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 まず運ばれてきたのは前菜だ。


「フォアグラのソテーとじゃがいものフリット、シトラス風味のサンテュベールでございます」


 給仕が静かに告げてそれぞれの前に皿を置いていく。

 前半はなんとなく分かるが後半はなんだ、とイヴェット以外が訝しむ。

 パウラなどは恐る恐る、行儀悪くも皿に添えられた液体を舐めている。


(最近できたソースなのよね)


 物理的に遠い土地に住んでいるグスタフ達はまだ知らないだろう。

 ジビエの内臓を使った濃厚なソースだ。

 それにレモンを加えて爽やかにし、フォアグラと合わせても重くなりすぎないようにしてある。


「お、これはうまいな。ワインに合う」


「本当ね。この不思議なソースも素敵だわ」


「ふん……」


 パウラは散々古臭いだのなんだの言った手前素直に褒めたくないのか、それとも口に前菜を突っ込むのに忙しいのか何も言わない。

 前菜なので量はそう多くなく、皆名残惜しそうに皿を見ていた。

 すかさず給仕が皿を下げて次の料理を前に置く。


「カリフラワーのヴルーテでございます」


 先ほどの前菜が凝っていたためか、やや失望の空気が広がるのをイヴェットはほくそ笑んだ。

 そう、ただのカリフラワーのスープの濃厚版である。

 どこからどう見ても厚めの陶器のスープ皿の中に白いポタージュスープが入っている。


「な、なによこれ!」


 しかし手を付けたパウラは思わずと言った様子で声を上げた。

 このカリフラワーのスープは一度スプーンを入れると2層めがあるのである。

 

 二層目は茄子のピューレを薄く敷いてある。

 この茄子は一度真っ黒に焦げるまで焼いた後に中身を取り出しペースト状にしたもので、香りが濃厚なのだ。

 このピューレの味付け自体はあっさりしたものなのだが、ヴルーテ部分と一緒に食べるとなんともいえない複雑さになる。

 さらにスプーンを進めるとワイン蒸しにしたハーブ香るムール貝が出てきて味の変化を楽しめるようになっているのだ。

 

 客人たちは舐めるようにスープを堪能した。

 ここまでくるとオーダム家の料理を疑う者など誰もいなかった。

 もはや次のメイン料理が楽しみである事しか頭にない。

 一人を除いては。


(どういうこと、まだ豚もきのこも卵も出てきていないわ)


 ダーリーンは焦っていた。今回饗されたのはいつもより非常に凝った料理だ。

 だとすれば普通は客の「好物」である食材を最初からふんだんに使っているものではないだろうか。

 

 ちらりとイヴェットを見る。

 しかし当然のことながらイヴェットは落ち着いて、ゆったりと余裕をもってスープを味わっていた。


(もしかしてメイン料理に全部……? そういうサプライズなのかしら)


 ダーリーンの目論む阿鼻叫喚はまだ訪れていない。

 なんなら本人が気づく前、給仕中などに指摘して自分の株を上げようと思っていたのだ。

 

 しかしダーリーンの予想を裏切ってメイン料理もひたすら美味しいだけで該当する食材は入っていなかった。

 デザートも一般的な量だった。

 というより、バターたっぷりのケーキなどではなくあっさりしたゼリーだったのでパウラもご満悦だったのだ。


(おかしい、厨房に行った時には確かにカウンターの上に卵やきのこがあったはず。バターの匂いがするケーキも冷

ましてあったのに!)

 

 その後食後の紅茶が注がれる。

 食事は全て提供されたという事だ。


「ふん、食事はまあまあだったな」


「そうねあなた。これならまた来てあげても我慢できるわね」


「恐れ入りますわ」


 カペル夫妻はおかわりまでしてこの調子である。

 しかし屋敷に着いた当初に比べれば落ち着いたようだ。


 (美味しい食事でお腹が満たされればだいたいの人は攻撃性をひそめるもの。単純だけれど有効な手よ)


 なぜかまたオーダム家に来る気らしいのだがもう来ないでほしいとイヴェットは思う。


「ゆっくりしたいところですが明日は早いので、皆様も就寝のご用意を」


 イヴェットがそう立ち上がると各々部屋に向かい始める。

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