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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
ケルドブルク帝国編
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16.バロンの雇われ達

 屋上から階段で四階に降りたところで気付いた。


「3階まで直行だと思ってたけど塞がれてるわね」

 

 本来なら三階に続くはずの階段が鋼鉄で塞がれて降りることが叶わない。

 階段が塞がれてるだけで廊下は代わりないように見える。

 それでも一本道の廊下と並ぶ部屋、道はそれだけ。

 幸い戦闘を想定した造りになってるようで数人が横並びになって武器を振っても壁や天井にぶつかる心配はない。

 雇われ達が待機してる可能性が高い廊下を進む他に選択肢はないらしい。


「ここの通路を真っ直ぐ進むしかないみたいだけど」


 システィナに振り向けば一本の短剣を鞘から引き抜き、近場の壁を柄で叩き始めた。

 コツン、コツンと反響する壁に思わず顔を顰める。

 壁から聴こえる反響音、中が空道になってるか何か在るのかな?


「システィナ、壁に何か在るの?」


「造設してるなら他に道があるかもしれないわ」


 そう答えたシスティナは壁に向かって鋭い回し蹴りを放った!

 彼女の回し蹴りを受けた壁は容易に崩れ、壁の向こうに通路と複数の顔が現れっ!?

 なんてことだ! 初手から雇われが居る場所を引いてしまうなんて!

 こちらの驚愕を他所に数人の雇われは動かず。


「……? えっと」


「見知った顔触れだけど……なによ」


 俺とシスティナが微動にしない雇われに思わず首を傾げる。

 すると漸く雇われの一人が隣の雇われに顔を向けた。


「通路を進む侵入者を背後から襲おうぜ! 作戦が初手から見破られたんだが?」


「こ、こんなの計算にない! しかも相手はシスティナだぞ……勝てるわけがないっ!」


「クソ! システィナはしばらく罪人都市から戻れないって情報は嘘だったのかよ!」


 作戦が見破られたと狼狽える者。

 システィナに勝てないと涙を流しながら絶望する者。

 システィナが不在と知り油断していた者。

 少なくとも二人はシスティナと顔見知りらしいけど、キミは彼等に何をしたの?

 俺がシスティナに視線を向けると彼女は澄ました表情で一歩踏み出す。

 その手には練気を纏わせた二本の短剣をしっかりと握り締めて。


「3階に続く階段はどこ?」


 短剣を構えるシスティナに三人は意を決して武器を構え……構えるよりも早くシスティナが放った一閃が三人の武器を弾く!


「なに? 救護団にお世話になりたいの? それならそうと言ってくれれば良いのに」


 微笑むシスティナに三人は背後の廊下に向かって走り出した!

 どうやら彼らにはシスティナと戦う気力さえ湧かないらしい。

 うん、無理もないかもね。微笑みの中に隠された威圧感を向けられちゃあね。


「アイツらはこの先を真っ直ぐ逃げたみたいだけど、アイツらが逃げた右の廊下と左の廊下に別れてるわね」


 確かに廊下は左右に別れている。

 右を進めば体制を立て直した彼らが待ち構えてる可能性も。

 左はまだ何が有るか判らないけど罠が無い可能性もある。

 どっちに進むべきか、それとも背後の廊下を直進する選択肢もあるな。


「進むべき道は背後の廊下、目の前の左右の廊下かぁ。俺はとりあえず左の廊下を探索して背後の廊下を探索する案を提案するよ」


 自身の提案を告げるとシスティナは考え込むように道を見渡した。

 どっちを選んでも罠の可能性はある。それなら最初に何処から探索するかだ。

 ただ流石に二人で雇われ全員を相手にするのは……システィナを見て逃げてくれる人達ばかりだと楽なんだけど。

 

「そうね、今回はあんたの提案で行くわ。先ずは左からね」


 そう言ってシスティナは左の廊下に進む。

 俺も彼女の後に続くと、右の廊下の奥から声が聞こえる。

 気になって背後を振り向くと。


「おい、システィナともう1人が来たら一気に畳み掛けるぞ」


「ああ、幾ら練気を習得してるシスティナでもアイツは少女だ。単純な力技で攻められたら流石にな」


「それに壁を壊した騒音で次期に援軍が駆け付けるはずっ!」


「それはどうかな! 迷路化した内部構造の影響でバロンまで迷子になってるからな!」


 右の廊下の曲がり角からこっちの様子を観察をしながらそんな話をしていた。

 丸聞こえだけし、バロン公爵も迷うほどの迷路化した公爵邸かぁ。

 公爵邸を掃除する使用人は大変なんだろうな。


「はぁ〜面倒ね。連中の言う増援が来る前に探索を済ませるか」


 確かに急いだ方が良さそうだ。

 走り出すシスティナに俺も走り出す。

 ただ疑問もある。さっき彼らが言っていた通り騒音で雇われが駆け付けるなら、四階に居る雇われが来ないのはおかしい。


「うーん、さっきの騒音でこの階に居る雇われは駆け付けてもいいと思うんだけど」


「それも変よね。確かに騒音はしたわ……それなら敵が来ても不思議じゃないわね」


 駆け付けない雇われ、それとも迷宮化してるから待ち伏せしてる?

 そんな疑問が頭に過った直後、先を進むシスティナが丁度、廊下の曲がり角に入った直後だ。剣を振り下ろす雇われの姿が曲がり角から現れたのはっ!

 鋭利な刃、振り下ろせば脳天を斬り裂く勢いの姿勢。

 このままではシスティナの頭が、無惨な光景が現実になってしまう。

 それはダメだ! 俺は咄嗟にシスティナに飛び付く!


「へぁっ!?」


 突然の事に可愛らしい悲鳴をあげるシスティナ、勢いのままに飛び付いた影響で振り下ろされた刃は避けられたけど……彼女を背後から押し倒す事になってしまったなぁ。


「勘付かれたか!」


 急いでシスティナから退け、鉄の直剣を構える。

 そして剣を構え直す男に鉄の直剣を向けた。

 横薙に振り抜かれた刃……幸いシスティナとジェイクと比較すると刃の速度は遅い。

 刃の軌道を逸らすように鉄の直剣で弾く。

 そして踏み込んで男の胴体に袈裟斬りを放った。

 それに対して男は後方に退がる事で刃を避けた。

 男は床を蹴り抜き……突進しながら刺突を繰り出した!

 まともに受ければ直剣が折れる! それなら避けて反撃だ!

 刃が迫る中、身体を逸らして男と入れ替わるように避けることに成功した!

 システィナやジェイク相手だと成功しないのに、今回は上手く行った。

 っと成功した事に感動してる場合じゃない。

 突進からの刺突を躱された事で、勢いを止めようとたたらを踏む男に鉄の直剣を振り抜く。

 背中から首筋に放った斬り上げが男の意識を刈り取り、床に崩れた。

 

「……はぁ〜た、倒せたぁ〜」


 戦闘してる間に体制を立て直していたシスティナが、


「さっきは助かったわ。まさか気配を殺して待ち伏せしてるなんてね」


 そういえば彼からは殺気や気配らしい物を感じられなかった。

 ただ先に進んでいたシスティナを狙って曲がり角から身を出したから偶然気が付けたに過ぎない。

 

「偶然だよ」


「そう。それとさっきの悲鳴は忘れて」


 あの可愛らしい悲鳴は当分忘れられそうにない。

 いや、それを忘れるなんてもったいないっ!


「忘れて」


 あっ、ワスレルノデニラマナイデ。

 何も聴いてない。俺は何も聴いてない。

 自分に暗示をかけるとシスティナのスマホンが鳴った。


「なによ?」


「少年は忘れようともわたしとアイネは覚えているさ」


「この腹黒サングラスっ! 何処かで見てるんでしょ! 居るんなら今すぐに出て来なさい!」


 システィナの怒声を他所に通話が切られた。

 本当に何処かで見てるのかって疑いたくなるほど、的確に連絡してくるなぁ。もしかして今は暇なの?

 そんな疑問を頭に、怒るシスティナを宥めながら先を進む。

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