血税裁判は悠久の時を刻むのだ
むかしむかしある所に、それはそれは優れた領主様がおりました。容姿端麗、聡明賢人、才色兼備でおちゃめさん…人の100倍の人生経験を持つ吸血鬼の彼はそれはそれは素晴らしい政治を行い…民からの信頼も抜群でした。
…しかし、所詮は血に飢えた夜の怪物!!彼…サカナール王ウッドキル3世は民から毎月血税をとっていたのです!!
チウチウチウ(味見)
「ん~!アルデンテ!じーや…今晩はこの血を使ったブラッドミートパスタがよいな!」
「畏まりました、わたしはサバの味噌煮の気分なので明日の朝食に手配致します。」
「逆じゃね!?」
さて、毎月の血税を取られたとしても民に不満はありませんでした。「余は不健康な血など要らぬ!民よ…!よく働き、よく食べ、よく休めよ!」の王の方針により、労働法、衛生法…更には医療や生活保護まで完備されたユートピア!誰が不満など漏らしましょう…不満をいうのはいつも余所者、しいて言うならば他国から来た魔術師、魔導士と呼ばれる者達はいささか眉を潜めていました。
曰く、「血」とは生命その物にして「魂の欠片」、名や爪、髪でも様々な儀式、呪いに使う事が出来るが血は至上の呪いの素となる。
要約すると「血は呪いをかける時に使えちゃうんで、それを毎月差し出すのはリスクだよ」とのアドバイスですが、奥さん!我らが偉大なるウッドキル様が…そんな恐ろしい事をすると思いますか?寝坊すればメイドに蹴られ、日中は日傘をさして黒布ミイラみたいな恰好で市中を回り…工場や市場の視察、子供達への挨拶運動まで参加するウッディが「呪い」?いや~ないない…
【始まりと終焉を繋げし獣よ!8番目の血の大蛇!今宵…生と死を繋げ不生不死を成しえよ!】
【天の星を喰らう11番目の蛇の王よ!沈む月を飲み登る朝を喰らえ!】
『2匹の獣の牙、ここに交わり…禁忌の詩が鼓動と時を永久に止める!あぁ…血を捧げし我らに罰を!』
“アンデス”
…美しい月が赤く色づき、そして掻き消えてしまった夜に…王国の人々の鼓動は止まったのです。ナイフで刺されたような痛みが胸を突き抜け…つま先から背中を悪寒が駆け抜けてから、まだ手足に残る生の余熱が…アンデットとなった人々に、体内の血液が沸騰したような地獄の感覚を与えました。そして翌朝!
「おとうさーん!二重魔法出来たよ!!」
「すご~い!ライラちゃんは天才だなぁ~!」
ウッドキル王は愛娘ライラちゃんの報告に、目頭と胸を熱くしました。贔屓目抜きにしても…異なる二つの詠唱を重ねて一つの奇跡を起こす「二重魔法」は料理で言えばフグの毒取り、剣術で言えば真剣白刃取りレベルの大技です。齢7歳で出来ちゃうなんて家の子はなんて天才なんでしょうか!?
「フフフ~この大魔導士め!どんな魔法を合わせたの?」
「え~っとね、不正不死とね…時止めとね…
…
…ズカカカカカカ、バターン!!
朝の7時とは思えないテンションで食堂の扉がMAXに開かれた!そしてそこには…血走った眼のじーやが立っており…
「今朝のメニューはぁああ!ブラッドゥ・ミーツ・パスタぁああああああああああ!!」
◇ ◆ ◇ ◆
じーやの様子がおかしい、いくらブラッド料理を所望しても…頑なに青魚料理を用意してくるじーやが…、そも、朝はコーヒーとバナナ派のじーやがもぐもぐもぐもぐブラッドパスタを平らげている!そして腰…いつもは90度に曲がっていた腰がしゃんと伸びており…いつもは落ち着いたテンションのしゃべり口調が元気過ぎて全言叫んでる感じのテンションなのだ。
「ゲップ…王様ぁあ!そう言えば警察と魔術師組合がきてますよ!!玄関!!」
「警察!?なんで!?」
こうして、王様は国中の事態を把握する事になりました。すなわち…国民の突然のアンデット化!
・塩崎キョウスケ(29歳)
・坂砂ジン(11歳)
・十文字カイト(71歳)
・知愛スズヨ(37歳)
・ガーリー=オニオーン(53歳)
「…被害者はこちらの5名です。全員先週水曜日、午後14時に血税を行ったという共通点があり…魔術師組合に相談した所、血を使用した禁呪が使用された可能性有との事です。」
「あばばばばばば」
「ハッハッハ!そう言えば私もその日時に採血しましたな!黒ですな!」
やってしまった、どう考えてもライラちゃんが冷蔵庫に入ってた血を使って魔術の練習をしてやっちまったとしか思えない…あばばば
「み…認めます…あばばば、私が…わ…私がやりました…」
「?お父さんどうしたの?」
「あばばばばばば」
こうして、王様は娘の罪をかぶり裁判を受ける事になったのです。
結果を言えば5人の…じーやを含めて6人の内5人とはほぼ無条件で和解、1人とはどうしてもうまくゆかず王は退職をする事となりその退職金を彼に支払う事になりました。
・ジーヤ=オイボレン(113歳)
「いや~、訴えるなどありませんよ!ハハハハ!腰も尚ってハッスルハッスルです!」
・塩崎キョウスケ(29歳)
「ラーメンにニンニクが入れられなくなったんだぞ!?絶対許す物か!!」
・坂砂ジン(11歳)
「ライラちゃんちゅき/////」
・十文字カイト(71歳)
「ッフ…まだまだ修行ができるわい」
・知愛スズヨ(37歳)
「子供が産めなくなったじゃない!!どうしてくれん…え?普通に産めるの?あら~娘さんライラちゃん?可愛いわね~…え?王様の親類で婚活してる人がいる?あら~…おホホホ、じゃぁ…
よいです事よ!!」
・ガーリー=オニオーン(53歳)
「え?お城で雇ってくれるんですか!?」
…
……
…………果たして、時の止まった彼らに幸せの明日は来るのでしょうか?不老不死にも一長一短、故にこの一大事件が幸いだったか不幸だったか…それが解るのは先のお話、むかしむかしのお話ですが…今も彼らは時々集まり、元王様へ謝罪と賠償を求めてみたり、逆に感謝と敬愛を捧げてみたりとしているそうです。
血税により起こった事件、この裁判は悠久の時の中続いて行きます…しかし、あぁ今はひとまず「めでたし、めでたし」
完