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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
ケルドブルク帝国編
34/62

07.帝都ログレス

 宿町メジアンブルクからしばらく北に魔道バイクを走らせ、視界の先に何か巨大な力で抉り取られた山脈が映り込む。

 そして抉り取られた山脈の間には高い外壁で囲まれた都市が在った。

 どうやらあそこがケルドブルク帝国の帝都ログレスでシスティナの故郷のようだ。


「あそこがキミが産まれた街なの?」


「そうよ、いい思い出はあんまり無いけど退屈はしないわ。それに港の外壁からは終の氷海が見えるの」


 相変わらず物騒な名前だけどあの抉られた跡を見た後だと印象が違う。

 何かによって抉られ、空の虚空によって発生した災害にやって出来た氷海と雪原……昔の人は終わりを連想したのかもしれない。


「せっかく来た記念に一回は観ておかないとなぁ」


「ま、その前に盗賊ギルドでギルドマスターと会うのが先だけどね」


 そうだった、まだ俺は正式に盗賊ギルドに加入した訳じゃないんだった。

 ギルドマスターに会って手続きを済ませて漸く俺は盗賊ギルドの見習いの扱いを受ける。

 

「仕事も熟して稼がないとなぁ」


「稼ぐのも良いけどあんたの口座の開設だとか色々やることはあるわよ」


「報酬って入金制なの?」


「達成報告が完了してから口座に振り込まれるわ。けどギルドマスターが直接出す依頼は現金払いだけど」


 手渡しか入金か。最初のうちは手渡しの方が助かるけど、ギルドマスター直々の依頼は信頼されないと請けられないか。


「ギルドマスターから直接依頼を貰えるように頑張るよ」


「私と組んでるんだから依頼の方は心配しなくていいわ」

 

 心強いけどこれまでシスティナを頼り切りにしてる自分が情け無く感じる。

 それにシスティナとは組むことを前提に罪人都市ゾンザイから旅を続けたけど、このままじゃあ組んでると言えるのだろうか?

 いや、今の俺は頼りにならない。それは自分でも分かってる。

 それならすべきことは明白だ。盗賊の技術と剣術を研くこと。

 うん、最初は不安もあったけど今はやる気が勝るな。


「……なんかあんたから熱意を感じるけど?」


「そりゃあやる気にもなるさ」


 それにやっぱり世界を周って知らない事を知る。それを考えると心が弾んだ。

 俺の原動力は冒険なのかもしれないな。

 

 ▽ ▽ ▽


 門を抜けた先はレンガ組の建物と屋根に降り積もった雪、石畳の道路は魔道暖房機の熱で溶かされた雪解け水が人々の往来で飛沫を上げていた。

 そして都市の奥に紅と翠に彩られたグレス皇城が座し、国旗が寒風にはためく。

 東側に眼を向ければ立ち並ぶ高層ビルやマンション、建設途中のビルが映り込む。

 

「大きな城だなぁ。投獄城や高層ビルよりも大きいんじゃないかな?」


「あー、確かに投獄城や高層ビルよりは大きいわね……侵入し甲斐があるわよね」


 皇帝が住まう皇城に侵入ってバレたら死罪にされそうだ。それでもシスティナが求める遺産やお宝が有るならいずれ侵入するんだろうな。


「俺の腕じゃあ侵入は当分先かな」


「あれ? あそこに侵入っ!? って驚くかと思っていたけど」


「一度投獄城に侵入してるからなぁ。まああの件は思惑絡みだったから上手く行ったけど」


「一度の成功で過信しないのはあんたが慎重だからかしら」


 そう言われても何事も経験の積み重ねだ。それに投獄城の侵入成功は特殊だったと今でも思う。

 思惑も絡まない状態でもう一度侵入したら今度も成功するとは限らない。

 いや、囚人を逃さないために投獄城の警備は厳重の筈だ。


「根本的な実力不足なだけだよ。ほら今の俺は弱いからね」


「あんたが弱いねぇ……ま、自分の力量を測れるだけマシよ」


 そう言いながらシスティナは魔道バイクを停めて地面に降り立った。

 まだ街の入り口だけど盗賊ギルドはこの近くなのだろうか?

 疑問を浮かべるこちらを他所にシスティナは周辺を見渡してから。

 

「折角だからあんたを()()()()()まで案内してあげるわ。道を覚えるなら歩いた方が都合が良いでしょ?」


 盗賊ギルドとは言わずに目的の場所と告げた。

 システィナの気遣いに笑みを漏らしながら魔道バイクから降りた。

 

「……じゃあ先ずは中央区のゲイルス広場に行くわよ」

 

「ゲイルス広場? 皇城の名は事前に聞いていたけど、それははじめてかも」


「建国の祖、始皇帝ゲイルスを祀った広場でログレスの見所の一つね」


 始皇帝かぁ。大崩壊を生き抜いてこの土地に辿り着き建国した偉人。

 

「どんな言い伝えが残ってるの?」


「詳しい事はうろ覚えだけど、確か手の甲に一族代々から受け継ぐ痣があったとか……今の皇帝にも受け継がれてるみたいだけど」


 一族代々に受け継がれる痣……? なんだ? 目頭が熱くなるこの感覚は?

 俺は何か大切な事まで忘れている? 記憶も思い出も忘れてしまったけど心が覚えている?

 

「え……大丈夫?」


 システィナに呼び掛けれて漸く頬に涙が伝っていた事に気が付く。

 聖女エリンの名を聴いてもこうはならなかった。

 それはきっと伝説の人物に過ぎないからなんだと思う。じゃあ痣を持つ話は?


「大丈夫……それよりも痣ってなにか言い伝えとか無いの?」


「そこまでは知らないわ。歴史を調べるとなると古代遺跡とか古代図書館に行った方がいいけど」


 古代図書館、そういえば投獄城で戦った人造人間は古代図書館の()()と情報のやり取りをしようとしてったけ。

 

「古代図書館って何処に在るの?」


「セイズールの何処かに在るってぐらいしか知らないわ」


 いずれセイズールにも向かうなら道すがら古代図書館を訊ねてもいいかもしれない。

 ただこればかりは俺の一存では決められないな。


「もしかしてあんたと痣持ちが何か関係してるって言うの? 痣を持つ人なんて歴史上の人物でしか聴いたこともないけど」


「分からないけど行って調べてみようかと」


「セイズールの古代図書館ね……お宝の情報も有りそうだし行かない手は無いわね」


 断られたら一時的にセイズールで別行動を取ることも視野に入れていたけど、システィナはそこまで付き合ってくれるようだ。

 本当に優しい子だなぁと思わず笑みを浮かべると頬を掴む力が強まった!


「いひゃいれす」


「なに? なんって言ってるか判らないわ」


 どうやら笑った事が彼女の気に触ったらしい。

 女心ってよく判らないなぁ。

 魔道暖房機から吹き込む温かい熱を受けながらそんな事を思っていると解放され、魔道バイクを収納してから歩き出すシスティナに付いて行く。

 痣と始皇帝ゲイルス。後者はゲイルス広場に行けば何か分かりそうだけど前者に関しては歴史か言い伝えが大崩壊で途絶えてしまったか。

 いずれにせよ古代図書館と長寿種から話を聞く必要がありそうだ。

 街のあちこちでエルフ族、ゴブリン族の姿を見かけるけどこちらを見るや険悪感剥き出しで睨んでいる。

 少しだけ、ほんの少しだけ心が折れそうだ。

 胸に感じる痛みと共にため息が漏れ出ると。


「遅いわよ!」


 早歩きのシスティナに手を引っ張られながら歩くことに……。

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