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記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
罪人都市編
18/62

16.気分転換

 システィナに言われて気分転換を兼ねて外に出たけど。

 気付けば俺が目覚めた廃教会だった。

 どうやら無意識の内に足がここまで伸びたらしい。

 相変わらず廃墟化して放置されて長いことを悠然と物語る聖堂跡と俺が目覚めた地下室に続く階段ーーあれ? 階段が無い?

 少なくともこの間までは確かに存在していた地下室の階段が無くなってる。

 建物の崩落で埋もれたにしては階段が存在していた場所には崩れた様子が無い。


「ど、どういうこと?」


 緊張感を解すために外に出たら疑問が増えるとか。

 帰ったらシスティナに相談? いや、侵入決行前だ。余計な事は言わない方がいい。

 地下室には記憶の手掛かりらしき物は無かった。だから改めて調べてもたいして得られないだろう。

 ここに居ても仕方ない。俺が帰ろうと振り返るとローブで全身を覆い隠した男性が廃教会にやって来た。

 男性は俺に気付くと訝しみながら、


「ふむ、巡礼者か? それとも罪を懺悔しに?」


 ここに来た要件を聞いてきた。

 

「此処にはなんとなくで来たんだ」


「なんとなく? そうか……いや、しかしこんな場所では祈りは届かんだろう」


 男性は辺りを見渡して崩れた惨状に肩を竦めて見せた。

 そういえば廃教会の外は都市再建計画が進行してるけど、此処は取り壊さないのかな?


「放置されて長そうだけど、取り壊さないのかな」


 疑問を口にすると男性は瓦礫に座った。


「そうさな、取り壊したくとも教会の土地はエリン教会、正確にはセイズールの所有物……いくら罪王でも無許可で取り壊せないのさ」


「ああ、権利絡みなんだ」


「それも有るが、此処を管理していた老シスターの頼みでも有るらしい」


 権利絡みというよりは老シスターの頼みの方が主な理由なのかな。

 此処を管理していた老シスターってどんな人だったのか。


「その老シスターってどんな人だったの?」


「ふむ……聖女エリンの弟子の一人。その直系の子孫で代々この地の教会の管理を務めていたそうだ」


 聖女エリンの弟子! しかも直系の子孫が管理を任されるなんて実はすごい場所だった!?

 どうしよう、全裸で三日も徘徊しちゃってたけど祟られないよね?

 身体から血の気が引くのを感じると。


「顔色が悪いが、どうしたのかな? 今は亡き老シスターに変わって悩みを聞こう」


 優しげな眼差しでそんな事を。

 

「いやぁ〜此処が実はすごい場所ってことに怖気ついただけだから」


「ふむ? 確かに此処の教会は1,000年も昔から在るが怯えることも無かろう」


 そう言われても無理じゃない? だって俺の身体は震えてるからね? 

 文化遺産レベルの施設で全裸徘徊した恐るべき事実にさ!

 でもそんなこと恥ずかしくて言える訳ないじゃん!

 

「ならばお主が抱える悩みを話してみるのはどうか? 少しはスッキリするだろうて」


 確かに悩みというか不安は有る。

 もしも失敗してしまったらどうなるのか。俺一人だけで済むからこんなに悩まなくて済むんだろうけど。


「もしも失敗して多数の犠牲者を出す……なんて事になったらどうしようって不安は有るかな」


「ほう? 随分と危険な橋を渡ろうとしてるようだな」


 男性は既に把握したと言わんばかりに顎を撫で始めた。

 それにしてもこの男性ーー素顔は見えないけど口調は年寄りぽい。

 でも身体の体幹、がっちりした体格は老人には思えない。

 というか今更だけどこの人は誰?

 俺が今更な疑問に首を傾げていると男性はじっとこちらを見つめて。


「大望の成就には犠牲は付き物。しかし払う犠牲を恐れては何も成せまい。失敗を恐れず挑むことが大切だ」


 失敗を恐れずに挑む! 悩んでいたことが馬鹿らしく思える単純明解な解答!

 そうだ、失敗を前提に考えるから後向きになるだけだ。

 流石に人命もかかってるからお気楽にはなれないけど、少し気分が晴れたのは確かだ。


「ありがとう。おかげで不安が紛れたよ」


「それは良かった……ところでお前さんは誰だ?」


 男性は首を傾げながらそんなことを。

 

「えっと今更だけど、俺はアスラ。そういう親切なキミは?」


「……アスラか。お主は何処から来た?」


 あれ? こっちの質問は無視? まあフードで素性を隠してるってことは先日酒場に来た外套の女性と同じ訳ありってことか。


「実は記憶喪失で自分が何処から来たのか分からないんだ」

 

「……そうか、記憶喪失か。それは難儀だな」


「そっ。首のコレを外さないと記憶の手掛かりも探しに行けなくてね」


「外してやろうか?」


 何を思って男性はそんなことを口にしたのかは分からない。

 それでも外せる手段が侵入意外に有るなら俺は……


「外せるの? それなら俺よりも先に外して欲しい人が居るんだ」


 システィナの爆弾チョーカーを外させる。それなら彼女が万が一が起きて爆死することは避けられる。

 

「冗談だ。爆弾チョーカーを外せるのは罪王グレファスのみ」


「冗談、か……まあそんなに上手くいくとは思ってなかったけどね」


「声が震えてるぞ」


 そんな事は無いと言いたけど、実際に俺の声は震えてたのだろう。

 それだけ期待感があったってことだけど。


「……ふむ、外が騒がしくなって来たな」


 男性の呟きに外から聴こえる銃声に漸く気付く。

 それは辛うじて耳を澄ませれば聴こえる程度の音だったけど、外に人斬りが現れたのか?

 

「巻き込まれる前に帰るとするか。アスラよ、また会える時を楽しみにしてるぞ」


 男性は早々に廃教会を立ち去った。

 次に会ったら名前ぐらいは聴いておこうかな。

 そんなことを頭に浮かべると次第に銃声と喧騒が激しさを増す。

 巻き込まれる前に物陰に身を潜めながら酒場に戻ることにした。

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