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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
ケルドブルク帝国編
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23.山岳竜を登れ

 巨竜の道を巨大な生物が背中に山と築き上げられた都市を背負いひたすら突き進む。

 山岳竜が一歩進めば巨大な足跡が雪原に刻まれ、その傍らで黒兎が羽踊る。

 なんとも不思議で感慨深い光景だ。

 あの巨大な背中になぜ人々は都市を築いたのか、その答えがあの背中に在る山岳竜街に有る。

 ただ何処から山岳竜街まで登ればいいのか。サイドカーから見渡す限り、岩と苔が茂った甲殻に覆われた肉体と四足。

 それに山岳竜が大地を一歩踏み締める度に振動が伝わり魔道バイクの車体を揺らす。

 

「くっ、これは早いところ尾に近付かないと」


 苦悶を漏らすシスティナに俺は山岳竜の尾に視線を向ける。

 確かに尾が地面を引きずりながら左右に振られているけど、アレに近付いて下手をすれば魔道バイクが薙ぎ払われかねない。

 出発前にシスティナが珍しく弱気になった理由がやっと本当の意味で理解できた。

 山岳竜街に向かうにも命懸けだ。他に都市を目指す旅行者が魔道バイクや魔道車を走らせているけどみんなタイミングを掴まないでいる。

 そもそも尾から背中まで駆け上がるのだって、道中の甲殻で車体のバランスを崩しかねない。


「本当に尾からしか入れないの?」


「近付きさえすれば後は街の住民がなんとかしてくれるらしいわ!」


 システィナは魔道バイクを加速させ尾に迫る。

 それに対して続々と続く旅行者達。

 少し怖いけど不思議な光景だなぁ。人以上の速度で走る乗り物が一カ所を目指して走る光景なんてあんまり想像してなかった。

 記憶を失う前の俺はこの光景を当たり前の様に見ていたのか?

 それさえも分からないけど、今は新鮮な光景と少しの不安と胸の高鳴りに心を震わせよう!


「システィナ! キミなら大丈夫だ!」


 彼女が大丈夫な根拠はある。システィナは観察眼に優れ目も良い。何よりも判断力と行動力が有るんだ。

 彼女が決めた道はきっと大丈夫。なんて当人からしたら無責任かもしれないけど。


「あんた……私に任せなさい! あと山岳竜街名物のスペシャルパフェと肉まんを奢りなさい!」


「それぐらいお安いご用意だよ」


 それを聴いてシスティナは笑みを浮かべ、更に魔道バイクを加速させた。

 徐々に迫る尾と山岳竜街の方から法螺貝の音が聴こえはじめた。

 どうやら山岳竜街の誰かが俺達の接近に気付いたらしい。

 それで山岳竜の足でも止めて乗せてくれるのだろうか?

 しかし依然として山岳竜の歩みは止まらず、システィナも魔道バイクの速度を落とさない。

 刻々と近寄る尾と車軸を合わせるシスティナ。

 このまま近付けば尾を駆け上がる事はできるけど、あの甲殻に生えた岩や滑りそうな苔は乗り物には厳しそうだ。

 俺がそんな事を考えていると山岳竜街の方から尾にかけて光の橋が現れ、


「これがレオスの言っていた道ね!」


 システィナは光の橋に魔道バイクを走らせ、そのまま一気に光の橋を駆け上がる。

 すごい光景だ。甲殻の表面に架けられた光の道を駆け、山岳竜の背中に在る森の中に入る。

 いや、正確には山と言った方が正しいかな。その山の山頂に位置する山岳竜街が刻々と迫る。

 それにしても何台もの乗り物が山岳竜の背中を目指して走ってるわけだけど、山岳竜は嫌がらないのかな?


「山岳竜は俺達を嫌がったりしないのか?」


「あー、相当な人好きらしいわよ。詳しい事は山岳竜街の伝承でも読んでみないと分かんないけど、そろそろ一息つけそうね」


 もう山岳竜街は目前だ。宿を取って観光したいけどどうかな。


「セイズールに到着するまで何日ぐらいだっけ?」


「1週間ぐらいはかかるわよ。その間はのんびり観光したいわぁ」


「俺も観光したい! 色々と見たいし! 鍛錬もしたい!」


「鍛錬はいつでもできるでしょうが! まあ、あんたが何処でも変わらず鍛錬に打ち込めるならいいけど」


 山岳竜街は標高が高くて空気も薄い。俺にとっては少し辛い環境だけど、練気を扱えるシスティナは余裕そうだ。

 そう、この環境が呼吸術を身に付けるために適した環境かもしれないんだ。

 観光もしたいけど練気を扱えるようにしないと、いずれ現れる強敵に対抗できなくなる。

 魔人と聖女の遺産を狙う以上、きっとそれは避けて通れない道だから。

 そんなことを考えている内に魔道バイクが門を抜け、木々と鉱石や岩で建てられた建造物が並ぶ街に付いた。

 山岳竜街は山岳竜の背中で採取できる素材を加工して建築されたのか、木々の橋や通路が目立つ。

 流石に魔道バイクで移動は厳しそうだ。

 システィナが魔道バイクを停止させ、サイドカーから降りると彼女は収納魔石に魔道バイクを納めた。

 俺は身体を伸ばして息を吸い込む。わずかに立ち眩みが起きる。

 

「あんた、空気が薄いけど平気?」


「今のところは平気だよ」


「嘘ね、いま立ち眩みしてだしょ」


「すぐに慣れるよ」


「そう? そう言えばこの都市は練気を常日頃から扱う住民ばかりだって聞くわ。もしもあんたにその気が……」


 システィナが言い終える前に俺は、


「ちょっと詳しそうな人に弟子入りしてくる!」


 システィナにそれだけ伝え街に走り出した。


「えぇ!? ちょっとぉ!」

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