前歯隼三
前歯隼三は警備員である
不死山の麓にある弱小暗黒警備会社で中間管理職を行っている。
社会に出た時は60キロだった肉体に22キロの脂肪とメガネを乗せて、のそのそと片道40キロの長距離出勤をして、珈琲をがぶ飲みしながらパソコンを睨みつけている、パソコンの画面に映し出されているのは様々な工事業者からの依頼と、そこに行かせる警備員のリストだ。
「…っ、この現場片側交互通行じゃん!」
片側交互通行…工事の為に狭くなった道路にて無理やり車を通す為、警察でも無い一般人が車を止めたり流したりするハードな仕事だ、工事の監督が取ってきた道路使用許可に従い看板を設置し、灼熱の道路上にて正確な判断と技術で交通への悪影響を最小限に留めるわけだが、アホな警備員、コミュ障の警備員では監督と打ち合わせも理解出来ず…自己判断で違法な場所に看板やコーンを並べ始め、ひ弱な警備員は途中で死に、技術がないアホは赤旗と白旗を間違えいるだけで危険を倍増させる…故に、そんな現場を取ったなら「誰を行かせるか?」は恐ろしく重要な事項なのだ…が!
「…ヨボ太さん!?馬鹿な!」
前歯隼三は目を疑う、超ハードな現場に御歳108才を迎える警備員の名前があったのだ!しかも先々の予定ではなく、今日…現場に行っているようなのだ…
「…昨日配置したのだれだよ!アババ…いや、意外に楽な現場なのか?…でもそんなメモないし、ぐぬぬ!…」
中間管理職として、現場と隊員のアレコレをするのは前歯隼三だけではない、前日は同僚、絵旗隼二の出勤であり今日の配置は彼の采配だ。彼の見落としではなく事情があったのだと信じたいが…糞!奴は隊員に30連勤をさせた気狂いである…信用できねぇ!
「…昼前に覗きにいくかな、バテてそうなら少し俺が入って休ませるか…あ?あれ?週末のお祭り警備の打ち合わせ予定あり?今日俺が行くの?」
終わった、ヨボ太さんを助けに行くことは叶わないようだ。彼が死なないように祈りつつ…せめて明日は休めるように、生コンのミキサー3台誘導して終わるような現場に名前を入れる。…よし!朝礼の後に祭資料の読み込みを…
…プルルルルルル!
ガチャ
「はい、不死不死警備です。」
「あっ!前歯さん!おれおれ!」
「あ〜オレ夫さん?どうしました?」
電話に答えながらパソコンでオレ夫の予定をチェックする、今日は10時スタートで駅前、歩道の工事の筈だが…集合が北口か南口かわからないとかかもしれない。
「前歯さん!急用できたから今日無理だわ!ハハ!」
…時刻は8時半、後30分で朝礼が始まる。今日は会長も出席する売上報告会もあり、司会進行の当番でもあった…最悪だ…、今からオレ夫の代わりに現場に行ける人を探し頼み込み、いなければ自分が向かう必要がある…そうしつつ、誰もが嫌がる当番を誰かに頼み…祭りの打ち合わせを延期しともらうか…誰か代わりを…あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
その日の14時、ヨボ太のおじいさんが現場で倒れた。
前歯隼三は転職したいと強く思った、しかし彼は転職を諦めた、彼は既に40手前の中年であったし、バツイチだった。
離婚した妻に取られた子供に、毎月養育費を払わなければならず。大学の奨学金も残っていた、むしろ自身が高校時代に両親が親戚中から借金をしていた事が最近判明し…それを背負う形になった為に家も車も無いくせに三重ローン地獄みたいになっているのだ、総理大臣が増税増税しか言わない暗黒時代に…こんな職でも手放す事は出来ないのだ。
「漫画家に、なりたいなぁ…」
21時、片道40キロの帰路に付きつつ前歯隼三はつぶやいた。結局16時まで現場にでていて、帰社してからあれやこれやの業務をしていたら定時を2時間過ぎてしまった。当然残業代は出ない…
漫画家の夢は諦めている、今の生活では絵を書くことは不可能だろう。
やたら喉が渇く、疲労にフクロハギがピクつく、甘い甘い珈琲をがぶ飲みし事故らないように家路を進む。
「小説家になりたいなぁ」
不意に溢れ出した涙が頬を伝う、深夜のバイパス…涙は止めなければ事故につながる!
ニコッ!
夜の闇が、狂人の顔を隠してくれた…そうでなければ、すれ違う対向車が事故を起こしていたかもしれない…!
「帰ろう…帰ったら寝て、起きて…5時に家を出るんだ…」
彼は耐えきれずコンビニに立ち寄り、油ギトギトのチキンを食べた。こうして体重は増え続け彼は早死にするのであろう…しかし、それでも良いかもしれない、何故ならこの世は
「糞が…人生は糞だ…!」
彼はこの暗黒から抜け出し、漫画家かはたまた小説家になる事は出来るのだろうか?もしくはそれを飛び越えて、魂を成長させ…悟り、霊的次元を上げる事が出来るのだろうか?
10年後ついに倒れ入院をした先で仲間に出会い、宗教にハマりむしり取られた彼がホームレスになり断食ダイエットを成功させるとは…この時はまだ誰も知らない。
完
前歯隼三
精神的ドM、女の好みが悪くぽっちゃり茶髪好き。太っている=自分に甘い、茶髪=やんちゃとすると我儘で自堕落で暴力的な女性が好みであり、そんな女性に貢、奉仕する事に喜びを見出す。自分からそんな相手を好きになるくせに、結婚して子供ができると変わる事を相手に強要しボコボコに殴られる悲しき生物でたる。
ダメ男好きな女性の話をテレビで見てもシンパシーありすぎて笑えない。
30手前で離婚し、1度警備業を離れるも堅実な仕事と理想を抱きチャレンジした製造業、食品加工会社にて160時間残業をするも79時間しかつけて貰えない地獄を見る、他にも黒い噂を先輩から色々聞いたため転職、年齢が年齢なので資格もあったので警備員に戻る。
最近、前の会社が産地偽装で潰れた。
また、オタクはオタクでもやっかいオタクより厄介な「意識高い系オタク」であったため、学生時代の友達は少ない。
※意識高い系オタク
オタクならオタクで好きな物を好きな人同士集まり語り、友達の輪を広げるツールにできるはずなのに
「オレ、見る側じゃなくて作る側目指してるんだよね」と内心考えてる為にメジャーどころのサブカルで楽しく会話ができない悲しき存在




