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(華やかな場所は得意じゃないと思っていたけれど、屋敷の中にいないっていうだけですごい解放感だわ。それにみんな楽しそうにしていてほっとするわ)


 見知った空気感の中で、自分の意思でふらりと進む先を決められる事のなんと贅沢なことだろう。

 薄い月明りが照らす男爵家の庭は丸く整形された低木と意図して視線を遮られるように誘導された高木が見事に調和していた整形式庭園である。

 トピアリーの間には香草が生えており、居心地と景観を両立させていた。

 このまま進むと高木と高さが揃えられた優美なガゼボがあり、そこで一休みしながら開かれた景色を鑑賞する事が出来るのだ。


「この庭も久しぶりだけれど、やっぱり素敵ね」

 それこそ幼い頃はもっと迷路みたいになっていて、イヴェットやクラリッサはよく追いかけっこやかくれんぼをしていた。

 見る者を楽しませようという心が伝わってくる造形は変わっていない。


「ここでしばらくのんびりさせてもらおうかしら」


「どうぞ」


「えっ?」


 さっさとガゼボのベンチに座るとどこからか笑い交じりの若い男性の声がした。

 雲がかった月明りの中、よく見ると隅の方に一人、誰かが座っている。

 思い切り独り言を聞かれてしまって恥ずかしい。


(扇を持ってきていれば顔を隠せたのに!)

 しかし持っていないものは仕方がない。気合で澄ました顔を作るしかない。そして暗さで分からない事を祈る事だけができる事だ。


「星満ちる夜に出会えた事を感謝いたします、レディ。ご挨拶をさせて頂いても?」


「星満ちる夜に。ありがとうございます紳士な方」


 囁くような、上流階級の穏やかな挨拶だった。


「私はフランシス・コルボーンと申します。今日は男爵のパーティーにご招待いただいたのですが、どうも華やかな場は不釣り合いな気がして、ここで涼んでいたのです」


「分かりますわ、コルボーン様。私も久しぶりのパーティーにどうも気後れしてしまって」


(まあそんな事、さっきの独り言を聞いていれば明らかでしょうけれど)


 パーティーは始まってそう時間も経っていない。

 露出の多いイブニングドレスで外に出るのはやや寒い深秋の時節の夜。

 ともなると庭は歩くものではなく眺めるものだ。

 他に誰かがいるとは思わなかったのである。


「イヴェット・オーダムですわ。コルボーン様といいますと、伯爵家の方かしら」


「私はただの三男坊ですよ。良かったらフランシスとお呼びください。近衛騎士として城に勤めています。それよりもオーダム様は、もしかしてご結婚なされた……?」


「まあ、ご存じでしたの?」


「それはまあ」


 フランシスが肩をすくめたように見えた。

 まだ暗がりにいるせいで、その姿はよく見えない。

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