決勝の相手
班長の裕子を除いた校外学習の班メンバーが下校が重なった中、まりをきっかけに水原大樹という中学空手大会での優勝者の話が始まり、駿は早々にその場を立ち去り、不自然さを感じた丸山が高史に尋ねると水原はかつて駿が大会決勝で負けた相手だというのだ。
「暁君が負けた相手……」
「そうなんだよな」
「へえーーー、まさか暁が水原君と対戦していたなんてね」
「そうだよ、っていうか雪野、大会を観に行っていたのに知らなかったのか?」
高史はまりが駿と水原が試合をしていた事を知らなかった事にツッコミをいれるが、まりから返答がある。
「だってさ、あたしの中学で出場していた奴が負けたらすぐに帰る事になったんだもん、あたしは最後まで水原君を見たかったのにさ」
「お前、何しに行ってんだ……」
「ねえ奥野君、今は暁君、空手を辞めたけど、まさか水原君に負けたのが理由なの?」
まりの発言に呆れている高史に伽耶が水原に負けたのが駿が空手を辞める理由になったのか尋ねるが高史の返答は意外なものだった。
「いや、元々あいつは中学までで空手は辞めるつもりだったんだ、だからこそ3年生の最後の大会は優勝するぞといきこんでいたんだ」
「それで負けた相手だから名前聞くだけでも悔しいんだろうね」
「いや、あいつさ決勝の相手がずっと対戦したがっていた水原でさ、優勝へのプレッシャーと水原と相対した緊張感でガチガチになってさ、空回りしちまったんだ」
「そうなの?」
「俺もあいつのじいちゃんやおふくろさんと一緒に試合を観ていたんだけど、じいちゃんは駿らしくないと言ってたな」
駿がプレッシャーや緊張で空回りして本来の力を出し切れなくて負けた話を高史から聞いた丸山が高史に自分の考えを伝える。
「だからつまり、水原君の話を聞くと暁君はその悔しさや気恥ずかしさを思い出してしまうんだね」
「まあな、だけどこの間空手の本を買っていたし、案外空手への復帰を考えているかもな」
「え⁉暁君、空手の本を買っていたの?」
「やる気はいいけど、水原君へのリベンジは無理なんじゃないかなあ」
「まあ、実際に復帰するかは分かんねえけどな、っていうかそろそろ帰ろうぜ、丸山も碧さんも用事やすることがあるんだろう」
高史の言葉を聞いてそれぞれが反応をする。
「あ、そうだね、じゃあ私帰るね」
「僕も練習しないとサポートしてくれる暁君に迷惑かけちゃう」
「しょうがないから1人でカフェ行くよ、じゃあねえーーー」
「今日は俺も帰るか駿も帰ったし」
立ち話が長くなったが一同はその場で解散した。