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愛せよカラオケ文学部

 勝負高校の三階端の音楽室…の隣「音楽準備室」の片隅にその部はあった。


 カラオケ文学部


 ガラガラピシャン、勢いよくドアを開けて入室したメガネ男は陰キャめいた猫背から…一歩部室に入ると逆にシャキンと胸を張る。


「全員揃っているか?今日の一曲…俺は決めたぞ!!」


 身内にだけ大声で話すキモイこの男こそ、この部の部長“深稲=樫好”中学生までは図書室通いの文学部だったのだが高校受験で勉強の作業BGMにと聞き始めた深夜のラジオ“トリフィド流星群”で音楽と出会い…ハマったのだ。


「今日は筋〇少女帯の名曲…“戦え何を人〇を”をテーマにしようぜ!」


「人生とは終わる事の無い戦いの連続である…以上」


「な…なんだ…と!?」


 部長=深稲の提示した曲は「戦え、何を、人生を」を延々と繰り返す謎曲であったのだが…ドンピシャの回答を秒で入れられて、そのあまりの熱さに涙があふれた…完敗だ、完敗だぜ“倉杉=弥美子”!

 倉杉はこれまたメガネの陰キャ女子である、感涙する深稲を尻目に読みかけの本を読み進め…パタン、読了。


「今日は部長の番では無いです、私は谷山〇子様の名曲“意味なしア〇ス”を提案します。」


「た…谷山さんかぁ…」


 倉杉の押しである「谷山〇子」は中々に狂気に充ちていると深稲は感じていて身を固くした、意味なしア〇スは聞いた記憶が無いのだが…なんか骨の駅がどうのや、頭を煮込むよやら…なんかそんなワードがあり、初めて彼女のおすすめ曲を聞いた日は夜トイレに行けずに洩らしてしまった。


「ハァハァ…私の解釈では“キノコの上の芋虫”イコール“ち〇ぽ丸出しのデブな〇”でハァハァ…つまりア〇スの正体はぁあああ!ハァハァ」

「放送禁止ワードは女子高生の禁止ワードだよ!もちろん青少年にも禁止だよ!駄目駄目駄目!」

「チィ!!」


 シャカシャカシャカシャカ


「うるさいなぁ~、もぅ…39たんの歌が聞こえないデブよ。」


 言い合いを始めた二人に苦言を呈するのは窓辺でコーラを飲みながらヘッドフォンを付けていた最後の部員、白いシャツから透けて見える萌えキャラの痛Tシャツがトレードマークの豚男“萌=武太男”だ。


「はぁ~…二人の選ぶ曲は暗すぎてうんざりデブよ、たまには皆で明るい曲聞いてハッピーになりまブよ?」


「「うぇ~?明るい曲ぅう?」」


 深稲も倉杉も太陽を浴びれば死ぬ陰キャ、明るい曲を聞かないわけでは無いのだが…(アニソンとか)どうして推しは魂が共鳴する闇の歌になってしまう。


「そうデブよ、今日は久々に…ボブが初音39たんの曲を二人にレクチャーしてあげまブ」


 一方、萌は暗い曲を忌避しいつでも明るい曲を愛する陽キャだ、うん…普通の陽キャの定義とは違う気がするが二人に比べると陽キャである…では、そんな彼が選んだ曲を聞くとしよう。


 カチャ


「では行くデブ、ボーカ〇イド初音39たん、Pはラ〇ーズPたまで曲名は“ぽっ〇っぽー”」


 ♪ (歌詞書けないので略、名曲なので〇の中を透視して検索して聴いてみて下さい)


…(主にリズミカル

……(野菜ジュース飲めやこら

…………(洗脳的な繰り返し


「っな!?こ…これが…本日のテーマ!?」


「無理だわ…こんな…どんな“意味”が!?」


「ふぉおおおおおん、意味などいらないデブ…楽しければ神!」


 ここは“カラオケ=文学部”デブの意見は放っておいて…この部は音楽の“歌詞”に注目して“意味”を研究する部活であるのだ!

 音楽に出会い、聞きに聞き…カラオケに何度も通うと見えてくる…否、繰り返し繰り返し“歌詞”を歌い読み…そして初めて気付くその曲の本意、それを知った時の感動よ…

 この部はその経験を愛する者達の集まりなのだ、部では毎回“テーマ曲”を決め部員全員でその歌詞を徹底的に考察する…しかし、しかし今回の曲の内容は!!

 ※素晴らしい曲なので是非とも聞いてみて下さい ラ〇ーズP様の ぽっ〇ーぽー


「や…野菜ジュース…野菜ジュース…」

「価格は200円…た…高い?や…安い?」

「デブブブ♪…ポッ〇ーポー♪」


 …今回の課題はマキシ〇ザホルモン並にタフであった、解読には三時間を要し…そしてついに…


「解ったぜ…ついに…ついにな…」


「「マジかよ」」


 下校時間を過ぎた為に、カラオケボックスに活動場所を移して1時間…延長するかどうかの倉杉と萌の相談中についに部長=深稲が涙を流した…歌の深淵、真理に辿り着くといつもこうだ…あふれ出る涙が止まらない。


 ここに来て1時間、10回歌った曲は全てぽっ〇っぽー、飲んだドリンクは野菜ジュースオンリー…地獄だ、地獄のような戦いであった…、高校生のなけなしのお小遣いで得るカラオケの貴重な一時間…推しの名曲を我慢し同じ曲を延々と歌う戦いが終わり…ついに…ついに一つの答えが出るのだ。


「聞かせてくれ…聞かせてくれよ部長…あんたの…あんたの答えを!」

 萌=武太男は期待していた…自分がテーマに選んだ曲だが…その意味なんぞまったく考えた事は無かった曲だ…あぁ、そもそも意味なんてあるはずがない、そして早く帰りたい。


「部長…早く…もう限界よ…」

 倉杉=弥美子は顔を蒸気させながら答えをせがむ、早くしないと延長料金がかかってしまう。


「フッ聞かせてやるぜ…八ッ!俺の歌詞を聞けぇええええええええええええ!」

「「うぜぇえ!」」


 ♪

 

 ピーポーピーポー

 サイレンの音

 野菜ジュースをお勧めするよ

 私が決めたジュースを飲みなよ、飲めよ、さぁ飲めよ

 ピーポーピーポーと救急車

 君は野菜不足で不健康、だからね飲みなよ野菜ジュース

 べ…べつに君の事が心配で、こんな事言ってるんじゃないんだから…

 価格は200円

 ※部長の翻訳

……

………


 パチパチパチ…萌=武太男は部長の解釈に感涙をして手を叩いた。

 元から涙をナイアガラしていた部長と二人、デブとガリが涙を流し合いながら抱き合い…それを店員がいささか引きながらレジに割引データを入力してくれている。


「お会計…900円になります。」


 こうして、本日の活動は終わった…こんなしょうもない曲一曲に300円をかけた事に倉杉はいささかげんなりだ、今度の日曜は一人で来て…サウンドホ〇ズンのアルバム一枚制覇して帰りたい。


「いやぁ…素晴らしいツンデレの曲だな、舐めていたよ…神曲だ」

「部長!僕のコレクション貸すデブか?」

「あぁ…頼むぜ!」


 ♪~♪~ あー駄目だ、気を抜くと頭の中に流れてくるあ~ 


「♪ぽっ〇っぽー…うーん、絶対そんな深い歌じゃないわよねぇ…」


 勝負高校、カラオケ文学部

 歌を愛し、更に愛する為に曲を、歌詞を研究する部活動だ。


 ♪プープカぷっぷー(ラッパ音)

  

 隣の音楽室で頑張る吹奏楽部も頑張っている、他にも音楽系の部活は合唱部や軽音部…どれもこれも技術を研鑽し、音楽を生み出す素晴らしい活動だと思う…しかしだ。

 料理を提供すれば食べる人が居るように、音楽を奏でる人たちが居れば当然それを聞く人たちもいる…「カラオケ文学部」ここに集まった彼らは正にそうだ、音の一つも出せなくても…才能の欠片もなくたっても…音楽とは楽しむ事が出来る!!


「そういえば今日の最高得点は誰ですか?」

「あー、それは俺だぜ!75点だ!」


 彼らは音楽の才能は無い、歌も音痴だ…楽器も出来ない、けれど…音楽を愛している、愛だ…愛こそがすべてだ。


「ねぇ、武太男くん…ボカ〇で私が好きそうなのって無いの?」


 こうして、倉井はボカロ界の闇と病みの王、キ〇オと出会った。

 病みの王、カリスマ…キ〇オの数々の闇ソングは、谷山様引退でぽっかりと空いた倉井の胸の穴を暗黒で埋め満たしてくれた。


 フフフフフフフ 素晴らしい… 素晴らしいわ…ウフフフフフフフフフフフ


「部長…今日はキ〇オ様の名曲…“君はでき〇子”をテーマにしましょう!」


 まったく、そうだ…人とのつながりの中で出合う音楽がある。

 楽器も何も出来ないでただ愛するしかない彼らは互いに互い影響し合い…そして新しい世界を開拓していく。


 カラオケ文学部万歳!

 音楽の楽しみ方は色々だ!こんな音楽部があっても良いだろ!?


 END

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