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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
罪人都市編
23/62

20.魔術師グレファス

 罪王グレファスの寝室を目指す途中で長剣を装備した看守を発見した途端、システィナが通気口から足を伸ばして看守の首を太ももで挟んだ!

 

「ぬおっ!?」


 看守が叫ぶよりも早くシスティナは太ももで看守を絞め落とした!

 しかも気絶した看守は通気口の中に。

 すっかり白目を向いて気絶する看守に俺の頬は引きずりっぱなしだった。

 

「なによ? これぐらいは簡単にできないと盗賊になれないわよ」


 別に盗賊になる気はないけど、騒ぎを起こさず気絶させるのはベストな選択だってことは分かる。

 

「盗賊になる気は今のところないけど、参考にさせてもらうよ」


 果たして今後役に立つかどうか、俺がシスティナのように鮮やかかつ迅速にできるかどうかは分からないけど。


「ふーん? っとはいこれ」


 長剣が納まった鞘を受け取って柄を引き抜く。

 鞘から引き抜かれた長剣の刃は……刃は削られたのか丸まってるおり、肝心の剣身は半ばから折れていた。なんでだよ!


「なんでよ!」


 システィナが思わず叫んでしまうのは無理もないよ。

 だって装備が整ってる看守が折れた長剣を携帯してるんだよ!? 

 

「……すぅー、なんでだろうね」


 気持ちを落ち着かせて疑問を問いかければシスティナは首を横に振るばかり。

 

「知らないわよ……まあそんなんでも無いよりはマシよね」


 本当に無いよりマシなのが困るよ。


「ほらさっさと行くわよ」


 俺は折れた長剣を腰に携帯して先に進むシスティナの後に続く。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 漸く罪王グレファスの寝室の真上に位置する通気口に到着した。

 通気口から覗き込むと罪王グレファスが窓の外を眺めている。

 寝てると聞いたけど俺達が監獄フロアに行ってる間に起きたのかな?

 それにしても罪王グレファスーー夜空を思わせる黒髪、威厳に満ちた背中も相まってその後姿だけでも威圧されてしまう。

 今から彼と対峙すると思うと指先から腕が震える。

 それに目的の古代遺物と思われる杖も彼が握り締めている。

 いつどのタイミングが攻めるのか、問題はそこだと思う。

 真正面から挑んだら即座に爆破される。だからこうして侵入してるわけだし。

 

「いつ仕掛けるの?」


 小声でシスティナに訊ねる。

 すると彼女は困った様子で、


「隙が無いわね。いま降りたら対処されるわね」


 罪王グレファスに隙が無いと語った。

 隙が無いなら作るしかない。一番確実にシスティナが杖を奪えるように。


「じゃあ俺がなんとかしてみる」


「え?」


 システィナが疑問を挟むよりも早く俺は通気口から床に降り立った。

 そして走り出す。折れた長剣を引き抜き振りかざしながら。


「……ほう、1人で来たのか」


 接近に気付いた罪王グレファスが振り向き、杖で振り抜いた刃を受け止めた。

 俺が放つ剣はどれも未熟な技、ましてや練気さえ操れないんだ。

 そんな素人の技は防がれるか避けられるかして対応されるのは当然のこと!

 

「困ったことにもう1人捕まっちゃってね」


「システィナ・ヴァルグラフか。確かに彼女は今も監獄フロアで囚われているようだな」


 いや、システィナならもう脱出してるけど?

 それとも罪王グレファスは敢えて気付かないふりをして油断を誘っている?

 

「捕まったのは自業自得だけど、せめて首の爆弾を外して欲しいなあ。俺達はそのためだけに来たんだからさ」


 剣で押し退けようにも罪王グレファスはびくりとも動かない。

 杖で抑える力が強いっ! それに何処かで聴き覚えのある声だっ。


「……解放してやる事は簡単だが、貴様は何者だ?」


「何者って問われても俺にも分からないんだ」


 剣を引いて身体ごと後ろに退がる。

 そして背後に回り込むように部屋を駆け出す。

 

「甘いぞ。鎖よ拘束せよ」


 罪王グレファスが陣を描くように杖を振るった!

 すると何も無い空間から鎖が飛び出してこっちに向かってくる!?

 咄嗟に剣を盾に鎖の軌道を逸らす。

 軌道を逸らされた鎖は罪王グレファスが杖を動かすと、それと連動してるのかまたこっちに向かってくる!


「なにそれ!」


「動きはぎこちないが……炎よ焼き尽くせ!」


 鎖を操りながら炎の塊を発射した!?

 俺は慌てて飛び出すように床を転げて、どうにか炎の塊を避けた。

 炎の塊は床に着弾したのか、爆風と熱気が身体を襲う。

 しかも床に視線を向ければどいうわけか燃えてない!

 これも魔術ならもう何でもありなんじゃないの!?

 システィナにはなんとか隙を作るって言ったけど、まだ罪王グレファスの視界には通気口が映る位置だ。

 距離は決して遠く無いのに遠く感じる。

 明確な力量差と魔術による物量、そして明らかな手加減。

 勝つことは不可能だ、それでも負けじと走り出す。鎖と炎の塊が次々と迫る!

 ちょっとこれ、避けられない気がするけどっぉぉっ!?

 

「なんだと?」


 俺は自分でも信じられないことに、土壇場で転んだ。

 床に派手に転んで鎖と炎の塊は避けられたけど……恥ずかしいっ!


「……うむぅ、貴様の動きは予測が付かんな」


 俺はめげずに立ち上がる。通気口から呆れた視線を感じるけどっ!

 一応罪王グレファスは話が通じそうというか、こっちの言葉に聞く耳はあるようだ。

 それに話を聞くつもりがないなら手加減なんてしない。

 それならまだやりようはあるかもしれない!


「システィナの爆弾チョーカーを外してくれるなら、人斬りの捕縛に協力するのはどう!?」


 俺は罪王グレファスの背後に回り込みながら一つの提案を述べた。


「……貴様は外さなくともいいと?」


 魔術の攻勢が緩んだ。ってことは少しは考えてくれてるのか。


「……いいや、人斬りはわたしの看守共が捕える。それに正体も分からぬ貴様を信用できるほどわたしは甘くはない」


 ですよねー。そりゃあそう簡単に行くとは思ってなかったけど。

 それにしてもなんで罪王グレファスは俺の正体に拘るんだ?


「魔術で忘れた記憶を思い出せるならそうしたいぐらいだよ」


「記憶喪失か……ならばわたしは唱えよう。汝、忘れし記憶を思い出せ」


 罪王グレファスがそう呪文を唱えると杖から光が発した。

 思わず身を護るように身構えるも、光は俺の身体を包み込んだ。

 光に身体を包み込まれて何が頭の中に入ってくる感覚がする。

 だけどそれは一瞬のことで次第に光が止む。

 光が止むとこっちを訝しむ罪王グレファスの視線に俺は首を傾げた。


「なにも変化がないけど?」


「貴様は……貴様には()()()()()()()()()()


 どういうことか意味が分からないけど、どうやら術は失敗に終わったらしい。

 なんだかよく分からないけどこれはチャンスだ。

 俺は訝しんだまま何かを考え込む罪王グレファスの身体にしがみ付いた!

 

「……貴様、このまま爆破もできるのだぞ?」


「そうかな? それをやると巻き込まれるのはそっちも同じでしょ」


「面白い。しかし、貴様1人でわたしから杖を奪えるとでも?」


 今になって思うと罪王グレファスは最初から全部気付いてたのかもしれない。

 それに侵入者が来たのに、戦闘音が響いてるのに看守がいつまで経っても駆け付けてこない。

 なによりも罪王グレファスに看守を呼ぶ素振りが無い。

 全部、最初から罪王グレファスの掌で踊らされていたと思った時には、既にシスティナが駆け出していた。


「……甘いぞ」


 杖が怪しく輝いた途端、俺の首のチョーカーも怪しく輝いた。

 あっ、これ死んだわ。

 そう思った時には……俺の意識は呆気なく途絶えた。


 ▽ ▽ ▽


「アスラっ。あんた、バカよ」


 目の前でアスラの爆弾チョーカーが爆発した。

 首からまともに爆発を受けたアスラは床に倒れ、巻き込まれた罪王グレファスは無傷だ。

 死んでしまったのだ。アスラが、短い付き合いのアスラが呆気なく。

 頭が吹き飛ばず原形を留めてるのは幸いと言うべきか……なんで髪の毛が増えてるの?


「面白い少年だ。自身の身よりも他者を案じる心優しき精神」


「優しいソイツを殺したのはあんたじゃない」


 睨む私を罪王グレファスは薄く笑う。

 それが無性に腹立たしい。

 命をなんだと思っているのか。

 二振りの短剣の柄を繋げ、本来の武器の姿を表す。

 両剣を構えた私に罪王グレファスが興味深な視線を向ける。

 武器を持ち替えた程度の認識だろうけど。

 体内の練気を全身に巡らせた私は一気に床を踏み抜く。

 練気で生み出した四人の分身が罪王グレファスを囲む。

 これだけで罪王グレファスの意表を突くのは難しいわ。

 それに未だ彼は動く様子を見せない。いつでも対応可能だと踏んでいるからだ。

 それならっと私は掌で回転させた両剣を罪王グレファスに投げた。


「ふむ、極東の手裏剣のようだな」


 高速で回転する刃が罪王グレファスに向かうーーだけど罪王グレファスは杖で両剣の軌道を逸らしてみせた。

 それは織り込み済みよ!

 軌道を逸らされた両剣を分身が掴み投げるーー今度は待機している分身に向かうように。

 当然のように罪王グレファスは両剣を避け、分身が掴んで投げる。

 そして待機中の分身が回転させた両剣を投げる。

 追加された両剣に罪王グレファスの表情が訝しむ。

 彼の眼には私が残像を残して行動してるように見えていた筈だ。

 実際にそれも可能だけど、分身の方が使い勝手が良い。


「質量を持つ分身……練気エネルギーに自身自身を投影させ、意思を持たせる技だったか」


 罪王グレファスはソレが何かを理解して、二本の両剣を素手で弾いた。

 高速回転する刃を躊躇もなく素手で弾く! 

 気付かれてるわね、私の刃で人を斬れないことも。

 それでも私はコイツに一発お見舞いしてやらないと気が済まない!

 弾かれた本物の両剣を掴んで、刃に練気を纏わせる。

 そしてそれを一気に、四人の分身と共に横薙に振り抜く。

 囲まれた状態で五本の一閃が罪王グレファスに迫る。

 当然それも避けられるでしょうねーー私がそう思って次の行動に移ろうとした時だ。

 罪王グレファスがまるで受け入れるように五本の一閃を喰らったのは。


「はっ? あんたなら簡単に避けられたでしょ」


「わたしが避ければ足下の少年にも当たる」


 確かに罪王グレファスの足下にはアスラの死体が転がってる。

 私もこれ以上アスラの死体を傷付けないように注意を払ってたけど、なんで罪王グレファスが気遣うのよ。

 疑問を浮かべる私に罪王グレファスは杖を下ろした。

 

「ああ、なにやら勘違いしてるようだが……少年は生きている」


「は? ゴキブリでもあるまいし」


 まともに爆発を至近距離で受けたら普通死ぬ。

 それに私は何度も頭が吹き飛んで死んだ囚人をこの目で見てきたのよ?

 頭が吹き飛ぶ。でも改めて見てもアスラは倒れている。

 他と違って確かにアスラの頭は無事……無事かなぁ? なんかまだ髪の毛は増えたままだし、頭の中身は空っぽだし無事じゃないわね。

 それじゃあ死んでないとすると気絶してるだけ? それなら良いんだけど。


「わたしが用意した爆弾チョーカーには人を殺すほどの威力は無い。無いはずだったが、いつの間にか誰かが人を用意に殺せるチョーカーを紛れ込ませていたらしい」


 死なない爆弾チョーカーと死ぬ爆弾チョーカー?

 でも結局ハズレを引けば死ぬことに変わらないじゃない。


「結果はどうあれあんたはアスラを殺す気だったことに変わりないでしょ」


「結果を見ればな。しかしこの少年をわたしが生かす道理はない。ましてや記憶が存在しない、はじめから持たない者などな」

 

 そんなこと有り得ない。

 誰にだって産まれてからの記憶が在る。

 例え人工的に造られたとしても製造時の記憶は残る。

 それは人造人間が証明しているわ。

 だからアスラにはじめから記憶が存在しないなんてことは有り得ない。


「あんたの魔術が不発しただけじゃないの?」


 両剣の連結を解いて二振りの短剣を構える。

 

「かもしれないな。しかし人間と瓜二つの人造人間は今となっては()()しか存在しないはずだ」


 彼女って誰のことを言ってるのか分からないけど、今やるべきことは明白ね。

 私が駆け出そうとしたその時、罪王グレファスの背後で倒れていたーーアスラが立ち上がった。

 これで分身も含めて挟み撃ちができる。そう思ったけど、アスラの様子がおかしい。

 立っているけど白眼を向いたまま。だけど剣はしっかりと構えている。

 それも半身を逸らして片手で剣身を向ける構え。

 今までのアスラは両手でただ構えるだけだったのに。

 爆発のショックで記憶を思い出した? それとも……

 思考する私を他所にアスラは途轍もない速度で斬撃を振った。

 辛うじて眼で追える速度を罪王グレファスは杖で防ぎ、


「……気を失った状態で、しかしこの剣筋はっ」


 アスラはそのまま罪王グレファスを杖ごと弾き飛ばしたっ!

 そして四人の分身に向けて横薙ぎの一閃をっ!? ちょっと! それ私の分身なんだけどっ!

 一閃で薙ぎ払われた私の分身は離散してしまった。

 一掃された事にも見境がないことにも驚きだけど。頭の記憶、戦闘における知識は忘れているけど身体が戦闘で培った動きを覚えてると言う?

 確かにアスラはこれまで歯車が噛み合わないような動きだったけど。

 一撃で罪王グレファスを弾き飛ばしたアスラは、そのまま地を蹴ってーー罪王グレファスの身体を斬り上げた。


「ぐっ……稲妻よ走れ!」


 部屋の宙に浮かされた罪王グレファスが魔術で反撃に移る。

 対するアスラは気絶しているせいか、まともに稲妻を受けてーーそのまま床に倒れてしまった。

 でもアスラの手元に有ったはずの長剣が無い。

 長剣は何処に行ったの? 私は部屋を見渡すと折れた長剣と弾かれた杖が床に転がっていた。

 恐らく稲妻を喰らう直前に投げたんだ。

 それにこれは絶好のチャンスっ!

 私は罪王グレファスよりも速く床に転がる杖を拾う。

 そして杖で自身の首のチョーカーを叩くと、チョーカーは外れて床に落ちた。


「……はぁ〜よく分からないけど目的は達成ね」


 もう必要ない杖を罪王グレファスに投げ渡すと、彼はソレを掴んで笑みを浮かべていた。


「やはり貴様の目的は爆弾チョーカーを外すことだけだったか」


「アスラが最初に言ってたと思うけど? それにあんた、私達の侵入に最初から気付いてたんじゃないの?」


「……さあ? この城には他の勢力が多く入り込んでいる。そこに場を掻き乱す者が居ればわたしの仕事が楽になるとは思ったがね」


 なるほど、私とアスラは利用されていたのね。

 本命は恐らくだけど、投獄城に入り込んだ政府側の人間の炙り出しと始末。

 でも私とアスラはコイツの思惑通りに動いてないと思うけど?


「私はあんたの思惑通りに動いてないわよ」


「最初は貴様が侵入すると踏み傍観していたが、ヴェルト率いる義勇兵と行動を共にしていたからな」


 義勇兵ってガレイスト公国で戦争妨害をしてるって噂の?

 

「なるほどねぇ〜じゃあ私とアスラはまんまとタダ働きさせられたって訳ね」


「……不服か?」


「私、他人に利用されてタダ働きするのが嫌いなの!」


 それに恐らくこの一件にはギルドマスターも絡んでるっていうか、アイツなのよね。

 私に魔人の遺産が罪人都市ゾンザイに在ることを伝えたのってーー帰ったら問いただすっ!

 

「怒りを感じるが、詫びと言ってはなんだが今後罪人都市ゾンザイで自由に活動するといい」


「こんな物騒な都市は用事が済んだらすぐに帰るわよ!」


「ふむ、ではもう一つ。魔人の遺産を持ち帰ってかまわない」


 譲って貰えるならそれで構わないけど、


「……それ、本物なの?」


 本物かどうか訊ねると罪王グレファスは視線を逸らした。


「……ちょっと、偽物の処分なら受付ないわよ」

 

「わたしにも魔人の遺産が本物かどうか分からないのだ。なにせ不自然なほど何の神秘も感じられないのでな」


 魔人の遺産と称される物は大抵が強大な力を秘めた武器だ。

 でもそれのどれもが千年前に起きた大崩壊以降に製造された物ばかり。

 魔人の遺産なら大崩壊当時かそれ以前に製造された物のはずね。


「とりあえず見てみるわ」


 私はそれだけ告げて隣室に足を運ぶ。

 罪王グレファスの寝室の隣は宝物庫。

 見渡す限りのお宝の山が在るじゃない!

 三つぐらいこっそり盗んでもバレないわよね?

 そう思って近場のお宝に視線を向けると、天井に大量のヒトツメオオコウモリがぶら下がってることに気付いた。

 危ないわね。仮に魔人の遺産以外に手を出したら即バレじゃない。

 仕方ないなぁ。本当は全部欲しいけど、先ずは目的の優先ね。

 私は宝物庫の中心に飾られた長剣に近付く。

 煤焦げた革の鞘に納められた長剣に私は慎重に手を伸ばす。

 柄は赤黒く変色しているのか、元々そんな色だったのかは分からない。

 だけど断言できる。この長剣には何の力もないただの剣なのだと。

 私は柄を掴んで、剣身を鞘から抜いた。


「……またなの?」


 また剣身が折れていた。

 それはもう無惨な程に。おまけに折れた刃は酷く錆びているのか黒紫に変色している。

 普通の鯖じゃないのは明らかだけど、これも偽物かもしれないわね。

 先ず根拠としては魔人と謳われた人物がただの長剣を使うとは思えない。

 それだけコレには何も感じられない。だけど唯一鞘に記された掠れた文字と長剣の鍔に掘られた製造日が大崩壊以前の物だと証明している。

 

「研磨して剣身を復活することができれば判別できるかしら?」


 お父さんが探していた魔人の遺産の一つ、偽物かもしれないけど漸く一つが手に入ったのね。

 どうしてお父さんは魔人の遺産を探して調べていたの?

 考古学者だから? 魔人の遺産から魔人の正体を知りたかったの?

 私には分からないわ。どうして魔人の遺産を調べていた父さんが殺されなきゃならなかったのも。

 でも魔人の遺産の探究と追求。それが父さんの目標なら私が魔人の遺産を集めるわ。


「……もう此処に用は無いわ」

 

 私は魔人の遺産を片手に罪王グレファスの寝室に戻った。

 そして気絶したアスラを連れて、


「もう帰るけど、もう用は無いわよね?」


 罪王グレファスに確認するように訪ねた。

 後でまた利用されるのはごめんだからね。


「道中で人斬りに遭遇しないようにな」

  

 そういえば一つだけ聴くことがあったわ。


「あんた、もしかして父さんを知ってたりしない?」


「なぜそう思う?」


「ギルドマスターと知り合いなら、あんな腹黒サングラスと普通なら交流を持たないわ。なら2人に共通の知り合いが居たらどうかなって思っただけよ」


 それが父さんの可能性が高い。

 事実腹黒サングラスはかつて父さんから学んでいたらしいし、その縁でお母さんとも面識が有ったとか。

 

「酷い言われようだが、事実わたしもヴァルグラフ教授から歴史と伝承を学ばなければ奴と交流を保つことはないな」


「ふーん、じゃああんたが私を爆発しなかったのは父さんの娘だから?」


「貴様が罪人ならわたしは構わず爆発していたさ」


「そっ。それだけ分かれば充分よ」


 確認することも済んだ私はまだ気絶するアスラを連れて罪王グレファスの寝室から立ち去った。

 そして特に看守と遭遇することも無くーー通路に刻まれた斬撃痕、夥しい血痕に巻き込まれる前に急いで投獄城から離れるのだった。

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