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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
罪人都市編
3/59

02.出会い

 ゆっくりとした足取りで階段を上がれば、天井が抜け落ちた教会の様な場所に出た。

 陽射しが差し込む解放的な天井、崩れた石像が放置されて長いことを悠然と語っている。

 そして少し視線を逸らせば野蛮な男、少なくとも六人の武装集団に追い込まれる少女。

 少女が危ない状態なのに俺は思わず彼女の髪に見惚れてしまっていた。

 髪は絹糸のように細く膝まで優に届くほど長く美しい銀髪。

 眼は見た者を虜にしてしまいそうな透き通るような赤い瞳。

 服装は身軽さ重視なのか、臍出しのノースリーブのシャツにショートパンツに合わせたグローブとロングブーツを完璧に着こなしていた。

 まるで自分が盗賊であるかのような立ち振る舞いで。

 一見すると無防備な少女に見えるがそれは間違えだ。

 両手に構えた二本の短剣、その柄の先端には奇妙な窪みがある。

 武器を構える姿に勇ましさを感じる反面、少女の表情は苦しげで余裕が無さそうだ。

 その原因は少し視線を下に向ければすぐに分かった。

 腹部の出血が原因だと。

 少女が傷を負ってる。

 対して男連中は斧やナイフを片手に無傷の状態で少女を睨んでいるではないか。

 明らかに只事ではない雰囲気だが、それ以上に気になる点が一つ。

 全員が首にチョーカーをしてるのは流行のファッションか何かだろうか?

 俺が場違いにもそんな事を考えていると。


「おい、この廃教会に誰か住んでいたか?」


 一人の大男がこちらを視線を向けながら周囲の男達に訊ねた。


「いいや、ボス。記憶違いじゃなきゃ、先日死んだ老シスター以外に誰も住んでいなかったはずだ」


「全裸でチョーカーをしてないってことは新しく外から来たのは間違いない筈だが……なんで全裸?」


 男の疑問は尤もだし、正直俺もなんで全裸なのか知りたいほどだ。

 それに少女なんてこっちを見た瞬間に変質者を見るような冷たい視線を浴びせてるんだもん……ちょっと泣きたい。


「身包みを剥がされた哀れな少年か。……いや、ちょっと待て。浅葱色の髪と頬の紋章……特徴が伝承に聴く魔人に似てないか?」


 魔人に似てるとかそんな物騒な事を言われても正直困る。だいたい伝承ならそれはもう完璧に人違いだ。

 ただそれでも訊ねずにはいられない。


「あのぉ〜何方か俺のこと知ってたりしますぅ?」


 なるべく角を立てないように弱腰に訊ねてみれば野蛮そうな男達はお互いに顔を見合わせ、次第に少女に顔を向けた。


「お前の連れか?」


「知らないわよ。それに知ってるでしょ、私が群れたがらないってことぐらい」


「あぁ知ってるとも。金目の物に釣られて罠にかかった盗賊ってのもな」


 おや、なんだろうかこの置いてけぼりにされた気分は? いやでもそこまで険悪、というか緊迫した雰囲気でもないようだ。

 それに話を聞く限り少女が彼らから盗みを働いたから追い詰められた。なら自業自得でしょうがないな。


「喧嘩売ってるなら買うわよ?」


「なあ、俺達は盗まれたもんを返してくれたらそれで構わないんだ。それに怪我をした女を嬲る趣味は無い」


 野蛮な男達って勝手に決め付けてごめん。盗賊に譲歩するあなた方は優しいや。

 俺が一人で納得してちょっとした感動を味わっていると少女が不敵に笑った。

 それは傷をものともしない自信の現れで。大胆で如何なる困難にも立ち向かうと言わんばかりの強気な表情で。


「冗談! 盗んだお宝、いいえ! この世のお宝は全て私の物よ!」


 そう言って少女は軽やかな身のこなしで六人の包囲から抜け出してーーあれ? なんかこっち来てね。めっちゃいい顔でこっち来てね?

 少女が一瞬で背後に回り込んだのか、


「助けてくれない? お礼するわよ」


 可愛い声で助けを求めた。

 背後から漂う甘い香り、少女の吐息が耳にかかり、むず痒さに体が震える。

 正直助ける理由が無い、無いけど床の血痕を見る限り少女には治療が必要なのは記憶喪失でも理解できる。

 ただ問題なのは俺に彼らと戦うだけの技量が有るのか、いや無いね!


「剣を扱えるか判んないし正直荒事は苦手って言うかぁ、できる気がしないんだけど」


「あら知ってるわよ? 大抵そう言う奴は強いってことぐらいっね!」


 そんな話聴いたことも無いけど!? そんな事を叫ぶよりも早く少女の蹴りが背中を押す。

 全裸だから靴の感触と土の汚れ、おまけの衝撃が背中に直で伝わる。

 蹴り出された勢いに負け、たたらを踏んで身体が男連中の前に躍り出れば、


「あー、悪い事は言わねえ。大人しくすれば見逃すが?」


 憐れみを宿した眼差しでそんな事を言われてしまった。

 正直に言えばこのまま道を開けたいが、少女はさっき礼をすると言った。

 それならダメ元でも挑むしかない。

 記憶の手掛かりは無理でも責めて地名を知りたい。

 

「いやぁ、可愛い女の子に頼られたらね? 非は完全にあっちにしかないけど!」


 そんな事を叫びながら俺は懸命に両手で折れた直剣を振り上げ、そして直剣の重みに負けて床に顔面から転んだ。

 あまりにも情け無い姿と場に流れる沈黙! 

 やだぁもう! 恥ずかしいぃぃぃっ!


「剣の振り方……いや、身体の使い方も知らないのか。となると伝承の魔人ってわけでも、血筋ってわけでも無さそうだな」


 だから魔人ってなにさ? 

 そんな疑問を口するよりも先に男達が歩き始める。


「……逃げられたか。このまま追撃しますかい?」


「いいや、あの傷だ。しばらく見逃してやろう……利用価値もある」


「お優しいことで……じゃあ面倒な連中と遭遇する前に撤収ってことで」


 そんな声と共に男達は急ぐように廃教会を後にした。

 起き上がって周囲を見渡せば誰も居ない。あの少女も野蛮に見えて実は優しそうな男連中も誰も。

 此処には俺一人だけ。


「えっ、放置なの? というかどんな状況だよぉぉ!!」


 叫ばずにはいられなかった。

 叫んでも喉が枯れるだけで、自分の状況に訳も分からず途方に暮れてしまった。

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