輩も、久々に楽しそうな顔してましたよね!」

僕も便乗して、通谷先輩と目を合わせた。


「それって…俺が普段、退屈してるように見えるってコトか…?」

「いや、そういう訳では…」


「気にしないでいいわよ、ヨシヒコ君。通谷がめんどくさい男なだけだから。」

「"めんどくさい"って…班長に言われたかないっすよ…!」

班長の毒舌に、すかさず通谷先輩が反撃する。


「な…何ですってぇ!?誰に向かってそんな事――」

すると逆上した班長が、卓上の錆びたハンマーを拾い上げた。


「ダメダメダメダメ!!!」

僕は慌てて班長の前に割り入る。

後ろでは通谷先輩が、顔の前に両手を翳して防御姿勢を取っている。


「タンマ!ストップ!暴力反対!

あとヨシヒコ!暴力沙汰になりそうな時は例のテロップ!」

「あっ!はい!」


【※良い子は真似しないでね】


「…ふぅ…全く…。」

班長が深呼吸と共に胸を撫で下ろし、静かに錆びたハンマーを机の上に置き直した。


「…何が"ふぅ…全く…"すか…それはこっちのセリフ――」

「しーっ!通谷先輩…聞こえますって!」


「…じゃあ、また明日、同じ時間に集合!次回には実験の準備を完了させるわよ!」

「はい!」「ウッス!」


解散が合図されたその時、窓の外の真っ赤な空は暗く染まりつつあった。

飛び去るカラスの群れの翼の音や、帰路につく自動車の走行音。

街の喧騒が薄ら聞こえる中、僕は教室を後にした。



・ ・ ・



「…もう夕暮れなのに…まだまだ暑いな…。」

下駄箱に手を伸ばしながら、僕は呟いた。


「よ〜しひ〜こ君っ!」

背後から、溌剌とした声が響く。

同時に、誰かが僕の背中を叩いた。


「うわっ!?」

驚き、振り向いた先には、キラキラと瞳を輝かせる少女の姿があった。


「一緒に帰ろっ!ヨシヒコ君!」

サイドテールを揺らしながら、少女は笑顔のまま歩み寄って来た。



・ ・ ・



「いや〜、それにしても何時ぶりっすかね〜…

真剣に片付けに勤しむ時間なんて…。」

両腕を高く伸ばしながら、通谷が呟いた。


「別に大して手のかかる作業じゃなかったし、ヨシヒコ君と一緒に先に帰っても良かったのよ?」

秋葉は廊下の先を見つめたままそう返した。


「発火したボタン電池と、その炎に突っ込んで突然変異したミュータントゴキブリの始末は十分大した事だと思うんすけど…。」


片付けの間の数分の間に起きた、壮絶な闘いの記憶を通谷は辿る。


「というかあのゴキ、ウチの班の研究テーマに出来たんじゃ…。」

「虫嫌いだし…キモいからやだ」

「そっすか…。」


「…ん?アレは…。」

通谷は歩みを止め、下駄箱の前に立つ人物に視線を合わせた。


「…ヨシヒコじゃん?まだ帰ってなかったのか。てか誰かと話して……」

「待って通谷、ヨシヒコ君と話してるアイツ――」


通谷と同じ目線に立った秋葉は、突如血相を変えた。


通谷はそんな秋葉に目もくれず、玄関に立つ二者を凝視して叫ぶ。

「女子だぁ!班長!ヨシヒコが女子と話してるっすよ班長!ヨシフィホゴォ!?」

「黙って!!!」

秋葉は通谷を小声で怒鳴りつけ、持っていた水筒をその口に捩じ込んだ。


「あのさ…ヨシヒコ君。」

覗き込む2人を他所に、少女は話し始めた。


「…この前の話、覚えてる?」

「…覚えてるよ。それで?」

ヨシヒコが下駄箱から手を離し、問い返す。


「…なんは?ほろはえのははひっへ…。」

「通谷…何て…?」

「はんははおへほふひひふいひょお――」

「うるさい!」

「はひ…。」


物陰の2人は、再び会話に耳を傾ける。


「私の話はね、この前の通り…」


少女は、一息空けて話し始めた。


「ヨシヒコ君、私達の班に移る気はない?」


「なっ…!?」

「ほあ!?」

物陰に戦慄が蔓延する傍で、ヨシヒコは静かに口を開いた。


「……僕は――」




To Be Continued

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