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 結婚式と披露宴のすべての予定が完了し、新郎新婦は馬車で邸宅に向かう。

 普段着ているドレスより装飾が華美な為どっしりと重く、蹴り上げなければつんのめってしまうようなドレスで歩き回ったのですっかり疲れてしまっていた。

 ヘクターも慣れない事で緊張していたのか窓にもたれてぐうぐうと寝ている。

 イヴェットもうとうとしながらぼんやりとこれまでの事を考えていた。


 ヘクターは平凡な男性である。

 濃い茶髪に少し薄い茶色の瞳を持ち、少し気弱だがそれなりに優しい、どこにでもいる人といった感じだ。

 

 勉強が苦手で、乗馬も得意ではないと言っていたが友人を大切にしているのは分かる。

 今の所お互いに特別な感情はないがオーダム家としてやっていくには申し分ないとイヴェットは考える。

 

 もちろん結婚生活を続けていく内にもっと仲良くなれたら、とも思うしそうなるように努力するつもりだ。

 元来気が強く男性から敬遠されがちだったイヴェットは友人からもらった「貞淑に、大人しく」というアドバイスを胸に刻むのだった。


 結婚式の前日まで花嫁は家族と過ごし、式の後からは家族と離れて家に入る。

 それが一般的な結婚だった。

 

 しかしヘクターは事前に「お父さんが心配なら一緒に住めばいいんじゃないかな」と申し出てくれていた。

 初顔合わせの後の散策の時の事である。

 ヘクターの母も呼び寄せて、寂しくないようにしようという提案にイヴェットは驚き、また嬉しくなった。


「そうしてくれるととっても嬉しいけれど、いいの? あなたのお母さまは大変じゃないかしら」


「大丈夫だよ。それに知っての通り僕には父がいないから、君のお父さんの事も大切にしたいんだ。年の近い母と君のお父さんなら合う話もあって気がまぎれるんじゃないかな」


(そうかもしれないわ)


 父は体調を崩してからずっと家にこもっている。

 たまに友人が訪ねてくるのを心待ちにしていたが、元々社交的で友人と話すのが大好きなのだ。


「じゃあ、お言葉に甘えてもいいかしら……?」


「もちろんだよ! あ、初夜はしばらく延期になると思うけど……」


「へっ!?」


 急に夜の話を切り出されてイヴェットは驚いた。

 そういう話は外で言うべき事ではない。

 慌てふためきながら「そ、それは大丈夫ですから!」と言うしかなかった。

 

 実際、初夜について17才のイヴェットは何も知らなかった。結婚教育についても「夜の事は全て男性にお任せしておけばいいのです。むしろ女性が積極的だと娼婦のようだと思われますよ」と言われていたのだ。

 何を言っているのか何も分からなかったが、おそらく「考えるな」という事なのだろうとだけ理解した。


 今馬車はイヴェットとヘクターが乗っているものの他に後ろから父の馬車が着いてきている。

 明日には義母が屋敷に到着するらしい。


(ヘクターさんは父を本当の父のように大切にしてくれるけど、私もお義母様の事を本当のお母さまみたいに思えたらいいな)

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