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VSおっぱい拳3~愛と怒りのでんぶ~


「ククク、次の相手はお前かよ…デカブツ!」

「一度も勝てて無いのに、随分上からだな」


時は大正

場所は静畑の河原沿い

男と女が夫婦になって、かれこれ一年が過ぎた頃


続く昼間が無いように

必ず夜はやってくる。

一回りした季節と共に、再び悪夢はやってきた。



静畑一の嫌われ者

それは人間からに留まらず

同じ河童族からも嫌われた。


醜悪な変態河童だった。



「ひぃい また来たわ!きっも!貴方なんとかして!」

「えぇ…前確かにミンチにしたのに…きめぇな!」


河童は尻を、尻子玉を愛し

人里に降りては

尻をだせー

尻をだせー

と相手構わず襲い掛かった


田畑を荒らした

ゴミ捨て場を荒らした


「残飯でもキモかったけど、ミミズ食べてるの見て本当に吐きました」

里の人間が集まれば、河童のキモさ、異様さ

迷惑行為に不満が噴出

そうして旅の武道家に退治を頼み第一話「VSおっぱい拳」に繋がったわけじゃ

本当にキモイ

全裸だし



「…っへ、種族が違うんだわ、文化の違う相手に何言われようが知った事かよ!」

全方位から向けられる嫌悪のまなざしに

太々しくも変態河童は言い放つ!


そんな一言にもっとも怒りを感じたのは

人間ではなく。

くしくも…同じ種族の河童であった


「黙れ外道が!お前は…河童の道からも外れた外道だ!」


彼は…マッスル河童、いや違う。里に下り人の娘と夫婦となった

ハゲゴウラ シリヅキ(覇外甲羅 知月)その人だった。


彼は河童でありながら人里で人々の田畑を手伝い、山の恵みがあれば人々と交換しにやってきた。

その交換、代金の受け取りさえも…

相手が貧しいとみれば受け取らなかった。

「ハハハ…相撲の相手でもしてくれねぇか?」

里の者で、彼を河童と嫌悪する者は居ない。

ハゲさん!ハゲさん!

彼は友愛を込めそう呼ばれた。

全裸だったが、そんな事を気にする者はもはや居なかった。



「フン…、山を下りて、人間と暮らすお前が外道よばわりかよ。反吐が出るぜ!」



時は昼過ぎ

畑仕事の手を止め

人々は弁当片手に河原に集まってきた。

オーディエンスの熱い視線

嫌悪と愛情、不安と期待に河原は包まれ

いよいよ二人は…戦いを始める!



…スファッ…(フォンフォン


流れるように

変態河童は構える…、足は内股で腰を落とし…

諸手(もろて:両手拳)はほんのりと前に突き出す。

その際掌は相手に向けて、球体をつかむイメージで優しく丸める。


瞳はそっと閉じられ…突き出された唇から、長い舌がチロチロと出入りした。


「あれが“おっぱい拳!”見て!あの諸手…おっぱいを揉みしだく形をしている!」

「いやー、お嬢すっごい詳しくなったな」


元武道家の娘が河童と共に暮らせば

おのずとその拳法に詳しくなった、武とは元々は家に伝わる一子相伝

全国行脚の武者修行をしていた娘ならば、一年とたたず武の神髄を盗んだ事だろう


「お嬢…頼むから、その技使わないでくれよ…親友として、頼む」

「何を言ってるの!今は戦いの時!…目を離さないで!動くわ!貴方!」


ザッ…!


対する男は、大きく足を開き…、相撲の四股のような体勢になった…!

やや前かがみ体を倒し、両手はすっと…何かを救い上げるように前に出す…違う!


「アレは…!でんぶ!」

「で…でで…臀部!?」

※臀部…お尻の事


確かに…

言われてみればあの体勢に、あの手は…お尻をなぜるような形に見える!

そして今気が付いたが…、両手はゆらゆら、すりすりと…尻を撫ぜるように円を描いて揺れている!


「来いよ…お前に引導を渡してやる!」

「で…デカブツ!その技は…!?何が外道だ!お前の方がよっぽどの外道じゃねぇか!」


臀部…否

「田武」


田畑を荒らす河童を退治すべく、遥か昔の農民達が編み出した

対 河童族、最悪の技!

河童として…決して手を出してはいけない禁断の技を!同胞たる河童が使おうとしている!


怒り!


「許せねぇ!デカブツ!…お前はもはや同族じゃねぇ!身も心も人に落ちぶれたな!」


「…種族なんてどうでもいい、俺はあいつと結ばれた。それだけで十分!」

「あ…あなた…私もよ。あなたと共に歩めるなら、わたしだって…人を辞めたって後悔しない!」

ほろり


このやり取りにギャラリーは感動しながら弁当を掻き込む

お茶を飲みつつ口笛を吹き

仕事の愚痴を言いながら手を叩いた


「…いや、感動的な会話してるけど絵づらが酷すぎだろ…」

一人冷静な娘の親友はめまいを感じた。


また自分が出て、変態をミンチに潰して終わろうか…

そう…思った刹那に


………動いたのは河童だった!

トっ


軽やかに飛び出し

胸を揉みしだく形の腕を

胸が無い男に突き出した!

相手が女なら効果はあるが…果たして男にはどう効くのか!?


「死ね!裏切り者!」


ズッ!

山が動くように…!

相対するハゲさんの…大きな体躯が前へ踏み出した!


それは巨木が倒れるイメージにも似て

しかし洗練された足運びと

流れるような手運びによって


地を這う激流の動きに変わる!


上から下へと押さえつける、重の力を…

脱力した膝を起点に回転させ…

地を這い、天に巻き上げる力へと変えた!


河童の諸手と、ハゲさんの諸手がぶつかった刹那

河童は天へと救い上げられ…


「胸だ尻だと下らない、だれかれ構わず尻を要求する貴様に、おっぱい拳なぞ納める貴様に…解るはずも無い事だがな」


圧倒的な力で、空へと飛ばされた河童の足を

ハゲさんの諸手がそのまま掴んだ!


空中の河童には成すすべが無い!

走馬灯のようにゆっくり流れる世界の中…

河童はハゲの言葉を聞いた。


「俺は尻は好きだが…愛する妻の尻だけで十分だ!」


巻き上げる力が反転し!

自然のままに!ハゲの体躯は前へと倒れる!否否否!


その逞しい巨躯の重みだけでなく!

全身のしなやかな筋肉のバネでもって、阿修羅のような無慈悲な力で!

河童を地面に叩きつける!



「…貴方!!」

「…待たせたな、さぁ畑に戻ろうか!」



寄り添い

尻を撫ぜながら立ち去る夫婦を

村人たちは拍手で送った


「んだば!そろそろ俺らも仕事に戻るか!」




時は大正

場所は静畑の河原沿い


三度目の敗北をきっした変態ガッパも

さすがにその後は出なくなった。


めでたし、めでたし


「いやぁ…親友がどんどん先に行くな」

人前で平然と尻を撫ぜられ立ち去る親友を遠目に

獣じみた瞳の娘は危機感を覚えた。


(私もいい人探さないとなぁ…)


END


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