蛆の口上
やーやー
某の生まれは遥か遥か、東の果の大殺界…その空の主の大鷲の腐肉!その偉大な躯の強靭な翼、喰らい育ちし我は飛蝿!飛ぶに関して自信あり!
やーやー
某の生まれは南の海よ、大海を漂う怪物鯨…その巨大な腹の筋傷にて、蠢き育つ我は大蝿!蜂と見紛うこの体、正しく王者の貫禄である!
やーやー
西から来たるる我は眼蝿!雪山に住まう1つ目鬼の眼窩に眠り、夢見て育った!
おーおー
美しき北の姫君よ
麗しき娘の腸にて躍り育ちし美の姫蝿よ!
我等三匹の中からはたして、いったい誰を王に選ぶ?
やーやーやーやーやーやーやーやー
ブンブンと喧しく、蝿共が首吊り少女の廻りで踊る。愛に破れた少女の腸、そこから生まれた姫を囲んで
やーやーやーやーやーやーやーやー
朽ちた山小屋の屋根隙間より
暗い世界に木漏れ日が差す
怒りにかまけた大蝿が娘の腹を食い破る
業を煮やした飛蝿が娘の腕に牙をたてる
娘の目玉をぼとりと落とし、目蝿は眼窩で眠りの構え
姫蝿の返事はなかなか無しに
3匹は不意に静かになった
やーやーやー
日差しの中で何かが生まれた
やーやーやー
娘の躯と3匹の蝿が灰に変わる
やーやーやー
ベルゼバブは天の淀み、腐れた愛の中で生まれた。北の娘は微笑んで、彼を我等の王に定めた。