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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
ケルドブルク帝国編
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28.西へ

 山岳竜街で観光と鍛錬を過ごす日々が続いたけど、それもセイズールの国境に入ったからもうすぐ終わりの時が迫っている。

 あれから何度かカイとカラレスと交流を深まることがあって、カイからはアズマに伝わる奥義を二つ教わった。

 その名も土下座とハラキリと呼ばれる万事解決に導く奥義を!

 そういえばそれを教えてくれたカイがシスティナによって山岳竜街から蹴り落とされたっけ。

 

「あの時はカイが死んだとばかり」


 その時の事を思い出してつい口にするとシスティナが眉を顰めた。


「蹴り落としても壁を走って戻って来るとか……はぁ〜次は気弾も撃ち込もうかしら」


「なんでカイに当たり強いの? カラレスの演奏には拍手を送ってたのにさ」


「あ〜? あんたに変なこと吹き込むからよ。前にも言ったけど絶対にハラキリなんてダメよ」


 剣で自らの腹を斬る。それがハラキリと呼ばれる奥義だけど、それで解決することもあるなら使う事も視野に入れなければ。

 内心でそんな事を考えていると、こちらの思考を読んだのかシスティナに睨まれてしまった。


「……紹介状の件もあるから土下座は必須だと思うんだよ」


「確かに弟子入りは頭を下げてお願いするものだけど、あんたの場合は少し自分のプライドも大切しなさいよ」


「一応あんたは私と組んでるんだから」


 そっか、俺が軽々と土下座をすると一緒に居るシスティナにまで悪影響を及ぼすことにもなるのか。

 カイから教わった二つの奥義は使う機会が訪れないのかもしれない。


「分かったよ……それにしてもカラレスの演奏はまた聴きたいなぁ」


 今でも眼を瞑ればリュートから奏でられた演奏が浮かぶ。

 それだけカラレスの演奏と歌声は聞き心地が良くて、不思議と身体の疲労が抜けて力が漲るんだよなぁ。


「彼の演奏には秘術が使われていたわね。疲労回復の秘術と筋肉の活性化を促す秘術がね」


「秘術か……神秘から行使される魔術とはまた違うんだよね」


「えぇ。主に魔術は攻撃的なものから頭のおかしいものと生活に応用可能な魔術が多いわ。それに対して秘術は主に身体の守護や治療、力の増加……まあ簡単に言うと支援系が多いわね」


「本当に色々有るなぁ。じゃあ記憶を奪う……呪いとかは?」


「呪いは大掛かりな儀式が必要になる反面、強力なものが多いと聞くわね。ただ発動には対象に対する強い恨みや殺意、負の感情が必要らしいけど……それらを呪術と分類されているわ」


 それは言い換えるなら俺の記憶を奪ったあるいは消した者は相当強い負の感情を抱いていたとも言える。

 記憶を失う前の俺は誰かに恨まれて当然の事をしてきたのか?

 少しだけ記憶を知るのが怖くなってきた。今の自分と過去の自分、どちらも俺であることには変わらないけど、記憶を失ったことで失った悪性も戻ることになるのでは?

 そうなった時、今の俺はどうなるのか。


「記憶喪失になって人が変わる……なら記憶が戻ったら元に戻るのかな」


「さあ? 混ざるかそれとも過去は過去として受け入れるか、否定するのかはあんた次第だと思うわ」


「そもそも前のあんたがどんな人だったかは……お人好しだったんじゃないかしら?」


 気楽に言ってくれるけど根拠は有るのかな。


「その根拠は?」


「そもそもあんたの記憶喪失は呪術によるものなのかが不確かよ。それにいくら考えても答えなんて出ないわ、それで答えが出たら旅をする意味がない」


 そうだ。俺は自身の記憶の手掛かりを得るために旅をしているんだ。

 盗賊ギルドの仕事や痣者に付いて知ること、そして痣者が一体なにを追っていたのか。そしてシスティナが求める魔人と聖女の遺産を集める。

 それが旅の目的だ。何度も再確認してる筈なのに負の感情が心に影を指すと一瞬だけ目的を忘れてしまう。

 

「そうだったね。旅は始まったばかりだし、まだ何も知らないままだ」


「それと魔人と聖女の遺産もね! まだ一つしか集めてないもの」


「魔人の遺産は残り6つだけど、聖女の遺産は幾つなんだろう?」


「聖女が生前に使用していた物と身に付けいた物なら……聖剣、鎧、指輪、ペンダントと聴くわね」


「それなら4つか……でも聖女エリン縁の物なら教会が回収してるから保管してると思うんだけど」


「実際に聖女の聖剣はエリン教会が保管してるけど、マナの事を考えると教会も少し怪しいのよね」


 確かにマナは人の形に成れる聖剣だ。

 その製造過程から世には明かせない何かが隠されてることもアムゼル大司祭は仄めかしていた。

 それにレオスはマナと似た存在が在る可能性も。

 

「うーん、マナと同じ方法で製造された武具が他にも在るってことかな」


「その可能性は高いわね。ただ魔人の脅威に対する備えを考えるとマナの製造方法が秘匿されてるのも腑に落ちないけど」


「組織は綺麗なままじゃいられないってことか、それとも魔人に対する恨みがよくない方向に走らせたとか」


「よくない方法……人体実験?」


「それは分からないけど……」


 流石に魔人に対抗するためにそんな非道な事をするとは考えたくもないけど、可能性は決して無い訳ではない。

 恨みや復讐心は時に取り返しの付かない方向に進むと本にも書いてあった。それが事実なら当時の教会が復讐心に突き動かされても不思議じゃない。

 長寿種が大崩壊から迫害を続けるように。


「流石に古代図書館には資料が無いかな」


「流石にねぇ〜マナの存在なんて教会も半信半疑だったらしいからねぇ」


 それだけ大崩壊で失った資料や記述も多いなら古代図書館に遺された資料は、限られてるのもかしれない。

 止めよう。旅の目的の一つを見失うような考えなんてするべきじゃないな。

 俺がそんな事を思っていると山岳竜街の住民が、


「セイズールで降りる人は光の橋で降りてくれ!」


 大声を張り上げて俺達のように訪れた人々に告げる声が響き渡った。

 彼らの声を合図にシスティナが魔道バイクを取り出し、俺もサイドカーに乗り込む。

 そしてこの街に来た時と同様に光の橋を渡る。

 こうしてセイズールの到着した俺とシスティナはしばし、山岳竜を見送るのだった。

 あの雄大で巨大を誇る巨竜とまた巡り合う事を祈って。

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