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「弊社の自信作です。」

作者: 風間新儀

 髪をタオルで拭きながら、風呂場からリビングへ移動する。冷蔵庫からは冷えた缶ビールを取り出し、テレビの前のローテーブルからはリモコンを拾い上げる。ソファに腰を下ろしつつ、リモコンでテレビを付けた。缶ビールのプルタブを開けるとすぐに口へ運び、長めの一口目を堪能する。ふぅっとため息を付く。まさにドラマに出てくる独身男性の夜のシーンだ。テレビではアフリカの野生動物の映像が流れている。どうやら動物番組らしい。疲れているせいかテレビに目線を向けながらも内容が頭に入らず、頭の中ではふと自分を振り返っていた。


――――――――――

 僕は動物が好きで今のペットフード会社に就職した。大学生の時はペットショップでアルバイトをしていたし、大学院では動物栄養学について研究した。アルバイトをしている中で、食で動物の健康を守りたいと思った。だからペットフード会社に就職できたときは夢が叶って嬉しかった。

 出社しては朝から退勤までペットフードの研究をしている。栄養バランス、フードの形状、食欲を刺激する味を調整した後は、実際に動物に食べさせる。実験用の犬が入ったケージの餌皿にフードを入れ、食べた後の様子を観察する。犬の採血もして数値を確認する。時には営業の人と同行し、卸売業の取引先へ訪問もする。営業の人は「弊社の自信作です。」と言って、新作のペットフードをプレゼンする。自信作というのは本当だ。品質は高いながらも、お客様にはお求めやすい値段を維持した。だが…。


――――――――――

 テレビから聞き覚えがあるBGMが流れ、意識がリビングに戻る。自社のCMが流れていた。CMを見ながらビールを飲み、再び考え事を続ける。小学校の授業で命は平等だと説かれた。しかしこの仕事をしていれば、そんなことは軽々に口にはできない。市場に出回るのは動物実験を経て、安全が保証されたフードだ。安全なフードを食べるペットと、開発中のフードを食べさせられる実験動物。この差は何だ。命に差があるのか。差があるなら、なぜだ。動物を大切にしたい、元気に過ごして欲しいと思い、学生時代の勉強に励んだ時間は何だったんだ…。CMは終盤に入り会社のキャッチフレーズが表示された。「やさしさの味は愛情」―――。気がつくと愛犬のミニチュアダックスが足下に座っていた。ペットショップで購入したおやつをあげる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ペット産業も色々と闇が深いようですね。 我が国のペットに関する行政の扱いや庶民感覚が、諸外国に比べてだいぶ遅れているという話も聞きますし。 なかなか考えさせられる話でした。
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