002.森林の古代図書館
ミステル森林の何処かに在る古代図書館、目的地に到着するまで苦労する。
そう思ってた時期が俺達にもあったよ。
「……自己主張が激しいわね」
いくつも立てられた看板にシスティナが呆れた視線でぼやく。
当の看板には『此処から右! 右の道を進むと古代図書館! ウェルカム!』と華やかな絵と大きい文字で書かれていた。
もしかしてあまり人が訪れないのかな。
「暇なのかな」
「こんな薄暗くて不気味な場所、そうそう立ち寄らないわよ」
それは分からないけど、確かな事は看板は真新しいく最近立てられた物だと言うことだ。
ふと思い出す。投獄城で戦った人造人間の言葉を。
「投獄城の人造人間は古代図書館に居る彼女と呼ばれる人物と連絡を取ってたけど……」
彼女と呼ばれる人物について口に出すとシスティナがこっちを振り向いた。
視線がなにその話? はじめて聞くんだけど? っと言いたげな鋭いもので怖い。
「あ、あー! あの時は色々ごたごたしてて失念してたんだ!」
「人造人間が連絡を取る彼女? 人造人間同士の情報をやり取り、統括してる者が居るって噂は聴いた事が有るわ」
確かにあの時人造人間は彼女に情報を求めて……なんだか分からないけど拒否られていたなぁ。
「あの時は俺の該当記録が無いとかで彼女に情報を求めてたけど……もしかしてその彼女なら俺のこと何か知ってるのかな」
「どうかしら? 人造人間の中には過去から現在に至る人類の遺伝子情報を記録してる者も居るって聴いてるけど……」
それは期待が持てる話だ。人造人間なら俺に関する情報も記録してるかもしれない。
そう思って浮き足立ちながら前を歩くと。
「……あまり期待はしない方がいいわよ。その方がショックも少なくて済むわ」
彼女なりの気遣いに俺は黙って頷く。
盗賊ギルドでさえ俺の情報は未だ何も得てないと云う。
俺の家族や恋人、捜索願いが出されない理由も含めて。
それとなくカラレスにも行方不明者と捜索願いに付いて聞いたけど、軍が関与している行方不明事件に関しては捜索願いさえ出されない事が常らしい。
それとアズマ極東連邦国では【神隠し】と呼ばれる現象によって一時的に人が行方不明になり、ふらりと戻って来るなんて話も。
いずれも俺には当て嵌まらないことだけど、いい加減少しは情報や手掛かりが欲しいところだ。
「少しは進展が得られるといいけど」
「それは、そうね……知らないことや欠けてる情報の方が多いものね」
責めて魔人と聖女の遺産の在処ぐらいは知りたいよね。
そんな事を考えながら俺は、やたら立てられた看板を目印に森林の中を進む。
▽ ▽ ▽
無駄に多く立てれた看板のおかげで俺達はミステル森林の開けた場所に出た。
木々の隙間から差し込む日差し、海岸が見える丘に建てられた古い建物。
それは建物の壁に生えた苔と蔦が年月を感じさせ、相当古い施設だと物語っていた。
図書館というよりは古い教会のような造りにも見える……神秘的な雰囲気以上になぜか懐かしさえ感じる。
「これが古代図書館?」
「しんみりしてるけど、此処が古代図書館で間違いないわ」
俺はシスティナの視線が指す方向に顔を向け、『ここ! 此処が古代図書館!』と飾れた看板に思わずため息が漏れる。
「……なんか感動とか色々台無しだね」
「道に迷うことなく辿り着けたんだからいいじゃない」
それはそうだけど……心の奥底から感じた懐かしさを返して欲しいよ。
俺は気を取り直して苔が生えた扉を開け放ち、突然鳴り響いた物音に思わず身構えた。
「ようこそ古代図書館へ!」
歓迎の言葉と共に施設の中から一人の少女が姿を現した。
システィナに負けず劣らずの絹糸のように細かい金色の美しい長髪を靡かせ、ぴったり身体に吸い付くような服装を着た少女が笑みを浮かべる。
美しい長髪の金髪以上に変わった服装に印象を全てを奪われたけど、少女が浮かべた笑みはどこか無機質のように感じるのは気のせいかな。
なんとなく少女の顔をまじまじと見詰めると、彼女もまじまじと見詰め返し……同時に首を傾げた。
「なに鏡合わせみたいなことしてんのよ。それとあんたら少し顔が近いわよ!」
おっと、確かに初対面でこれだけ顔を近付けるのは失礼だ。
むしろ不快感を抱かれてもおかしくはない。
「ごめん、無遠慮だったよ」
「別にいいよ、あなたはなんだか懐かしい、不思議な感覚もするし……もっと顔を見せてよ」
そう言って少女は俺の顔を両手で掴み、自らの顔に近付けた。
変な子だ。手の感触は人肌なのに妙に硬い。
それに初対面に対する距離感でも無いのに平然と観察を続けている。
言動は活発な子のそれを思わせるけど、それ以上に今の状況に戸惑う。
「……ええっと、離してくれないかな?」
「うーん、もう少しダメ?」
そんな仔犬のような表情でおねだりされても。
「仔犬が2人? というかあんたら実は血縁関係とか?」
「えー? 俺とこの子は初対面だよ」
「記憶喪失がなに言ってんのよ。その子の瞳はあんたと似てるし、顔付きも何処となく似てるけど」
「瞳の色が似るなんてよくあると思うけど……それに顔付き、そんなに似てるかなぁ?」
「似てないと思う? しばらく鏡見てないから分かんない」
じゃあ分からないなぁ。
俺がそんな事を思い浮かべると少女は首を横に振る。
「でも血縁関係は有り得ない。なにを隠そう! この私は千年前に製造された超高性能にして超未来型人造人間:アインだから!」
どうしよう急にアホっぽくなったよこの子。
「急にアホになったわね。ってかアインって本物なの?」
「知ってるのシスティナ?」
「話だけよ? 大崩壊直後、まだ存在していた魔物の脅威や自然災害から人類を守護していたのが、おそらくその子よ」
「もう魔物は絶滅……正確には在り方を変えて人類と共存する道を選んだ。人類も私が守護するまでもなく繁栄、技術力も発展したからもう護る必要も無いの」
それは彼女が長い使命から解放された事を意味するのか。
人類、たぶん正確には人間の守護を課せられ製造されたアインは使命を終えて……使命を終えた彼女はどうするんだろう?
「キミはいまどうしてるの?」
使命を終えた彼女に問う。
「1,000年も働いた。人の労働環境は1日8時間で週休2日制と聴いた! だから今の私は溜まりに溜まった休暇を満喫してる!」
休暇というより退職、いや最早余生では? そんな浮かんだ言葉をぐっと飲み込んでどんな顔をしていいのか分からず、システィナに視線を移す。
システィナもアインの解答が予想外だったのか、困った様子で。
「ええっと、それは……あれね。当然の権利とも言えるわね。人造人間の労働基準とか分からないけど」
「困った事に私を造ったマスターは遠の昔に禿げ散らかって死んでしまった……そもそも指示も曖昧、私の肉体機能にも謎と無駄が多い。だから禿げる」
不満そうにマスターについて辛辣なアインに俺は、
「こら、故人の事を悪く言わないの」
注意をした。
「なんで父親みたいな注意なの!?」
「え、なんとなく?」
「あーそう? ところでさっき無駄な機能とか言っていたけどあんたは何が出来るの?」
システィナがアインの機能について質問すると彼女は、胸を張って答えた。
「人造人間でありながら繁殖行為も可能! ついでに唾液、頭髪、皮膚から遺伝子情報を収集記録も可能なんだ!」
無駄なの? 少なくとも遺伝子情報の収集記録は人類の情報を遺すためには必要だと思うけど。
「あ、こっちは必要な機能」
「なんだ、必要な方だったか」
「……え? 繁殖行為が可能って必要なの? 人造人間なのに? ……あんたのマスターは人を人工的に創りたかったのかしら?」
それは確かに疑問が生じて普通と思うべきか、しかしアインの生みの親は既に亡くなってる。
何か手記か記録を遺していれば判るかもしれないけど。
「さあ? 生前のマスターに聴いても『お前の製造に関わることだ。いずれ秘密が暴かれる日が来るかもしれないが……』なんて事を言ってたよ」
その口振りからしてアインは普通の人造人間とは違うと言ってるようにも聴こえるなぁ。
いや、俺が見た範囲でアインは他の人造人間とは明らかに人そのもの。
というか、投獄城の人造人間が連絡を取っていたのはアインだったのか。
その事にようやく気が付いた俺は思い切って訊ねることにした。
「話は変わるけど、投獄城の人造人間から連絡が来なかった?」
「連絡? ああ、アスラと呼ばれる人物の登録データ及び該当データの提供申請が来てたけどね。いま休暇中で働きたくないから断ったよ」
「……それで人造人間は『旧式のポンコツ風情がぁぁぁ!!』って急にキレたのかぁ」
俺がありのままを伝えるとアインが頬を膨らませ、
「誰が旧式のポンコツだって? 未だ魔石の神秘供給がなきゃ自律行動もできない旧式風情がよく言えるね」
中々に辛辣なことを。
「あんたが製造されてから経過した年月を考えると……旧式はあんただと思うけど?」
「ふふ、甘いよ! 私は超未来型! 最近製造された人造人間を遥かに凌駕する性能を誇ってるわ!」
超未来型と言われても俺とシスティナは具体的な事が分からず首を傾げた。
するとアインはその反応を待っていたと言わんばかりに両手を前に突き出し……っ!?
「演算開始……体内秘術から物質の創造開始!」
両手に二丁の魔道銃を創り出してみせた!
そしてアインは岩に向かって引金を引き、発射された魔弾が岩を粉々に粉砕した!
「嘘でしょ? 魔道銃は近年ようやく完成してケルドブルク軍とガレイスト軍で運用してるのに……」
確か魔道銃の製造方法を両軍が完全独占して市場にも流さないため、一部の例外を除いて民間人が手にすることはない。
罪人都市ゾンザイの看守と警備部隊は魔道銃を標準装備してるけど、そっちは罪王グレファスが古代遺物を元に製造させた物らしい。
ただそれも近年の話であって千年に製造されたアインが創り出せるのはおかしい。
いや、それ以前に彼女は俺達の目の前で無から有を創造してみせたんだ!
「無から有を創造? 魔術は神秘を媒介に現象を引き起こしてるけど……キミのは一体?」
「原理は秘術と同じだよ。正確には私の中に在る古代遺物の記録から秘術で具現化させてるだけ」
「だけってそれでもすごい事に変わりないよ!」
「ふふん! どう? これで私が超未来型って理解できた?」
それは超未来型と言っていいものなのかな?
アイン自身が記録から秘術で具現化させたと言ってる以上、既に過去に存在していた物を再現できると本人が証明してしまっている。
つまり、それは既に存在してる物を彼女は自由自在に創造できるのであって、アインが知らない物は創造できないのでは?
「キミ自身が知らない物も創造できるの?」
「あんた、痛いところ付くわね」
どうやらシスティナも同じ考えだったらしい。
俺の質問にアインは考え込む素振りを見せ、
「しょうがないなぁ。昔魔物に試し撃ちしたすごい武器を見せてあげる!」
そう言ってアインは今度は、巨大な砲身を誇る武器を創造してみせた。
その武器は俺が今まで見たことも無く、それはシスティナも同様だったのか砲身を凝視していた。
そしてアインはそんな俺たちを他所に、巨大な砲身を空に向け……迸る稲妻と轟音と共に雷の如く閃光を放った!
「名付けてアイン式レールガン! どう? これで魔物を一掃した実績も有るんだ!」
砲身をこっちに向けてドヤ顔を浮かべるアインに俺とシスティナは嫌でも認めざる負えなかった。
彼女が超未来型の人造人間であり既存する人造人間よりも遥かに高性能であることを。
「疑ってごめん!」
「私も謝るわ! 疑って悪かったわね、だからそれをこっちに向けないで!」
「もう、そんなに怯えなくても……? ところで2人は古代図書館に何用で来たの?」
当初の目的をアインと出会った事で忘れかけていた。
大事な用事を思い出した俺とシスティナは古代図書館の入り口を見詰める。
「俺達は古代図書館で調べ事に来たんだ」
「そうよ、その為にわざわざ来たの」
本来の目的を告げるとアインはなるほどっと頷き。
「じゃあ私が案内するよ」
こうして俺とシスティナはアインと古代図書館に入ることに。




