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理科部冒険記NEXT  作者: Taku-3
瓦礫の街編
15/22

第十五幕・HERO'S DEFEAT

「う…うぅ……」

眩しい光の中、目が覚める。


背中に伝わる冷たい感覚。

(ここは……床…?何で…。)


「痛っ……!?」

起き上がろうとするも、全身に走った痛みに阻まれる。


自身の胸元に目線を送ると、

包帯が大雑把に巻かれている。


その時、顔の真横を足と担架が通り過ぎる。


「ドクターは…ドクターはどちらに!?」

担架を担いでいる一人の若者が焦った口調で叫んでいる。


「っ知らねえよそんなもんッ!!!

自分で探せや…!このグズがよぉ!!!」

横で他の患者の処置をしていた看護婦が涙声で叫び返す。


「ナース…!ドクターが…手術中に倒れて…」

遠くから聞こえた不穏な声に耳を傾ける。

その意味を考える間もなく、

横にいた看護婦が立ち上がった。


「あぁもう終わりだよ、終・わ・り・!

やってられっかよこんなもん…!


…助かる余地の無い命のために過労死したがるような馬鹿だけでやれば良いだろッ!!!」


看護婦が包帯を放り投げ、どこかへと歩み去っていく。

床に落ち、解けた包帯が転がる先に目をやる。

…そこには、深い傷を負い、手当てもされず、床に放り投げられるようにして転がる人々の姿があった。


「……待って!助けて!ウチの子だけでもぉ!!!」

「…このヤブ医者がッ…!俺の妻を返せッ…!でなきゃ全員殺してやるぅぅッ!!!」




「…何だ…コレは……。」

凄惨な光景に、痛みも忘れて起き上がる。

目を背けたいのに、背ける事が出来なかった。


・ ・ ・


「…目を覚ましたようだな。ヨシヒコ少年。」

聞き覚えのある渋い声に顔を上げる。


「分かるか?ここは病院だ。…と、言っても、最早満足に機能していないがな…。」


「……マワリ警……監督官…!」

「この際呼び名はどうでもいいさ。

何より、この件で我々魔王軍対策本部の信頼は失墜した…。


…雇用主である我々がこのザマでは、君達の顔に泥を塗ってしまった事になるな…。」

マワリさんは、そう言って僕と目を合わせようとしない。

「そんな事は……」

マワリさんは、そう言いかけた僕を左手で静止し、右手で病院の待合室"だったであろう場所"を指さした。

「…この惨状を見ろ。」


「……村の一病院に、見渡す限りの死傷者…。

全て…我々の油断が招いた失態だ…。」


「…悪いのは村を襲ったモンスターですよ…。

それに…僕だって__」


「その"悪"から!人々を守るのが!我々の使命だった筈なんだッ!!!」

「…ッ!!!」

室内中に響き渡る程の声量で、マワリさんががなり立てる。


「…俺は…!使命を果たせなかった…!

それだけの事だ…!!!」

「マワリさん…。」


…マワリさんは、俯いたまま静かに話し続ける。


「…済まない。取り乱したな…。

…君の仲間も院内に居る筈だ。着いてきてくれ。」

「…はい。」


・ ・ ・


白い廊下を歩き続ける。

火傷の残る全身は、錆び付いた機械のように鈍く、病棟すら地平線の見える砂漠のように感じられる。


待合室程では無いにしろ、怪我をした人々が病室から放り出され、うずくまっている。


「…軽傷患者、及び助かる見込みの無い患者は治療を後回しにされている…いや、後回しにせざるを得ない状況だ。」


「…幾ら理にかなっているとしても…こんなのって…。」

陸に打ち上げられた魚のようになった患者達を見て、哀悼の目を向けずにはいられなかった。


「…もうすぐ着くぞ。頑張れ。」

亀のような速度で歩く僕に対し、マワリさんはそう告げた。



「…の……戦…め…!」

ふと、廊下の奥から聞こえてくる声に気付いた。

「…何だか騒がしいですね…。」

「待て…あそこがリカブ・インの病室の筈…。」


マワリさんは、暫く病室の方から聞こえてくる声に耳を傾けた様子で__

「…急ぐぞ!ヨシヒコ少年!!!」

「…えっ…!?……はいっ!」

ガタガタとして動きでマワリさんを追いかける。



「……ふざけやがって…殺してやる…!!!」

「…やめて下さい…!患者さんに向かって…!」


リカブさんの病室に辿り着くと、看護婦と見知らぬ男が揉み合っている。

…ベッドの上では、静かにリカブさんが眠っている。


「何をしているんだ!!!」

2人の間に、マワリさんが割って入る。


「クソッ…!」

男がマワリさんの横をすり抜け、ベッドの上のリカブさんに飛び掛ろうとした、その時。


「何をしていると…聞いているんだあッ!!!」

マワリさんは男の襟元を背後から掴み、病室の入口に向かって放り投げた。


「わっ…!?」


…足元に飛んできた男の顔面は涙でグシャグシャ、目元は赤く腫れ上がっていた。

「邪魔すんじゃねえ…コイツの…コイツのせいで俺の娘は……俺の娘はぁァァァァ!!!」

暴れ続ける男を、マワリさんが抑えつける。


「離せっ…離せえッ!!!

コイツらがまともに戦ってれば…!!!

返ぜぇ゛っ゛!!!

モンスターに殺ざれた娘を返ぜぇっ!!!


…来年には小学生だったのにィ…!!!

友達だって沢山出来て…優しい子に育つ筈だったのにィィッ!!!」


「………。」

……僕には、この男を止める事が出来ない。

…そう感じたのは、きっと怪我のせいなんかじゃなかっただろう。


「よさないかッ!!!

市民を守るのは本来我々の役目…。

…娘を守れなかった無能な守り人が憎いなら俺を殴ればいいッ!!!」


…男は目を見開き、マワリさんを凝視した。


「"偽の魔王を倒した"勇者にすら抗えなかったんだ…。

雇われの身に過ぎない彼らに罪は無い…!!!」

「……マワリさん…それは……。」

僕が"弁解"する間もなく、マワリさんは男の上から身体を退かした。


「はあ…はあ…ぁッ……!!!」


バキィッ


男はマワリさんの顔面に殴り掛かる。

「…この無能……役立たずッ…!!!

死んじまえ…死んじまえこのクソ野郎ッ…!!!」


吹っ飛ばされて倒れたマワリさんに飛び乗り、男はひたすらマワリさんを殴り続ける。


「やめて……もうやめて下さいよォォーッ!!!」

見るに耐えなくなった看護婦が喚く。



(「偽の魔王を倒したのも…お前の力では無いのだろう」)


(「お前は…勇者ではない」)


…悲観と暴力に満ちた病室の中、僕の頭ではあの時のプロミネンスの言葉が何度もループしていた。



To Be Continued

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