表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶と遺産を求めて  作者: 藤咲晃
罪人都市編
17/62

15.侵入に向けて

 制服に着替えカウンターの定着に着く。

 あれから速くも三日が経過。酒場の客足はシスティナのおかげで増す一方だけど情報の方はなかなか難しい。

 酔った看守や商業ギルドの職員が情報を落としてくれるけど、真偽の程はよく精査しなければならなず。

 俺達が欲しい情報は投獄城侵入に必要な構造図だけなんだけどなぁ。

 ため息と逸る気持ちを抑えながらカウンター席に座る看守に酒を差し出す。

 看守は苛立ちを紛わすように酒を一気に呷る。

 

「クソっ、昨日も同僚がやられた」


「やられたって……まさか、また?」


 看守は俺の問いかけに静かに頷いた。

 必要な情報に反して頻繁に人斬りに関する情報が多い。少なくとも二日ほどは人斬りの割合が多いのだ。

 先日システィナも人斬りと遭遇したそうだけど、その時は見逃されたのか彼女には手を出さなかったそうだ。

 人斬りは手当たり次第に被害を出してるわけじゃないらしいけど。


「最近多いね、人斬りの被害」


「監視の眼を掻い潜り、一太刀で斬り伏せる。毎度鮮やかな手口だ、全く忌々しいっ!」


 これはちょっと困ったことになる。

 人斬りの動きが活発化すると投獄城はおろか街中の警備が強化される。

 無実の商業ギルドの人達が襲われるよりはよっぽど良いかもしれないが支障が出るのはちょっと。


「なんとかならないの?」


「……囚人のバーテンダーに話すことは無いが、仮に斬られても神出鬼没の救護団が助けてくれるだろうさ」


 神出鬼没の救護団? 人斬りとは無関係、なんなら投獄城に関する情報でもないけど。


「神出鬼没の救護団って?」


「知らないのか? 重傷者が居る場所に必ず現れ、治療していく団体のことだ。厳重な投獄城にも音もなく現れる……まさに神出鬼没な一団さ」


「不法侵入者として捕まえないの?」


「連中の行動には正当性がある。それに罪王も連中の侵入には寛容だ……むしろ謝礼金、いや寄付金を渡したいぐらいさ」


 負傷者を治療しに現れる救護団をわざわざ捕らえる必要なんてないしなぁ。

 侵入方法とか気になるけど、システィナ達は救護団の存在を知りながら彼らから侵入ルートを聴くことを誰も提案しなかった。

 それはつまり救護団は絶対に話さないって分かってるからなのかもしれないな。


「……はあ〜そろそろ時間か」


 そう言って看守は酒場から立ち去ると入れ替わりに鎮圧部隊が酒場にずかずかとやって来る。

 魔道銃を携える鎮圧部隊の面々にヨランとシスティナが訝しみ、荒くれ者に緊張が走る。

 もしかして情報を集めてることがバレたんじゃ? 不安と緊張感に咽喉が鳴る。


「あー、ここに居る看守、警備隊、鎮圧部隊の同僚達よ。()()()()()()()直ちに出動し人斬りを射殺せよとの仰せだ」


 鎮圧部隊の隊長の言葉に酒場に居た看守、警備隊、鎮圧部隊の人々が一斉に酒場を去ってゆく。

 一瞬で客が居なくなり、閑散した酒場に思わず息が漏れる。


「今日はこれで終わり?」


「丁度良い、店仕舞いして全員地下に来い」


 地下室から現れたヴェルトの呼びかけに、俺達は店仕舞いをしてからヴェルトが待つワイン貯蔵庫に向かった。


 ▽ ▽ ▽


 壁に張り出された地図は城の形で、内部構造が詳細に描き記された物だった。

 それこそ侵入口のダクトの配置から何処に繋がってるのかまで。


「どうやって手に入れたのよ」


 もっともな疑問をシスティナがヴェルトに問う。


()()()()()()()()からな」


 親切な? 投獄城の内部構造を手に入れられる情報提供者って何者なんだろう?

 

「ふーん? 利用されてるのかしら?」


「かもな……それで侵入ルートは三つ有るが、お前が前回使った侵入ルートはどれだ?」


 ヴェルトに問いかけられたシスティナは内部構造図を見つめる。

 じっと見つめたかと思えばシスティナが首を横に振る。

 なんだか嫌な予感がする。ただ首を横に振っただけなのに、前回使った侵入ルートを答えるだけなのに。


「無いわ。その構造図には私が前回使った侵入ルートは記されてない」


「……やはりか」


 ちょっと二人は理解してるみたいだけど俺には話が分からない。

 いや、ヨランも荒くれ者もどういう意味だと言いたげな視線を向けてるし。


「噂は本当だったのね。投獄城の内部構造は定期的に更新されるってのわ」


「一度投獄城に侵入した筈のお前がなぜもう一度侵入しなかったのか気掛かりだったがこれで合点がいった」


 つまり投獄城は定期的に内部構造が変わるから同じ侵入ルートは使えないってことか。

 それにしてもシスティナも人が悪いなぁ。その可能性が有るなら教えてくれたらいいのに。


「うん? それじゃあ新しく構造図を手に入れても変わってるかもしれいってことじゃ……」


 気づいたことをそのまま口にするとヴェルトは小さく笑った。


「普通ならそうだが、投獄城の構造が変わったのは今朝だ。次に変わるのはいつになるか分からないが急げば間に合うさ」


 それはすぐに侵入を決行するってことか。

 俺はシスティナから侵入の鍛錬も受けたけど、まだ技術面で不安が残る。

 それに身体もまだ鈍いというか、頭に描いた通りに身体が動けない。

 完璧と胸を張って言えないけど時間が無いのは確かだ。


「システィナ、情報は用意したんだ。決断と決行は任せる」


 ヴェルトに言われたシスティナは迷うことなく、


「決行は今夜、闇夜に紛れて2番侵入口から侵入するわ」


 侵入決行日と侵入口を即答で答えた。


「なら俺達は1と3を使う……お前らも準備はしておけ」


 潜入は俺とシスティナだけだと思ってたけど、二人だけに任せられないってことかな。


「「「了解!」」」

 

 そう言ってヨランを筆頭に荒くれ者はワイン貯蔵庫を後にした。

 三人だけになったワイン貯蔵庫、俺は緊張してるのか、手が震えて額から汗が滲む。


「アスラ、気負わなくても大丈夫よ。2番侵入口のダクトは投獄城全体に通じてる。だから私達は監視室と罪王グレファスの寝室を目指すだけよ」


「それは分かったけど、爆弾チョーカーはどうやって外すの?」


「爆弾チョーカーの大元である古代遺物は罪王グレファスが肌身離さず持ってるそうだ」


 爆弾チョーカーを装着したまま罪王グレファスとの直接対決は逃れられない。

 こればかりは仕方ないことだ。行動に移さないと俺は記憶の手掛かりを求めて外へ出られないんだから。

 

「覚悟は決まったよ。今夜、よろしくね」


「任せて」


 システィナが笑みを見せる中、


「問題は人斬りだな。奴が投獄城に侵入すればより混乱が起きるだろ」


 ヴェルトが懸念を口にした。

 それは確かに懸念すべき事だと思う。

 

「人斬りを捜してるサムライは?」


「ソイツも人斬りを捜してるらしいが、死合いできるなら場所なんてお構い無しだろうさ」


 うーん、迷惑だけど警備の注意が人斬りに向かうならアリなのかもしれない。


「いざって時は人斬りから罪王グレファスを護るために侵入したって大義名分が得られるわね」


「通じるかは分からないが、人斬りに罪王グレファスが殺されることだけは避けたい」


 そういう時は救護団が駆け付けるらしいけど、確実に助かるとは言い難いのかも。

 

「……いずれにせよ今夜まで時間は有る。お前達はどうする?」


「私は不測の事態に備えるわ」


 この三日間は基礎を中心に鍛錬を続けたけど、対人戦は心許ない。

 というのも俺はまだ一度もシスティナにまともに剣を当てることすら出来ずにいる。

 そんな俺が訓練されてる警備隊や看守を相手に勝てる見込みはゼロに等しい。

 時間まで鍛錬に充てるべきか?


「不測の事態か……練気以前に魔術の詠唱も魔道銃を相手に部が悪い……ますますお前の責任は重大だな」


 挑発的な笑みを向けられたシスティナは肩を竦めた。


「安い挑発ね、目標はどんな物でも盗んできた私が付いてるのよ? そう簡単に見つかるヘマはしないわ」


「お前、俺のところでやらかしたことを忘れたのか?」


 そういえばシスティナは此処に侵入して罠にかかりながらティアラを盗んだって言ってたな。

 うーん、慣れてる彼女でも油断してしまう時があるのかもしれない。

 

「……今回も気を付けるわよ。それよりも時間まで自由行動、あんたは少しでも緊張をほぐして来なさい」


 俺はシスティナに引っ張られながらワイン貯蔵庫を出ることに。

 その際にヴェルトが不安気な眼差しを向けていたのは気のせいかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ