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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
ケルドブルク帝国編
50/62

21.事件

 結局彼? 彼女? 俺とシスティナに接触したあの人の正体は何も分からずただ危険性のみが判明した。

 最近分からないことばかりが増えている。それでもあの人は俺の身を案じて接触したことだけは分かった。

 それでも充分なのにシスティナは更に魔人の遺産が全部で六つ在るという情報を得たのだ。

 かわいいカッコいいだけじゃなくて有能で頼りになるなぁ。

 そんな事を上の空でぼんやり考え歩いてると、システィナとアイネが立ち止まった。

 どうやら考え事をしてる間にゲイルス広場に着いていたらしい。


「山岳竜が帝国領に入ったらしいぞ」


「お? じゃあ巨竜の道を通るのはあと1日もないか」


「なんだぁ? 山岳竜街(シャロン)にでも行くのか」


「ちょいと金も貯まって小旅行にな」


 そんな会話がすれ違った二人組から聞こえた。

 

「山岳竜街が近付いてるとなるとシスティと貴方の予定は前倒しになるわね」


 予定? そう言えば事が起こるまで待機って話だったけど、なぜそれと山岳竜街の接近が関係してくるのか。

 俺が疑問を浮かべているとシスティナが酒場【アルフノーラ】を見詰めながら、


「セイズールに行くなら山岳竜街が色々と楽なのよ。関所の素通り、ケルドブルク西部で行われている軍事演習を避けて通るにもね」


 山岳竜街に向かうメリットを教えてくれた。

 一体どうやってあの巨大な足跡を残す山岳竜の背中に乗るのか。疑問と不安、それ以上に巨大竜の背中に乗れるという興奮が胸を支配する。


「楽しみみたいね。私は少し不安があるけど」


 不安そうにこっちを見詰めるシスティナは少し珍しいかった。

 いつも強気で率先して俺を引っ張る彼女が不安を感じている。それだけ山岳竜街に乗り込むのは危険が伴うという事に他ならない。

 当然と言えば当然だ。巨大竜の後を魔道バイクで追いかけて何処からか山岳竜の背中を登るのだから。

 想像するだけで魔道バイクを運転するシスティナにプレッシャーを与えている事がよく理解できた。

 それなのに俺は興奮していた。彼女が抱える不安感を察することもできず。


「ごめん、謹慎だった」


「別にいいわよ。山岳竜の尾に目掛けて真っ直ぐ直進すればいいらしいから……以前とは高台から山岳竜に飛び移ってたらしいけどそれと比べると魔道バイクはまだ安全ね」


 そっちの方法も危険性が高いけど、どっちにしろ安全で確実に山岳竜の背中に登れる方法は無いらしい。


「システィとアスラが今日中に出発するなら、私もセイズール行きの予定を早めた方が良さそうね」


「ん? アイネもセイズールに行くなら山岳竜街に向かわないの?」


 どうせ目的は同じなら一緒に行ってもいいと思うが、アイネは首を横に振った。


「こっちはこっちで予定があるのよ。まあ2人とはエレスシティで会うことになるけど」


  エレスシティ? 聴き覚えのない地名だ。


「セイズールのエレスシティってエレス総合学院が在る街じゃない。なんで私とアスラがそんな所に行くことになるのよ」


「レオスの計画の一つよ。前に2人はエレス総合学院の編入試験を受けたと思うけど」


 そんな大事な試験を受けた覚えはない。

 俺が首を傾げるとシスティナは心当たりがあったのか口を開いて。


「まさかあの時の? なんでわざわざ私とアスラが生徒として編入しなきゃならないのよ」


「レオスはエレス総合学院に魔人の遺産が運び込まれたと情報を掴んだそうよ。それに一時的な学院生活は2人にとっても大きな経験になるわ」


 苛立つシスティナを宥めようにアイネがやんわりと答えた。

 確かに俺には学校に通った記憶も無い、そもそも俺は学生として通じる年齢かすら疑問だけど。

 それ以前にあのテストは難しかった、だから俺だけ編入試験に落ちてる可能性だってある。


「もしかしたら俺、落ちてるかも」


「その辺も抜かりないわ。まあ合否の発表までしばらく掛かるらしいから、それまでセイズールで予定を済ませると良いわね」


 よく分からないけど落ちても俺はエレス総合学院に入れるらしい。

 

「私達の予定も既にお見通しってわけね。となるとそろそろレオスが言っていた事が起こる頃合いじゃ……」


 システィナが不吉なことを言いかけた瞬間、酒場【アルフノーラ】が眩い閃光に呑み込まれた!

 爆発音と破壊音が耳をつんざき、周囲の音が遅れて聞こえてくる。

 何が起きた? 視界がボヤけてよく見えない。

 頭を降り、無理矢理意識を覚醒させ視界が徐々に元に戻る。

 周りを見渡すと余波に巻き込まれて倒れる人の姿も。

 そして左右に立つシスティナとアイネが、


「吹っ飛んだわね」


「えぇ、ものの見事に跡形も無くね」


 冷静に盗賊ギルドの惨状を語った。

 いや、冷静過ぎでしょ!! だって酒場には従業員やマナだって居たはず!


「なんで冷静なの!? 従業員やマナの心配は!?」


「従業員は既に移動済み、ジェイクも今頃はケルドブルク・盗賊ギルド支部に移動してるわ……マナは、あ、あの子は聖剣だから」


 ギルドの関係者が既にこの事を見越して移動していたのは分かったけど、アイネにとってもマナは無事か分からないらしい。

 一応あの子は聖剣だけど最後に見た時の姿は人の姿だ。

 人の姿の時は聖剣としての強度を発揮できないかもしれない。その考えが頭に浮かんだ瞬間、俺は脇目も降らずギルド跡地に駆け付けていた。

 崩れた瓦礫を退かし、燃える木材を避け掘り起こす。

 その度に手が傷付こうとも関係ない。

 ふと隣を見ると既にシスティナとアイネもマナを捜し始めていた。

 無惨に破壊された盗賊ギルド、一体誰がこんな事を?

 いや、そもそもレオスは事前にこうなることを察知して盗賊ギルドメンバーにそれぞれ指示を出していた。

 分かっていたなら未然に防げたはずだ。それなのにレオスは敢えて防ごうとはしなかった、それはなぜ?

 頭の中を疑問が駆け巡る。今はマナの救出が優先で、レオスに疑念を向けている場合じゃないのは分かっている。

 問うべき事はマナの無事を確認してからだ。

 俺が瓦礫を退けると横たわるマナが……。


「むにゃあー血を、血をたくさん……」


 あの爆発の状況下でマナは無傷であろうことか爆睡していた。

 さっきまでレオスに向けていた疑念は嘘のように吹っ飛び、逆にマナに対して呆れてしまう。


「こ、この状況で寝てるとかっ!」


「腐っても邪剣ってことね」


 呆れた様子で邪剣と罵るシスティナにマナがむくりと起き上がり、


「誰が邪剣よっ!!」


 周囲の様子などお構い無しに叫んだ。


「あ、起きた。あんた、状況理解してる?」


 言われたマナは辺りを見渡し、一度首を傾げまた見渡す。

 よほど自分が座っている場所が信じられないのか何度も見渡しては次第に表情が変わる。


「な、なによこれー! 屋根もベッドも何もかも無いじゃない!」


「はぁ〜マナの無事は確認したわ。その子は責任持って私が連れて行くけど、2人も早い内に行動に移した方がいいわ……不信感を抱えようともね」


 レオスに対する疑念、確かにそれは不信感かもしれない。だけどそれを晴らす前に移動した方が得策なのは嫌でも理解できた。

 既にゲイルス広場に野次馬と魔道銃を携えた兵士がぞろぞろと集まっている。

 システィナが収納魔石からサイドカーを取り付けた魔道バイクを取り出し、俺はサイドカーに乗り込んだ。

 魔石の神秘から魔道バイクのエンジンを蒸すシスティナに兵士が叫ぶ。


「動くな! 貴様らをテロ容疑で拘束する!」


「残念! それで止まるような私じゃないわ!」


 システィナが魔道バイクを走らせ、叫ぶ兵士を土台に車体を飛ばした。土台にされた兵士は痛そうだ。

 群衆を掻き分け魔道バイクがログレスの街を駆ける。

 遠退くゲイルス広場。罪人都市ゾンザイとは違う慌しい出発。これじゃあまるで犯罪者として追われてるようなものだ。

 盗賊ギルドは犯罪ギルドだから遂に軍が混乱に乗じて捕縛しに来たと言われても納得できてしまう自分が居る。

 それと同時に一つ心配事が浮かぶ。


「置いて来たけど、アイネとマナは大丈夫なのか?」


 あの場所に居た二人についてシスティナに問いかける。

 

「マナはアイネが付いてるから大丈夫よ。それにあの程度の戦力ならアイネを捕えることなんて無理ね」


言われて心配事が杞憂だと理解し、同時にゲイルス広場から空に打ち上げられる兵士達の姿に目が霞む。

 あれはきっと見間違えだ。


「派手に暴れてるわね。日頃のストレス発散も兼ねてるなぁ」


 見間違えじゃなかったよ。

 次にアイネに会ったら彼女を怒らせないようにしよう。

 密かに心に誓いながら俺は眼を瞑った。

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