宝箱から嫁が出た!
冒険者ムッツリ―は25歳の健康すぎる男だった、汗だくで働き夜は軽く飲んで安宿で眠る日々の中…深刻な欲求不満に毎夜悩んだ。
卑猥なお店に行く事も考えたが多くの冒険者達が女遊びに溺れ身を持ち崩す様を見て来たのでムッツリ―はその選択を避けに避け…カバンから手あかだらけのエロ本を取り出して毎日を過ごした。
「俺はこんな生活から抜け出して、ちゃんと彼女作っていちゃこらするんだ…ウッ!」
ムッツリ―は真面目だ、実家の稼業は長男と次男が継いだがために8男である彼は家を飛び出して一時しのぎのつもりで冒険者=底辺日雇い職についている。
こんな仕事だとそりゃ彼女が出来ないので欲望が溜まる、抜け出す為には転職しか無い、そして転職には金がいる…あぁ!そうだ…くそう…やるぞ…やるぞぉおおおおおお!
「マスター…稼げる仕事は無いかい?」
「いやお前、今夜なんだけど。」
すっきりした賢者ムッツリ―はやる気に満ちていた、そして冒険者ギルドのマスターは店じまい後の一人酒盛りを邪魔されて不機嫌だ。
「稼ぎたいんだよマスター、そして彼女が欲しい…解るだろ?」
「うん…えっ?何…娘はやらんぞ?」
「そうか、その手があったか。」
「ねぇよ!お前らみたいな底辺に娘はやれん!」
やれやれ、欲求不満の男はカリカリして会話が成り立たない…
ムッツリ―はカバンから一冊の本を取り出してマスターに渡した。
“股旅ちん道中7巻~女魔王に一発編~”
「間違えた…こっちだ。」
“一攫千金アイテムリスト”
「頼むよマスター…俺一発当てて、彼女が欲しいんだ。」
「うーん…じゃぁ新しいダンジョンの情報やるから帰れよもう…」
翌朝張り出す予定だった新ダンジョンの情報をもらったお礼に、エロ本を貸し出してムッツリ―はギルドを出て…街を出て…そして滾る深夜のテンションのまま森を越え、荒野を越えて…そして!
新ダンジョン=盗賊王の隠れ家 地下6階
「見つけた!宝箱だ!ひゃふーーーー!」
盗賊だか山賊の屍が大事そうに抱えた宝箱、これは相当なお宝が期待できる!
「マスターありがとう!これで…これで冒険者辞めて彼女作ってうげへへへー!」
ガチャーーン
鍵も糞も無く簡単に開いた重厚な宝箱、子牛が入りそうな大きな大きな宝箱だ…深夜のテンションで一番ノリだったから見つけられたわけなのだが、あぁ…もっと台車とか馬車とか用意しておけば良かった、こいつは運び出すのが骨が折れ……
「ふぇ!?」
ムッツリ―の心配は、お宝を目の前にして吹き飛んだ。
…お宝には“足”が付いていた。
金縁に宝石が埋め込まれた大きな美しい宝箱、その内側は赤い布で裏打ちされていて…その赤に、真っ白な…美しい四肢をもつ少女が映える。
さらりとした細く長い、うっすらと金髪の入った髪…閉じた瞼、まつげは長く…ほっそりとした顔に美しい鼻と唇がちょこん。
若い…未成年か…大人か、中間の儚さと美しさを称えた少女は全裸で静かに横たわる…
「えっえっ!?」
体は硬直させたまま、目だけが泳ぎ…目の前の光景を隅々まで舐めるように観察し記憶する…しかし、脳みそは中々仕事をしない。
「…ん…」
「あっ!あっ…生きてる!?わっわわー!!」
お宝…否、少女が身じろぎしてムッツリ―の脳みそはようやく活動を再開し…無様で幼稚な反応をする。
(何か…何か服…あっマント…マント…あっ!)
その通りに動けたならば、ムッツリ―は紳士に成れたであろうが…所詮底辺童貞ヘタレむっつり男のムッツリ―…身じろぎした少女の露わになった二つの膨らみが視界に入ると、再び体と脳が硬直して見入ってしまう。
「あれ…ここは?パパ?」
「ふぇえええ!しまったぁああああああああ!」
鼻血を出しつつ血走った目でハァハァ少女のち〇びを見つめ続けるという、紳士と対局の対応をしてしまったムッツリ―は羞恥に脳が沸騰する。
「どうしたの?…パパ…?」
「えっあっ違うよ?ぼ…僕は冒険者で…えっあっ…そ…そうだ…マント!」
薄汚れたマントを渡し、ハッとしてリュックから水筒と非常食、そして男用のパンツやタオルを取り出して…きょとんとした少女の前に並べてゆく…
「パパ?」
「ち…違うよ、えーっと…ここはダンジョンででで、君を見つけて…はい…水と、えーっと名前は?」
ムッツリ―から受け取った水筒を抱え、少女はぽわーっとした風で辺りを見渡す…
盗賊の屍が転がる、松明に照らされた岩肌があるだけの不気味な部屋だ。
「うぅ…思い出せない、わたし…わたしは…えーっと、な…名前?わからない…うぅ…」
「む…無理しないでいいよ!とにかくちょっと休んだらここから出よう!ほら…タオルと…パンツも…」
そっと、少女はムッツリ―の顔を見て…華奢な手を伸ばし頬を触る。
「大変…パパ…じゃない人、血が出てるわ…」
「っあ」
少女に渡したタオルはムッツリ―の鼻血で赤く染まった。
「ありがとう…僕は、僕の名前はムッツリ―」
…
……
…………
今思い返すとおかしな話だ、ダンジョンで見つけた僕が…彼女を助けたはずの僕が、先にお礼を口にしたなんてね。
そんな話をすると彼女は顔を赤らめて「てへへ」と笑う。
「だって、寝起きで頭回ってなかったんですもの…それにアナタ血だらけで…フフ」
彼女=ムスメールは小さな手で唇を当てて笑い続ける、愛おしい…あぁマジ天使俺の嫁。
ダンジョンから彼女を助け出し、街に帰った俺は衛兵に止められて牢獄で3日過ごした後…冒険者ギルドで彼女と再会を果たした、そして記憶も身よりも無い彼女の出生を探る旅を続け…ついでに定職も手に入れた。
俺が行商の護衛をしてる間に商人の手伝いをしていた彼女が高く評価され、彼女はやがて本店で…会計の仕事をし、俺はついでに警備員となって旅は終わった。
「お前の記憶、見つけてやれなくて悪かったなぁ」
「フフフ、私を見つけてくれてありがとう…パパ」
今、彼女のお腹には子供がいて…俺は晴れてパパになった。
生まれてくる子供の為に物が増える、今度の休みは大掃除だ。
ぺらり
“一攫千金アイテムリスト”
冒険者が夢見る最高のお宝、嫁を見つけた俺にはもう要らない代物だ…勿体ないが捨ててしまおう。
アイテムリスト44番=死者を蘇らせる秘宝
子供が生まれる報告をしに、ムッツリ―は妻と出会ったダンジョンに向かう。
ダンジョンの外に作られた墓地に花を手向け…様々な思いを胸に頭を下げる。
「娘さんは…僕が幸せにしてみせます。」
E N D