表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/76

蜂蜜スパイダー

 バリバリムシャムシャ…下品な食べ方をするカマキリを尻目に、クモは優雅に獲物の体液を啜る。

 ジュルル…こってりと苦甘いディナーを腹に満たしてから、彼はコオロギのミイラをカマキリに差し出した。

「喰うかい?」

「あぁん?てめぇーをこってやろうか?」

 やれやれ…良かれと思って、ほんの善意で言ったことなのに…これだからカマキリとは仲良く出来ない。八本あるうち4本の腕を上げて「すまない、悪気は無かったんだ」と首をふる。それでも尚、カマキリはキチキチと顎を開閉して鎌を舐める。

 最近この街ゴールドウッドに開いたレストラン=コオロギジュースを打ち合わせ場に決めたのはクモの方だ、当然カマキリもそれを踏まえている。蜘蛛の巣にノコノコと入ってきたのだ…相当な馬鹿か切れ者であるカマキリは決して威嚇以上の行動はしないだろう…それも踏まえてクモは彼の前で6本目の手まで上げて再度「すまない」と謝った。

 「さて、仕事の話をしようか?」


 ゴールドウッドでは「不殺の法」が定められている。この木に住む蟲達は野蛮な外の世界と違い、肉食昆虫達ですら普段は樹液を吸って不殺を貫いて生きている。もし…その禁を破ればどうなるか?…やめておこう、この小説を読んでいるレディやキッズには刺激が強すぎる。

 さてさて、この理想とも言える平和な木であるが…果たして本当はどうだろうか?勿論…理想だけで世界が成り立つ訳はない、光が有れば闇があるように…平和の裏には惨劇があるものだ。


「合法蜂蜜の毒に気付いた奴がいる、そいつを腹に収めて消し去って貰いたい。」


 そういってクモはカマキリに写真を渡した。美しい蝶の娘…カマキリは触覚を潜めた。

「簡単に言ってくれるぜ、こいつは結構な有名人だぜ?」

 予想通りカマキリは難色を示した、今回のターゲットはこの木一番のロックアイドルグループ…バタフライナイフズのボーカルだ。

「出来ないのか?」

「はん!…出来るさ!…ただ鱗粉だらけのデカ羽を食べるのが大変って話だぜ!!」

 カマキリは写真ばヒラリと投げると、音速の鎌で微塵の塵へと換えてしまった…流石だ。

 ピタリ、巨大な鎌をクモの目前で止めてカマキリは睨む。

「っで、報酬は?」

「蜂蜜ビール5樽でどうだ?」

「…10だな、樽はバッタの腹がいいぜ!」


 不殺の木において、肉食昆虫が食事にありつくには条件がある。即ち、既に死んだ昆虫なら食べて良いとされているのだ。

ここコオロギジュースもそういった昆虫を仕入れて売っている。クモはその死体流通を牛耳る顔役であった。


「あぁ、学生バッタ達の卒業シーズンだ。祝いに蜂蜜を贈るとしようか。」

「クックック…楽しみだぜ!」


 合法蜂蜜…葉と樹液が主食たるこの街において、外から入ってくる最高のごちそうだ。基本ミツバチからカブト王族へ流れる品だが、庶民が手を出すのは裏で流通する混ぜ物だ。そこにクモは目をつけ新しい商売を始めた。

 元々が素材となる花の種類、季節や土地で味が変化する蜂蜜…そこに樹液や雨水でごまかしたような裏物ならば多少の「毒物」が混ざってもバレやしない。最初は小細工なし…庶民的な値段で流通を助けたクモだったが、町中の昆虫が蜂蜜依存になった所で「トリカブトの花粉」や「毒キノコの胞子」を混ぜた蜂蜜を流し…若者の中毒死を増やしたのだ。

 自然死では体中の栄養を使い果たし、カラカラになった死体しか流れてこなかった肉食市場が…蜘蛛の蜂蜜のお陰で若く太った肉で溢れかえった。

 当然調査も入り、そもそもカブト王族を通さない裏物の禁止と厳罰化の話も出たが…デモに次ぐデモ、ストライキに次ぐストライキ!ハッハハッハ!蜘蛛は笑いが止まらなかった!一度蜂蜜の甘さを知った昆虫達は…それが危険と分かっていても辞められない!愚かな事だ!…ックックック…獲物が…食べられる為に声を上げている!


「ん?これ…蜂蜜じゃなくない?」

 木外から来たアイドルの蝶が、料理番組で気付いてしまった。樹液を主食とする住民達と違い、彼女達は蜂蜜を主食として生きて来たのだ…なんという…なんという事だろう。

「可哀そうだが死んでもらうより無いだろう…蜂蜜で幸せに死なせられないのは哀れな物だが…」


……

「蜘蛛の旦那!カマキリが失敗しました!!」

「何!?」


衝撃のニュース!速報!

<アイドルを襲う悪漢を返り討ちにした美しきヒーロー>

 昨日未明、超ロックアイドル・バタフライナイフスが舞台の帰り道、木の葉裏三葉脈でカマキリの悪漢に襲われました!しかし…バタフライナイフスの専属SP花かまきりさんが返り討ちにして頭からバリバリと食べてしまいました!


 テレビには放送事故な映像が流れている…頭を食べられても尚動き続けるカマキリの手足は一生忘れる事は出来まい…、アイドルの蝶達は慣れた様子で、本国から持参したという本場の蜂蜜ドリンクを飲みながらインタビューにニコヤカに応えている。

「私達の花の国では“不殺の掟”っていうのがあるんですよ~、やっぱ外国は治安が悪いんですね」

 どうやら花の国では正当防衛でなら殺して食べて良い方があるらしい、こわ!

…でも…え?外国の法はどうなの?これ?

 カブト王族の次男はアイドルのファンだったため彼女らを擁護し、今回は厳罰には処さないで我が国の法も花の国の法を見習うべきだと裁判の席で意見を言った。法に厳格な長男が、今後の事はわからないとしつつも現法を軽視する事は出来ないと花カマキリの処罰を決定した……が、デモに次ぐデモ、ストライキに次ぐストライキで結局民衆の総意で花かまきりの無罪と法の改正が決まったのだ。


 蜘蛛はこの事件で反省し、普通に蜂蜜を食べてみた。美味しかった…うん、カマキリよ…君の死は忘れないよ。

 そして結局、蜂蜜の値が安く安定すれば食べすぎデブ…蜂蜜デブは増え続け、時代の情勢で蜂蜜の価格が高騰すれば…それはそれでイザコザと正当防衛での死者も出るわけで…毒など混ぜずとも肉食市場は賑わったという。


 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ