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ダーリーンが復活したのは翌日、イヴェットが商会から戻った時であった。


「昨日はごめんなさいね、少し羽目を外しちゃったみたい」


 羽目を外しているのはいつもでは、と思わないでもないがダーリーンが素直に謝ることが珍しく気にならなかった。


「いえ、私も仕事が長引いてしまって。ちょうどいいので今ある程度決めましょうか」


 仕事の合間に使用人に集めてもらった国内外の地図や貸し馬車の資料を談話室に広げてお互いに座る。


「どこか行きたい所はありますか?」


「全部行きたいのよ」


(そうきたか)


 明確に旅行と言い切っていたのでどこか目的地があるのかと思えばそうでもないようだ。

 本当に話だけ聞いて羨ましくなっただけなのかもしれない。


「全部というのは時間的にも難しいかもしれないですね。まずはどこか一つの場所へ行って、また別の所にいきましょう」


「え~?」


 ダーリーンは不満げだ。眉を寄せてつまらなそうに地図を見る。


「じゃあハローディ国はどうかしら。宝石がざくざく採れるって聞いたわ」


「採掘場ですか?」


「採掘場なんてつまらないわ。行きたいのは宝石が沢山あるところよ」


「そうなるとバザールでしょうか。ですがお義母様、ハローディ国とは関係が悪化しており今は個人の都合で入国することはできませんよ」


「なあにそれ。なんとかしなさいよ。商会証とか使えないの?」


「そんなことをすれば信用がなくなり……」


 その後もイヴェットは無茶ばかり言うダーリーンを宥めるのに必死だった。

 国外地図を用意したのは地理を分かりやすくする補助目的だったのだが、思わぬ時間を食ってしまったのだ。

 丁寧に説明してもなかなか理解してもらえない上に国交問題をイヴェットのせいにされる。

 周辺の土地を全て説明させる勢いで悩んだ後、結局国内の端にある港町、ピスカートルに決定した。


(な、長かった……。よく戦ったわ、私!)


 商談で鍛えられた粘り強さと話術の向上を実感した瞬間でもある。


「ピスカートルは国内ですが、我が国の海の玄関口でもあり品物も人も、異国の様々なものが流通しておりますわ。商会取引出来ない珍しい食文化やお酒も勿論あります。掘り出し物の宝石ともであるかもしれませんね。お義母様は海はご覧になった事が?」


「……ないわよ」


「私もありませんわ。商隊の方が言うには、海は広大でどこまでも深く、青い水と白い波が美しいのだそうです」

 ダーリーンはしばらく口を閉ざして何かを考えた後、ピスカートルを楽しみすると言ったのだった。

 

 その時イヴェットもヘクターの言葉を思い出してた。


「そういえばお義母様、家族旅行ってその、お義母様とヘクター様と私、でよろしいのですよね」


 まさかね、と思いつつ微笑んで聞いてみる。


「あらやだ意地悪言わないでちょうだい。私の兄夫婦と娘も一緒に決まっているでしょう?」


 ダーリーンは悪魔の笑顔でそう答えた。

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