表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
罪人都市編
2/58

01.目覚め

 思考がボヤける。身体が重いけどそろそろ起きて……起きて何をすれば良いんだっけ?

 あれ? 名前、俺の名前はなんだっけ。

 思い出そうと記憶を探るが寝ぼけているせいなのか、記憶は最初から何も無かったように思い出せない。

 ゆっくりと何度も記憶を探るもそれでも何一つ思い出せない。

 記憶に関する頭の中は空白で、思い出せない苛立ちよりも不安に胸が締め付けられる。

 自分は何者で此処は何処なのか、自分という人間がどんな人物だったのかさえ判らない。

 自分が何者なのかさえ判らない事が判ったのは収穫とすべきか。

 気持ちを切り替えるためにも一先ず起きよう。

 重い瞼を開けて眼を開ける。眼を開けたはずが視界は暗いまま。

 おまけに何も着てないのか冷たい感触が全身に伝わる。

 当たりを探るように両手を動かせば壁か何かに両手が打つかる。


「というか狭くね?」


 かなり狭い空間で寝ていた? なんでこんな暗い場所で寝てるのとか色々と疑問は尽きないが、一先ず身体を起こしてーー頭が天井か何かに打つかった。割と痛いし。

 どうやら密閉された空間に居るのは確定らしい。

 とりあえず両手を挙げて天井を持ち上げるように押すが、酷く身体が鈍いようで力が上手く入らない。

 

「ふーん!! ぬぎぎぃ!」


 歯を食いしばって力一杯天井を持ち上げる事で少しだけ動いた!

 このまま! このまま続ければ天井を退けられる!

 窮屈な所から出たい一心で力を入れて天井を押し退ければーードタンっ! 物音とほこりが舞う。うっ、最悪だ。

 視界に舞うほこりを払うように手を振る。

 ほこりが晴れて漸く辺りとご対面ーーまた薄暗くね?

 天井を退けたと思いきやまた薄暗い場所。いや、身体を起こして辺りを見渡せば俺の身体がすっぽりと入る棺、所々朽ち果てた部屋。

 古い室内、何処の誰の家かも判らない一室と棺。

 改めての疑問だ。

 

「ふむ? 如何してこんな場所で寝てたんだろうか?」


 誰かの悪戯で棺に閉じ込められて寝ていたか、それとも単なる趣味だったか。如何しても思い出せない。

 此処は何処なのか全く思い出せない。棺から出れば何かしらの手掛かりを得られると踏んでいたけど。

 

「記憶……いや、考えても仕方ない。一先ず此処から出れば知り合いの1人や2人に会えるかな」


 記憶を思い出せず悲観するぐらいなら前向きに行動した方が健全だ、いや深く考えたくないってのも有るけど。

 とりあえず棺の淵に手をかけて立ち上がる。そうしなければ立ち上がれないほど足腰が鈍っているようだ。

 両手両足に踏ん張りを効かせ、腰を真っ直ぐ伸ばして漸く立ち上がってーー視界が暗転、あら床が近い。

 ドタンっ! 二重の意味で泣きそうだ。

 顔は痛いし上手く立ち上がれないほどに身体が鈍っている。いくら寝てたにしては全身が重りでも括り付けられているかと思うほど重いのは、何かの不調かそれとも元々身体が弱いのかな。

 自分のことながら解らないってのも気持ち悪い感覚だが、今は此処から出ることを考えよう。


「諦めずチャレンジだな」


 それから俺はしばらくの間、何度も立ち上がる、転ぶを繰り返して漸く朽ちた部屋の中を自由に歩ける程度には回復していた。

 とはいえそれほど時間が経過したような感覚は無い。

 せいぜい二時間ぐらいだろうか? 

 うん、二時間で歩けるようになったってことは単に障害を抱えている訳じゃないようだけど……貧弱過ぎて涙が出る。

 泣いたって如何にもならないしすぐに改善する訳でもない。

 それなら行動する他にない。

 この部屋には歩いている時に気になるところも有った。

 此処が地下だと分かる朽ちた階段。

 床に散らばる朽ち果てた剣。

 無造作に置かれた姿見。

 床に転がる朽ちたカンテラ。

 すごく散らかってる状態を見るに放置されて長いことが分かる。

 だとすればなぜ寝ていたのか疑問が尽きないーー元々根無草で適当な場所で寝ていたら悪戯小僧に棺に押し込められたとも考えられる。

 まあ原因はともかく、自分の顔も覚えてないというのは流石に気持ち悪い。

 姿見に近付いて鏡のほこりと蜘蛛の巣を払って覗き込めばーーあらやだー、全裸なうえに頬に悪趣味な紋章してる。

 最近のファッションの一部か何かだろうか? 流行りにしてはなんか、アレだ。生理的嫌悪感が拭えない。 

 紋章が消えないかと頬を擦るも、残念ながら紋章は消えない。

 あー、そういう。記憶を失う前の自分って悪趣味だったんだなぁ。

 

「なんか自分に失望した」


 いや、記憶を失う前の自分が好き好んで紋章を入れたんだ。否定するのは流石にね?

 それよりも問題は自分の顔と身なりだ。

 髪は浅葱色の髪。眼は青い瞳。顔は目鼻立ちは整ってるけどきっと平均的で普通の分類だ。

 鍛えていたのか上腕二頭筋と上腕三頭筋はガッチリしている。

 それに全体的に細身だけどガッチリした胸筋、六つに割れた腹筋、引き締まった腰回りと尻をしてるけどーーそれにしたって棺の蓋を動かすにも一苦労だった。

 結構筋肉は有るけど身体は思うように動かない。

 きっと身体の見掛けは立派なだけで、体力とかは貧弱なんだろう。

 容姿を観察して分かったのは貧弱ってだけで、顔を見ても結局俺は誰で此処は何処なのかも分からないまま。

 

「どうするかな? とりあえず外に出るとして……」


 次はどうするかを考えると上からバタバタっと物音がした。

 誰か来たんだろうか? 俺は不法侵入者だけど訊ねるには丁度良いや。

 そんな軽い気持ちで穴だらけの階段に歩むっと、


『しつこいわね!』


『しつこいのはどっちだか。大人しくすれば痛い目には遭わないんだぜ?』


 不穏な話し声が聴こえた。

 片方は可愛らしい声からして女性か。そしてもう片方は野太い声の男性。

 このまま上階に上がっていいものか、何か周りに無いかと周辺に眼を向ければ丁度落ちていた剣が有るじゃないか。

 それを拾って鞘から抜く。

 半分折れた直剣、しかも刃はボロボロで錆だらけの状態に息が漏れる。


「これで自衛は無理だなぁ」

 

 それに重い。剣を扱うにはまだ身体が鈍っているのかそれとも単に荒事と無縁の生活を送っていたのか。

 記憶が無い弊害で剣の扱い方も身体の動かし方も忘れてしまったのだろうか?

 考え事をしてる間に階段を登り切って気付いたーーやっべ全裸だ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ