絵を描く風景
ケント紙の上にチューブから直接絵の具を出す、ポスターカラーの白、黄色、青。
水をたっぷり吸わせた平筆で紙上と水洗いのビンを行き来させ水滴を幾つも紙面に落とす。
そしていよいよ、平筆で絵の具を押し拡げ、水滴を飲み込みながら紙の上に色が広がる。
濃い色からでは駄目だ、例えば最初に黒が筆についたら他の色を全て飲み込んでしまう…だから、白→黄色→青の順で平筆で一気に駆け抜けた。このやり方は薄い紙では出来ない、硬く厚いケント紙だから出来る方法である…そして世界の下地が出来た。
じんわりと背をやく、窓からの日差しに首や眉間に汗が滲む…氷を入れたコップに手を伸ばし、溶けた水に舌先をつけてチビリと味わう。
手のひらの冷たさと背中の熱さがどろりと混ざり、肉体は不思議と心地よかった。続けてチビリと水を舐めつつ…男は世界を見下ろし、ついに細筆を水に浸した。
使い古しのパレットの上、絵の具のミイラが水に溶け出す、時に黄色、時に青を細筆につけ男は世界の靄に輪郭を生み出す。
水色と黄緑、黄色の滲んだ不思議な靄が空と大地に分かれて行く。雲が流れる青空の下、夕日が照らす草原にチラホラと人影が現れた。
「リトリア…」
13歳で死んでしまう三日月病を患う王女は、魔女に弟子入して永らえた。魂が欠けた三日月の形になる病は欠けた部分を器にして魔を受け入れる才能だった。
「ソード…」
王女に従う黒髪の少年は剣が振れない剣士であった。夜目が見える才能で盗みで生計を立てていた彼は魔女の最初の使い魔である。
リトリア・シルヴァーウッド、ソード・ウッドカット、ブレイン・ブックス、ドゥー・ケア、レッドロック・ナイフス…
草原に現れた人影に、男は色と影を与える。
一行は地面にずっしりと足をつけて、そよぐ風の中歩き続けて何処かに向かう。
ワクワクした様子の姫様とうんざり顔の少年と微笑んだり、呆れたり、疲れたり、笑ったりの道連れ達が夕日を背にして歩いている。
彼等は何処に向かうのか?
それは次の紙面で描ける…そんな時間があったなら…
彼等は何処から来たのだろうか?
それは描けなかった昨日の話し、絵を描く時間は難しい…
あと何枚が描けるのだろう
今まで何枚が描けなかっただろうか
神様になるには生活が苦しい
神様じゃないから家賃も食費もかかるのだから
でも、描いてあげたいなぁ
チビリと水を舐めて思う。気付けば夕暮…ぬるくなった水を飲み干し、筆洗いにした珈琲の空き瓶に蓋をする。
さて、夜勤だ…頑張って生きねば。




