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腐れ悪魔は常温が好き

 肉に塩と香辛料を擦り込んで瓶に入れる、古来からある保存食の作り方だ。そしてそれをグツグツ煮込み加熱して…瓶の中の細菌を灼熱消毒して蓋を閉めるわけなのだが…菌とう概念が無いその昔は、その工程は何故・どういう理解認識で行われいたのか?これは私の祖母の祖母が子供だった時代に祖母からボソボソ聞いた話である。


 この世界を創ったのは神様である、神様は万物の創造主だ。そして神様は天使と悪魔もお造りになった。

「天使は解るけど、なんで悪魔みたいなウジ虫ろくでなしを創ったの?」

「ホッホッホ…良い質問だね、それは失敗作を片付ける為さね。ゴミを放置したら世界はゴミだらけになっちゃうだろう?」

「へー、神様は自分の失敗を隠したいんだ。器ちっさ」

 バチーん!!

 祖母の祖母…確か、名前はソバージュだったか…は、祖母のえーっと…ババロアに思いッきりビンタされた。ババロアは熱狂的なパスタ信者であったから、神への冒涜は許せなかったのだ。…しかし、ソバージュも頑固だった。

「世界がゴミで溢れちゃうって、世界は無限に広いんじゃないの?無限に広げちゃえばいいじゃないか!」

「まったく!聖書の読み込みが足りないよ!…神は最初に天と地をお造りになったんだよ?小麦と卵と塩と水で生地を練ったんだ!あとから足すなんて事は出来ないさ」

「神…無能!」

 バチーん!!

「様をつけんかい!そばかす娘が!!」


 …さて、話を戻そう。


「悪魔は神の創造物を壊す事が出来る唯一の存在さ、人の死もそうだし…花が枯れるのも火山が爆発するのも悪魔の力なんだよ。強大な力を持った大悪魔は惑星さえ粉砕して塩と小麦に戻してしまうのさ…さて、あんたはこの“肉の瓶詰め”作りのぐつぐつ煮る理由が聞きたいんだったね?クックック」

 巨大な魔女鍋に並べに並べた瓶瓶瓶瓶…ごぷごぷと湧き出る泡で倒されないように鉄枠で固定された瓶の口から、血と茹で肉の香が立ち上る。

 ババロアは村一番の魔女であった、農家や猟師達から頼まれて運ばれてきた食料に「腐敗の魔法」をかける事を生業としている。そろそろ腰に来ていたため、孫娘を魔女に育てているというわけだ。

 …さて、細菌という概念が無い…天使とか悪魔とかを信仰する、自然科学程度の昔の人々が何故…加熱殺菌をしていたかといえば当然!

 

 カッ!

「腐敗の悪魔は常温が好きなんだよ!!」

「悪魔なのに!?」

 ソバージュは先週…地獄世界でマグマの海の孤島に住む悪魔の話を聞いたばかりだった。マグマ風呂を愛し、キャンプファイヤーの中に飛び込んで踊り狂う悪魔達、焼肉の肉が縮むのは炎属性の悪魔のつまみ食いだと聞いたばかりであった。

 ちなみに先月に聞いた冬の悪魔は流氷にのって世界を旅して、氷が解ける程暖かい国に行くとたまらず海に飛び込むほどの熱さ嫌いの冷え冷え好きだとも聞いていた…極端な種族だなとは思っていたが…

「まさか…常温好きもいたなんて…えーっと、腐敗の悪魔は常温好き…っと」

 カリカリ、口は悪いが根が真面目なソバージュはしっかりとメモを取り学習した。


「腐敗の悪魔はね、穏やかな春の季節から秋のお祭り当たりまでしか仕事をしないのさ」

「うーん、気持ちはわかる…なるほど、道理で冬には物が腐らないのか…」

「そして地下室に氷室作っておくと悪魔はよっぽどの事が無い限り入ってこない」

「なるほど…なるほど」

 カリカリ…ぐつぐつ…カリカリ…ぐつぐつ…カリカリ…ぐつぐつ


「じゃぁ、この糞面倒で怠い作業…儀式は?」

「腐敗の悪魔はアツアツに手が出せないのさ、だからこうして食材を加熱処理するとまとわりついていた悪魔が離れる…そして悪魔がいないうちに瓶に蓋をしてしまえばソーグッド!…さて…そろそろいいかね!火を止めるから蓋をするよ!!」

「ぐぅう…ちょっとまってノートここだけ取らせて…」

「職人の技習うのにノート取ってんじゃぁないよ!ホラホラホラホラ!!」

「っちぃい…魔女って職人だったのかよ!?」


……

…………


「…と、いうのが過熱処理の理由だったらしいわ、でも面白いのが悪魔の名前なの。」

「腐敗の悪魔の名前?クサ―ルとか?」

 私、缶詰工場を経営する44歳 封魔ツギコは娘にご先祖様の話をしていた。

 興味しんしんの娘、よしよし…将来はこの子にこの工場を引き継ぐ事が出来そうだ。

「腐敗の悪魔の名前はサイキーン…偶然の一致なのかしらね…フフ、あまりの偶然っぷりに私もパスタ神を信じそうになっちゃうわ」

「うわぁ~!」

 3年後、高校を卒業した娘は大学で歴史と宗教を研究し…街の宗教家と結婚を果たした。

 缶詰工場は約20年後にひっそりと潰れた。


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