第一幕・討伐、そして就職へ
本作は、作者が中学時代に執筆したストーリー「理科部冒険記」及び、そのリメイク作品である「理科部冒険記・第零幕」の続編となります。
まだ「理科部冒険記・第零幕」をご覧になっていない方は、本作より先にそちらをご覧頂けると幸いです。
…と言いたい所ですが、リメイクと続編は並行作業で執筆しております故、現在「理科部冒険記・第零幕」は未完結となっております。(2025/6現在)
首を長くしてお待ち頂くか、ネタバレ覚悟でご覧頂けると幸いです。
僕の名前はヨシヒコ。
3日前、理科部の好奇心による実験によって異世界に飛ばされてしまった、我ながら可哀想な青年だ。
一昨日、そして昨日の話なのだが、異世界に来たばかりで、家も職も無かった僕はハローワークに行き、施設内の無限回廊を踏破し…
…いや、この話はどうでも良いんだ。
"勇者になり、魔王を討伐した"
これで十分だろう。
…自分でもここに来てからの出来事を正確に説明出来る自信が無いのだ。
「おーい!ヨシヒコ君!何してるんだい?」
そう遠くから声を上げているのは、僕の仲間の戦士、リカブ・インさんだ。
異世界に迷い込んだ僕を保護し、旅に付き添ってくれた人物でもある。
「一度村に帰ろう。もうすぐ日も暮れてしまうし、急がなくては。」
「まあまあリカブさん、どうせ30分で帰れるんですし、そう焦る必要も無いですよ。」
リカブさんを横で宥めている魔導士は、9万職員さんだ。"無限回廊"の異名を持つハローワークに勤務しており、僕の"勇者の素質"とやらを見抜いた人物だ。
「さ、乗って下さい。」
9万職員さんが指差す先には、魔王との戦いで大破したタクシーがあった。
「タクシーを再利用するとは…そのエコロジー精神に感動したよ!9万!」
「いや…徒歩の方がy」
「乗りたまえヨシヒコ君!そして彼女のエコロジー精神への感動を分かち合おうじゃないか!」
半ば無理矢理タクシーに引き摺り込まれた。
9万職員さんが音の出なくなったクラクションを殴りつけ、叫んだ。
「ブッ飛ばして行きますよぉぉぉぉお!!!」
「ひぃぃやァァァァァァアァァァァア!!!」
タクシーは発進した。
悲鳴を置き去りにするように、
煙と火花を散らしながらアクセルは踏み込まれていく。
・ ・ ・
「はぁ…」
えげつない速度にも慣れてきた頃、僕は顔を顰めつつ溜息をついた。
「どうしたんだいヨシヒコ君?」
「ん?何か言いましたかリカブさん?」
「済まないヨシヒコ君、走行音がうるさ過ぎて何も…」
「リカブさん、もう少し大きな声で話してもらえますか?」
「勇者様にリカブさん?何の話をしているんですか?」
「え?何だって?なんて言ったんだ9万?」
…というやり取りが砂利道を抜けるまで続いたのはどうでも良いのだけれど…
早い話、今の僕は無職なのだ。
勇者は魔王を倒せばお役御免、
高級ニートの爆誕という何とも悲しい現実に、現在進行形で巻き込まれている。
整備された道に入り、走行音も落ち着いてきた。響くのは車体の何処かが壊れる音と、エンジンが発火する音だけだ。
「成程、職業か…」
「元の世界に帰れる見通しも立たないですし、何かしら生計を立てていかないと…。」
続けて僕は呟く。
「というかショックですよ…
魔王を倒しても報酬も何も無いなんて…」
「まあ良いじゃないか、私も君が再就職するまではサポートするつもりだよ。」
続けてリカブさんが述べた。
「まあ、言ってしまえば勇者は"平和の奴隷"みたいな物だ。これまでも、誰かの"無償の勇気"によって世界は救われて来た。君が成し遂げた事は誇るべき行いだよ。」
「平和の…奴隷…?」
怪訝そうに呟く僕に対し、9万職員さんが告げた。
「辛く苦しい中でも、誰かに尽くす事が出来るからこそ、"勇者"は"勇者"で居られるんです。もし私が勇者様の立場だったら、きっと逃げ出してますからね。
無給労働なんてクソ喰らえです!」
「えぇ…。」
軽く引いたけれど、9万職員さんは話を続けた。
「勇者様…いえ、ヨシヒコさん、私を誰だと思っているんですか?
ハロワ職員ですよ!ヨシヒコさんの適職なんて、100個だろうが1,000個だろうが見つけてやりますよ!」
「あ、流石に1,000個は結構です」
冗談を流しつつ、
「でもありがとうございます、少し希望が湧いてきました」
僕は9万職員さんに感謝を述べた。
「よし、じゃあ村に帰ったら、まずはハロワに行こう!」
「「はい!」」
・ ・ ・
「…あれ?」
リカブさんが突然呟いた。
「どうしたんだ9万?ハロワの駐車場を通り過ぎているぞ?」
「あ、ホントだ。何処かに用事でもあるんですか?」
そう立て続けに9万職員さんに質問を投げかけた。
「………ません」
「「え?」」
「タクシーが…減速出来ませんッ…!」
「「……………」」
「「ぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇえ!?」」
目前には広場の噴水が迫る。
速度計は生気を弱める事無く、
火花と煙を散らすタクシーは暴走を続け…
ドガッシャァァァァァン!!!
タクシーは噴水と心中するかの如く、
爆炎を吹き上げた。
To Be Continued