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そんな中で商会の仕事を引き受けたのはイヴェットにとって喜ぶべきことだった。

 ヘクターが仕事をしていないのはダーリーンも分かっているのか、「仕事がある」と言えばそれ以上はあまり追及しないのである。


(女が働くなんてみっともない、とかは言われるけれど私が稼がないと浪費も出来ませんものね)


 オーダム家の資産はダーリーンが何かした所で特に不安はないのだが、数字が分からない彼女にはその脅しだけでかなり効いたらしい。

 それでもイヴェットに何か言いたいのかたまに屋敷を訪れる商会員にイヴェットの疵瑕を尋ねては徒労に終わっているようだ。


 実際イヴェットは商会長として父親以上の働きを見せていた。

 商談の場では若さと性別から舐められる事が多いが、正式な代理であると説明すれば善良な相手であれば納得して席についてくれた。

 善良な相手ではない場合は、取引自体を撤回しても問題ないと圧力をかけられるくらいにはオーダム商会は育っている。


 そもそもヘクターが会長になった時に大丈夫なのかという気がかりと新体制への期待があったのが、見事に出だしからこけて放置なのだから憂慮は当然だ。

 商会員たちも最初こそトップがヘクターからイヴェットに変わった事に不安を感じていたようだが、今ではその仕事ぶりを認めてむしろ積極的にサポートをまわしてくれるようになった。

 貴族社会においてコネや人脈は切っても切れないものだがオーダム商会は実力主義で採用しているようである。


(オーダム商会の人たちは皆やる気があって素晴らしいわ。お父様の人の見る目は本物だったのね。その分、上が弱かったりゴタつけば不満に繋がるからしっかりしないと)


 前任が無責任なヘクターだった事もあり、イヴェットのこの姿勢は実績以上の信頼を得た。

 知らない内に好循環が生まれ、オーダム商会は一目置かれるようになっていた。


「最近儲かっているようね」


「お義母様」


 商談に向かおうと準備をしていたイヴェットに、ダーリーンが急に話しかけてきた。

 普段から嫌がらせと嘲罵以外で接触してくる事がないのでイヴェットは身構える。


「何が……でしょうか?」


「察しの悪い子ね。本当にちゃんとやれているのかしら? まあいいわ。ヒンズリー様から聞いたのよ。最近オーダム商会が目覚ましいと」


「はあ」


 ヒンズリーとはダーリーンのろくでもない酒のみ仲間だ。

 いつも酒臭い上に使用人たちに嫌がらせをしているので当然の事ながら印象は最悪だ。

 カジノ経営を始め後ろ暗い事に手を伸ばしているようだが、オーダム家と取引した事はない。

 それでも噂くらいは耳に入るのだろう。


(自分の家門の収入源すら他人に聞いて鵜呑みにしているなんて、いっそ不思議ね)


「もしそういったお話がお耳に届いているのでしたら、優秀な従業者や懇意にして頂いている方々のおかげですわ」


 イヴェットはにっこりと当たり障りなく返す。


(多分お金の無心なのでしょうね。十分な生活費はお渡ししているのだけれど)


 そもそもダーリーンに渡す義理はないしなぜ未だにこの屋敷にダーリーンが居座っているのかも分からない。

 しかし家名とお金で妙に人脈を広げてしまった彼女に強い態度をとると、闇雲にイヴェットの悪評を流すしヘクターが荒れるのだ。

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