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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
ケルドブルク帝国編
30/62

03.北国の空

 雪原で一夜を過ごして朝にテントから出る。

 日差しは弱いけど空に向かって身体を伸ばす。

 晴れ渡った薄暗い青空と大崩壊で遠退いた太陽。そして空の大穴にゆっくりと息を吸い込む。

 冷たい風が肺の中に入り込み、そのまま吐き出す。


「……うん? 空に大穴っておかしくないか!?」


 昨日は曇空で気が付かなかったけどあの空は誰がどう見ても異常だ。

 だいたいどうやったら空に大穴が空くと言うのか。

 改めて見ると何でも飲み込んでしまいそうな、そんな印象を感じる大穴だ。

 ただ少なくともあの大穴は罪人都市ゾンザイから見えなかったことは確かで、危険性を有するならこの土地に建国なんて考えない。

 それとも建国後に発生した異変とでも言うのか。

 不思議な光景、危険性を考えてしまう反面俺の心は未知に対して高鳴っている。

 昨日の山岳竜の足跡も含めてこれだから旅はやめられない。

 朝からちょっとした感動と疑問を感じているとテントからシスティナがもぞもぞと出て来た。


「おはよう……空を見上げてどうかした?」


 不思議そうに小首を傾げてるけどシスティナにとってあの大穴は未知でも何でもないのか。

 

「あの空の大穴はなにかなぁと」


 俺の問い掛けにシスティナは頭を掻いて『あーあれねぇ』とぼやく。

 

「アレは虚空の穴って言って時折り異空から様々な現象を降らせるの」


「様々な現象? それって災害みたいなもの?」


「まあケルドブルク帝国の土地を雪国に変えたのは間違いなくあの大穴から堕ちた災害が原因でしょうね」


「よくそんな土地に住み続けようと思うよね」


「移住できたから苦労しないわよ。ただでさえ大陸は一つしかないんだから」


 災害が落ちてくるならなおさら引越すべきだと思うけど、じゃあ何処に行けば良いかと問わられるとそれはそれで返答に困る。

 一つしかない大陸で人が住める土地は限られている。

 ケルドブルク帝国の全国民が移住するとなれば国民を分散させて三国に移住するか、手取り早く他国を制圧する方が速いのかもしれない。

 ただこの推測は的外れだと思う。仮に虚空の空から災害が降るなら各国は住民を受け入れても良い筈だし、それならケルドブルク帝国がガレイスト公国に戦争を仕掛ける理由にならない。

 それに虚空の空がいつ発生したのかにもよる。


「うーん、あの虚空の空はいつ発生したの?」


「800年前に建国した時には発生したと聴くわ。……帝都ログレスの北は海だったらしいけど、災害発生後は終の氷海と呼ばれてるわ」


 随分物騒な名を告げたシスティナの表情はどこか暗い。

 八百年も続くということは大崩壊が収まった直後だと分かるけど、それにしてもそのネーミングセンスはどうなのかと思う。


「物騒な名前だね」


「私もそう思うわ。だいたい終の氷海ってセンスの欠片も感じられないわよ」


「シュシュ海でも良いと思うんだ」


「あんたのセンスも大概ねっ!」


 そんなに酷いかなぁ? そういえばケムケムと名乗ろうとして止められたこともあったなぁ。

 自分のセンスに疑問を抱くとシスティナが咳払いした。


「ん! 昔は氷海から吹き込む寒波で死者が多数出ていたそうだけど今じゃあ発達した魔道具と魔術で寒波は凌げているわ」


「昔はともかく今は移住する理由も少ないのか」


「時折り降ってくる氷塊や氷槍に眼を瞑ればね」


 虚空からそんなものが降ってくるとか、考えただけでこの世の終わりだ。

 それでも移住ができないなら住み続ける他にない。


「さ、話は此処までにしてテントを片付けて出発するわよ。今日中に宿町には着きたいしね」


 宿町を通り過ぎればいよいよ帝都ログレスに到着する。

 どんな場所なのか逸る気持ちを抑えながらテントを片付けた俺は魔道バイクの後部に跨った。


「慣れたものね。あ、宿町でトラブルは起きるだろうけど無闇に首を突っ込まないでよ」


「なに? キミは何かやる予定なの?」


「なんで私がトラブルを起こすと思うのよ! 徴兵だとか人攫いだとか色々ときな臭い噂があんのよ」


 人攫い、それは聞き捨てならない言葉だけどそう言った事件は軍人や警察が解決するものだ。

 素人の俺が首を突っ込めば余計な誤解を招く恐れもある。

 

「物騒だけどなるべく首を突っ込まないようにするよ」


「聞き分けが良いわね。理由は聞かないの?」


「俺が出来ることは限られてるからね。それに噂の段階でしょ? もしかしたら人攫いだって駆け落ちってことも有り得そうだし……」


「あー、実際に有るから否定はできないわね。まあでも知り合った人が誘拐されたらあんたはどうするの?」


 もしかして俺は善良性を試されてるのかな?

 誘拐された人物が知り合いまたは俺の記憶に関係する人物だったら……。


「知り合いとか仲の良い人だったら助けに行くよ。逆に聞くけど俺がうっかり人攫いに遭ったら?」


「助けるわよ。あんたにはお金も貸してるからねぇ〜」


「おっと借りが増えそうで恐いなぁ」


 システィナはなんだかんだ言って優しいけど今の関係性なら妥当なのかもしれない。

 人は対価無しで動かないものだし、ましてや善意だけで行動するのにも限界はある。

 特に恐ろしいのは善意の空回りと押し付けだ。

 何も知らない第三者の介入は当事者からすれば困惑でしかない。

 それにやっぱり人を助けるなら事情を考慮したうえで()()()()()()()()()()()()()()()


 いまこうして頭では色々と考えているけどいざとなると身体が勝手に動くかもしれない。人の心は単純じゃないからね。

 俺が考え事をしてると魔道バイクが北に向かって真っ直ぐ走り出した。

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