ピザラギ駅
こんな怪談がある、ダイエットを始めたデブが電車に乗って「ラーメンラーメンラーメン」と唱え眠りに着くとたどり着ける幻の駅があると…
「ピザラギ駅」デブが目覚めるとそのには聞いた事も無い、そんな名前の駅名がある。恐ろしいだろ?電車の発着音はチャルメラらしい…、そして辺りに立ち込める様々なご馳走の香、カレーの匂い、焼き鳥の匂い、ラーメンの匂い、油の匂い、油の匂い…心なしか足元もベンチも手すりも全てがこってりラーメン店のようにヌメヌメとしている。合格だ。
この状況に放り込まれたデブはこの匂いにやられて空腹スイッチが入ってしまう。そして空腹のデブの思考は食べ物以外の情報を処理できないのはご存じの通りだ…噂によると、駅で目覚めて最初の電車に飛び乗ればすぐに帰還が出来るらしいが…そんな冷静な判断はデブには出来ない。滑る床で何度も転び、頭を強打しながら匂いのする方へ匂いのする方へと誘われるまま転がっていく…しかし、中々飲食店には辿り着かない。デブの宿敵「階段」を降りなければならないのだ…デブは覚悟を決める為、取り合えず階段前の自動販売機に飛びつく。そこでコーラの一本でも飲まなければ階段に挑む事は不可能なのだ…そして気付く。
「カレー…?」
…そう、ピザラギ駅の自動販売機ではごく普通にカレーが売っている。そしてコーラは無い、コーラはそこら中に設置された給水機で飲めるからだ。ゲフゥ…そしてデブは階段を下りる。そして…フィーバータイムに突入するのだ。
ピザラギ駅の一階フロアには食べ物屋しかない、全国津々浦々の駅弁が食べれるコーナーから…全世界の食べ物屋、丼料理からスイーツまでありとあらゆる店が並びしかもただなのである。
「よもつへぐい」オカルト好きには一般常識の言葉がある、異世界で食べ物を食べると帰れなくなるというアレである。デブの脳裏にそんな言葉が蘇るのは空腹を満たしてから…食欲を満たしてから…そう、この夢の環境においては大体三日後あたりの事になる。
「スイマセン…あの…」
こんな話もある、ピザラギ駅で長期間滞在しているとオドオドとした薄幸そうな美少女が話しかけてくるというのだ、大概にしろ…俺も駅に行きたい。
「あの…えーっと…ちょ…ちょっとだけ…ご一緒してもいいですか?」
もちろんOKである。しかし、当然の事ならが疑問に持つべきである…食べるしか能がないデブが、美少女に話しかけられるわけがないのだ。
ガララララ~
「助かりました~」
ピザラギ駅の自動ドアは体重が三桁無いと反応しないのだ、なので少女は困っていただけだった。ちなみに勘違いしてこの少女にプロポーズをしたデブも何人も居るらしいのだが、上手く行った話はついぞない。ざまーである。
ピザラギ駅で出会える住民、ピザ民に対する考察は諸説あるが我々の世界から行った人間はデブばかりのはずなので痩せたピザ民は原住民では無いかと言われている。先の少女もそうだがこの環境でデブらないという事は体質の問題なのか「デブが嫌い」かの二択ではないかと言われている。事実、美少女に告白をした場合…
「うわぁ…きっしょ…」と蔑んで貰えるらしいのだ、これは是非チャレンジして欲しい。
♪チャララーララ チャララララ~ン
…さて、恐ろしい話をしよう。このピザラギ駅でデブ達が直面する残酷な事実だ。
♪チャララーララ チャララララ~ン
この駅に、ラーメンは存在しない。
♪チャララーララ チャララララ~ン
そもそも「らーめん」と唱えてこの駅に導かれたデブの心と体は、心底ラーメンを求めている。それはカレーでも焼肉でも満たせぬ奈落の穴である。そして…例え焼き鳥やパスタ、アイスクリームで満足しラーメンを意識から消したとて
♪チャララーララ チャララララ~ン
電車の発着の度に流れるチャルメラが意識をラーメンに引き戻す。…そも、匂いもするのだ、しかし無いのだ…あぁあああああああああああああああああああああああ!
「ら…らぁめぇええええええええええええええええええええええええん!!」
心の底から求め、腹の底から「らーめん」と叫べ!それこそがこの駅から帰還する方法なのである。
「………へ!?」
気が付けば、元の世界、人影まばらな最終列車…降り立つホームの床は滑らず、辿り着く自販機にカレーは無い。じんわりと目頭が熱くなる、鼻をくすぐる美臭は無い…ただただ埃臭い空虚な空気よ。
降り立った一階にはたった数種類の駅弁を売る店(閉店中)、食べれもしない土産や旅行プランのチラシまみれの売店が幾つか(閉店中)、戻ったのだ!…あぁ…戻ってしまったのだ!あの夢の世界から…もう、コーラを飲むにはお金を払わなければならない!焼肉もハンバーガーも…ピザも…中華マンも…ドーナッツも…食べ放題じゃぁない!戻ってきた安心と虚しさが…理性を司る脳と食欲を司る腹の中央、心臓の位置でぶつかり痛む!
♪チャララーララ チャララララ~ン
「はっ!?」
気が付けばデブは転がるように走りだす、滑りもしない普通の道路で…転びながら、バウンドしながら…導かれるように全速力で!涙と涎をまき散らし…駅前のラーメン屋台に向けて走り出すのだ!
「きゃーー---------!!」
ピザラギ駅、深夜の駅から獣の如き形相で飛び出すデブを見かけても、決して悲鳴はあげないで欲しい。たのむ…通報もしないでくれ…
ピザラギ駅、別名「らーめんの無い世界」で知られる怪談である。