表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/73

メザシ骨子と猫魔王


 君は「魔族」を知っているか?

頭に角を生やし、背中に蝙蝠の翼を持った大男だったり。

鋭い牙と長い舌を持った恐ろしい怪物だったりと…魔族には色々なイメージがあるだろう。

どれも間違いではない、いや…魔族に決まった姿の定義は無いのだ。

重要なのは高い知能と、魔力を使うか否か。


頭に角を生やした鬼魔族

牙をもった吸血魔族

狼魔族や大蛇魔族…喋る…事は出来ずとも、言葉を解する程度の知恵を持った獣も魔術を学び、低級魔法の一つも覚えてしまえば立派な「魔族」足りえるという事さ。


この定義から言えば…「骨子(ほねこ)」人間である君が魔族になる事は、案外簡単な事なんだよ?

だから、私は教えてあげよう…君が望むならばだ。

君を魔族にしてあげよう。


骨子(ほねこ)の前で、老人は石を取り出した。

魔力を貯めた石「魔鉱石」だ、魔力を吸収する性質があり、魔力に恵まれない人間という種族の魔法使いには欠かせないアイテム。


「人間は魔力に恵まれない、だから人間だ。しかし、人間は道具を使い欠点を補う事が出来る生き物だ」


「…………」(コクン


「君が魔法使い、魔族になるには“道具”を使いこなさないといけない、さぁ…石の声を聴くんだ」



……

…………

………………


思えば、あれが全ての始まりだった。

苦しい修行を経て「メザシ骨子(ほねこ)」は魔を秘めた道具を使いこなす“魔術師”つまる所“魔族”と至った。


この物語は 人魔族=メザシ骨子(ほねこ)と魔王の戦いの物語である!!





   ◆    ◇    ◆    ◇





「キャーっ!助けてぇ!猫魔族(ねこまぞく)よぉおお!」


「うにゃぁああああああん!」


 漁村に響く少女の悲鳴彼女はホウキを振り回しながら一匹の猫と戦っていた!

海沿いの土手に建てられた、小さな木造の掘っ立て小屋…その入り口繰り広げられる攻防!

出入り口ここを通せば、残り少ない売り物が奪われてしまう…

男衆が荒波の中魚を取って、女集が丘で加工をする…、この魚は父さんが死ぬ思いで獲った物だ!

母さんが死んでしまったから…ここを守るのは少女の細い腕二本だけ…猫なんか!


「うわーん!てい!てい!ててい!」


「うにゃにゃにゃにゃ♪」


 少女の華奢な腕で振るわれる箒など猫には届かない、猫は軽やかに身を捻り

躱し、飛び越え、潜り…手で顔を洗う余裕すらある!…遊んでいるのだ!

幼い身でありながら、家族の生活、その糧を守る少女の必死さと…欠伸混じりの猫!

悔しい!悔しい!悔しい!…あぁ…猫が身構えた…もう…抜かれる…!


ッド…ブオオオン!(ドン!!


「大丈夫かムスメール!ぬあぁああ猫めぇえ!せいや!」


「お父さん!!」


「うにゃにゃーーーん!」(シュバ


 死んだ妻が船上に現れて陸を指さしたのは今朝がたの事、父は娘の危機を察し…いつもより早く丘へと戻ってきていたのだ!


「うぉおおお!漁師棒術=波打ち!」


ダダダダダダ!

(シュタタタタタン!)


 鍛え抜かれた益荒男(ますらお)の双椀!放たれた(かい)!※漕ぐ時使うやつ

荒波さえ打ち砕くその連撃を…猫は残像を残す超高速のステップで躱す!


そうだ、猫はただの猫ではない…魔力と知恵を持った化け物


 猫魔族(ねこまぞく)



猫魔族の魔法が発動し、残像は実体となり…四方へと散る!

親子二人で防ぎきれるわけがない!ただの人の身で…魔族に叶うはずがない!


「も…もう駄目だぁああああああああああ!」

「うあぁああああああああん!」





閃光



光 波 魚(ソルトブロイリー)





 何が起こったのか、抱き合いうずくまった親子には解らなかった、猫魔族が二人を飛び越え、干物小屋に飛び込もうとした瞬間に世界は白く煌めき、そして静寂に包まれたのだ。


…ただその刹那、光の中に死んだ妻の姿が浮かんだ。

日が昇る前に海へ出る夫のために、朝食を作る妻の姿が…今日の朝飯は…塩焼きか…うぅ…



「うひゃひゃひゃひゃひゃ、チョロいもんだな猫魔族ぅうう」



 光に眩んだ眼が慣れ、親子が声の方に目を向けるとそこにはフードを被った少女がいた。

背丈は娘と同じぐらい…まだ子供か?14歳前後の女の子だ。

病的に白い顔以外、一切の肌を隠した紺色のマント、襟元から出た白い猫の首の…作り物?

漁村の人間でも、商人とも違う服装…魔術師(魔術師)かもしれない…青い髪の間に覗く…鋭い金色の瞳が印象的だ。


「おいおっさん!お礼は干物一年分でいいぜぇええ!?あびっ!」


 気のせいだろうか、今首元の猫がしゃべった気がする。

うぅ…やはりフリーの魔術師、傭兵みたいな奴らだ…巻き上げられてしまうと生活が…くぅ…

こんな小さな女の子でも、稼業が稼業だ…口調が悪い…コワイ


「わ…わりぃ、冗談だぜ!おっちゃん!気にするなよ!困った時はお互い様だ!」


 ……私達のみすぼらしい格好を見て、遠慮してくれたみたいだ。案外いい子…コホン、良い人なのかもしれない。

ホッとし棒立ちの私と目を合わせず、少女は頬を掻きながら、気絶した猫魔族を拾い上げ麻袋に詰めた。

退治した犯罪魔族は役所に届けるとお金に換えてくれるのだ。

今回の報酬はそれだけで良しとしてくれるのだろう…うぅいい子だ。あ、お礼を忘れていた!助けてもらって礼も言わずジロジロ観察など、大人として、娘の前で恥ずかしい


「ありがとう!おねーちゃん!」


娘えらい!うん、お父さん恥ずかしい!そして誇らしい!


「フッ、困ったらまた呼んでくんなお嬢ちゃん!オレの名前はメザシ骨子(ほねこ)!やがて魔王すら超える魔法少女だぜ!」


 少女はそう言うと顔を赤らめ猫の髭を引っ張りはじめた。かなり可愛い。

猫はよく出来てるけどやっぱ作り物のようだ。うん、そこそこ可愛い。


「本当にありがとう、魔法少女…?メザシさん、お礼に飯でも食っていかないかい?村一番の自慢の干物なんだ」


やっとお礼が言えた。一年分は無理だが一日分ぐらいはご馳走させて頂きたい。



「…いや、いいぜ…っ…え?むむ…腹減ってるのか、……っふ、ありがたい!是非とも味合わせて頂こう!!」


口調とは裏腹に顔を赤らめ、涙目な少女がお腹と首猫を抑えながらプルプルと震えていた。





   ◆    ◇    ◆    ◇





骨子さん…本人がそう呼んで欲しいとの事だったのだが…


 骨子さんは泣きながらドンブリ飯三杯を平らげ

 号泣しながらお風呂に入り

 啜り泣きながら布団にもぐり

 今は悪夢にうなされながら眠っている。


 娘は骨子さんによくなつき、一緒に布団に入っている。微笑ましい。

妻に先立たれ男で一つで育ててきた、寂しい思いもさせてきたのだ。うぅ…

見た目は娘と同じぐらいに見えるが、魔術師の年齢は見た目と比例しない、骨子さんが16歳を超えていたら土下座して母親になって貰いたいぐらいだ。ご飯で感動してたしワンチャンある。

…っウ、誰かに睨まれた気がするので馬鹿な妄想は止めておくか。


 さて

 骨子さんは何者なのか、本人は魔法少女を名乗っているがかなり怪しいのは間違いない。

ここ、人間の国サカナールは魔法とは縁が無い国なのだ、わずかに使えるような天才エリートは王宮に仕え研究に従事する、もしくは爵位を賜って前線にいる。…あとは傭兵だ。

前線でも無いし…こんな片田舎の漁村をうろつく事などあるのだろうか?

突然現れた猫魔族達と何か関係はあるのかもしれない。


「むにゃむにゃ…おしゃかにゃ…3日ぶり…ごはん…むにゃむにゃ…」


…案外師匠から逸れた迷子だったりするかも。修行が厳しくて逃げだしたとか。


「彼女の寝顔を見ていると、色々考えてしまな」


「気持ちわるいぜおっさん」


「ヒぃ!起きてた!ゴメンさない!」


 骨子さんは食事の時も寝る時もマントとフードを取らなかった、お風呂の時はどうかというと

結界が張られていて覗けなかったし…いや、違うぞ、変態じゃないんだ。

なんか風呂場から号泣してる声聞こえてびっくりしたんだよ、うん。


「………」


ッヒェ、またなんか睨まれてる気がする。次だ


最後に一番理解出来なかったのが捉えた猫魔人に干物を与えた事、害獣に餌を与えるか?しかもそのあと開放し、やたらと懐かれて…今、猫魔人は骨子さんと娘に挟まて寝ている。

…少し憎らしい。


ともかく、明日起きたら話をしてみよう…うん

詮索は良くないが色々気になる、とりあえず年が16以上なら良いのだが…



こうして

貧しい漁師の親子の元で

魔法少女骨子は束の間の安らぎを得た。


…これが、人間の国での最後の晩餐になろうとは

この時骨子は考えても居なかった事だろう…。



zzzzz


「…おやすみ骨子…」


胸元の猫が小さく呟く




   ◆    ◇    ◆    ◇




猫魔王(ねこまおおう)

「…どうだ、ホネコの場所は分かったか?」


部下猫

「ハッ!サカナール王国の漁村で部下が一匹連絡が取れなくなりました!」


猫魔王(ねこまおおう)

「またか…、今度は迷子とかじゃないだろうな」


部下猫

「それは解りません、ネズミ捕りに引っかかるケースもございますし」


猫魔王(ねこまおおう)

「うぅぅん、ホネコに早く会いたいんだが」


部下猫

「ッハ!お魚食べたい!」


猫魔王(ねこまおおう)

「………もう自分で行こうかなぁ」




   ◆    ◇    ◆    ◇



……


 チュンチュン


 骨子さんは朝起きると顔を洗い、目を爛々に輝かせて、俺の作った朝飯を待っている。

フハハ、いける。なんだか視線と殺気を感じるが気にしない卵を奮発しよう、女を落とすにはまず胃袋からだ。


「どうだいホネコさん!俺の朝飯は絶品だろ?毎日みそ汁飲みたくないかい?」


「うん、飲みたいけどキモイぜおっさん」


……終わった、短い夢だった。


「お父さん!卵入りおいしいね!毎日飲みたい!」


ハハハ、やはり娘は可愛い。俺は十分幸せだぜ!…俺は浮ついた自分を恥、みそ汁を飲んだ、しょっぱい。


「ところでおっさん!この辺に魔道具屋はあるかい?」


骨子さんは魔法少女、魔法使いだ、何か探している道具でもあるのだろうか。


「いやぁ、無いな、田舎だし」


「…そうか、ありがとな! ごちそうさん!うまかったぜ!んじゃ!」


骨子さんは頷き、荷物をまとめた。…まぁ荷物と言ってもお弁当と水筒ぐらいだが、足元の猫魔人がお礼の干物を入れた袋を背負っていてる。


「おねぇちゃん…行っちゃうんだ…うぅ」


娘よ、すまない…新しいお母さんは必ず見つけるからな!



……

…………

………………

トコトコ



 海沿いの道を北へ進み、途中見えた山へ進路を変える。山が近づくと道は細く荒れた物にかわり…山の麓に広がる森から魔力を感じる。


(…おいしかったなぁ)


「あぁ、旨かったな!ホネコ!」



骨子は首元の猫を撫でる。作り物の白猫の首だ、猫の頭を撫で、喉を擽ると

「グゥルフフッフ」と猫が笑った。


そんな彼女にトテトテと付いてゆく猫魔人



 小さな丘を越え、いよいよ森へと入るという所で骨子は歩みを止め後ろを付いてきた猫魔人に声をかけた。


「この森でいいんだな?」


猫魔人は頷き、昨日から一番の真面目な顔で答えた。


「ハイ、骨子様、猫魔王様がこの森の奥でお待ちです。」


(…フゥ)

「…長かったな」


 本当に長かった、骨子はフードを取り猫耳を外に出した、マントを緩め、認識阻害の魔法を解除する。

そして現れたのは長いしっぽと、猫のしなやかな足…久々に人の町に入って、誰にもばれないで本当によかった。

低位とはいえ発動をし続けた魔法を解くと…肩こりが治ったように体が軽い。


「噂通りお美しいお姿です」


猫魔人の言葉を無視し、骨子は続いて魔法の詠唱に入る。

少し休みたいがそんな暇はないのだ!探し続けた“怨敵”がこの先に居る!

軽くなった体に再びピンと力を籠める!

足をやや広げ、手を指揮者のように空に滑らせ…尻尾はゆったりと左右に揺らす。

感じるのだ…魔力を!



 空と大地と、時の狭間よ

 陽炎のように揺らぎ、僅かにズレよ

 鍵の名は骨=求めるは|魔魚«まぎょ»


(来たれ魔槍<魔々(まんま)>)


音もなく、風が吹き抜け

ホネコの右手にはそれが握られていた。

身の丈ほどの巨大な魚骨、魔石で作られた造形品はずっしりと重く、暖かい。


“レンジツ トハナ、ミツケタノカ?”


喋る魚の骨にホネコは頷き答える


「あぁ、久しぶりだな、マンマ!いよいよ最終決戦だぜ!」


 魚型の槍と首元の猫が会話を始め、その会話と重なるように骨子の詠唱は続いてゆく

槍の名は「マンマ」、猫の名前は「オカシラ」という。

骨子は魔道具と会話をし命を与える魔術師なのである。


ちなみにオカシラは骨子の代わりに発声を任されているのだが…何故って?

ホネコは赤面症で上がり症、ついでにかなりのコミュ症なのだよ。

呪文やなんかは小声でボソボソ自分で呟く。


(我願うは裁きの炎、罪人の名は魔王、我が怒りを糧に魔魚に宿れ)


“…クハハッ!キタキタ ツギハマルヤキダナ ジョウチャン!!”


「ククク、魔王の丸焼きだぜ!」


(ごめんなさい魔王様、干物につられました)


 進む詠唱と呼応し、骨子の瞳が金色に輝く、大気は彼女を中心に緩やかに渦巻き、緋色に染まりながらマンマに宿る


骨だけだったマンマに緋色の魔力が纏わり、肉付き…巨大な古代魚が姿を現す。

これが魔鉱石で作られた槍=マンマの力!与えられた力で敵を追い貫く…必中の魔槍!



ゴォゥォウォオオオ


“ハヤクゥウウ!ハヤククワセテクレェエエエ!!”


「ククク、久々にいくかぁああ!」


(マジでゴメン魔王様)


火力と共にテンションが上がり!マンマとオカシラは身構える!

必殺技は叫ばないとな!俺たちの主は解っちゃいない!



(さぁ罪人よ、頭をたれよ!刃の前に首を曝せ!)


“ウォオオ…ミエル…ミエルゾオオ!!オレノエモノガァアアア!!”


「ククク、猫魔王よ!貴様の命運はここまでだ!…必殺!!ホーミング焼き魚!」



……

…………

……………………


(  「  “ウェルダン・シャーク!!!”  」  )






ッカ!


閃光だった

光が落ち着き見えるのは…森の中央へ向かう…焼き払われた新たな小道



「行こぜ骨子!俺たちの旅の終点へ!」


(うん!!)


溢れる涙そのままに…、二人は灰の小道を進む…

その後ろで猫魔族も泣いていた。


(猫魔王様まじゴメン)





   ◆    ◇    ◆    ◇





 いっこうに骨子を見つけ出さない部下に辟易し、猫魔王は自ら人間の国を目指していた。

南へ南へ人の使う道を避け、森の中を進んでいく。

昔人間の国に忍び込んだ時使った、懐かしい道だ。

猫魔王は猫魔族の中でも多彩でありとあらゆる魔法が使える二足歩行の服を着た猫だ。

ハンカチで汗を拭いながら…なかなか再開できない骨子を思う。


 彼女と出会ったのは人間に化けて王都に潜伏していた時、魚屋の前で立ちづける彼女を見つけたのが最初だった。

その時は通りすぎたがその後肉屋の前で、果実やの前で、パン屋の前で佇む彼女を見かけた…いささか不憫に思ったが人間の世界にはホームレスという言葉があると聞くので気にしないように心掛けた。

人間の国の最も見習うべき物の一つに「通貨」と「経済」があると思っていたし、そういった他種族の文化を学ぶための潜入だったので、その闇を目にしたと納得したのだ。


 しかし次の日の夕方、ゴミ捨て場で野良猫と戦う彼女を見て思わず声をかけてしまった。

気が付くと声をかけていて、自分の宿に彼女を招いていた。


「うぅ…うぅ…」


 彼女は泣きながら飯を掻き込み

 号泣しながら湯船に浸かり

 啜り泣きながら布団にもぐった



「…彼女はあれからまともな生活をおくれて居るだろうか」


 今も目を閉じれば浮かぶ、彼女の笑顔…あの笑顔を思い出せば、今でも猫魔王の胸の奥は熱く…



ッカ!(閃光


「あっつぅうううううううううううううううううううううううううう!」


挿絵(By みてみん)



 あっれぇええ?

 どうしたのオレ?

 熱すぎじゃね?彼女の笑顔熱すぎじゃね?

 これ恋してない?

 恋焦がれてない?

 種族なんて超えてやっぱ愛じゃない?

 国籍も身分も無くやっぱ愛じゃない?



「ホネコォオオオオオオオオオオオオオ!」



“…チィ、ヤハリ マオウ…シブトイナ!”


たまたま隣にあった川にダイブして愛の炎を消すと、目の前に巨大な魚の骨が泳いでいた。

うーん、どこかで見た気がする。



「お前は!王都でホネコが買っていたマジックアイテム!」


“フン、オボエテテクレテ コウエイダゼ”


 忘れもしない、骨子はこの骨を買うために全財産を叩いてホームレスに身をやつしたという。いわばこいつのお陰で俺とホネコは出会えたのだ、ありがとう魚さん!」


「ありがとう魚さん!」


“……ッハァ!?”


「おーい!」


そうこうしていると、誰かが駆けつけてきたようだ!…誰か?違うだろぉおコレはぁああ!ワフュウウ!


ドキドキドキ


胸が高鳴る、これは愛する骨子との再会だ!


…ザザザッザッザ!


「大丈夫ですか魔王様!」


誰だよお前!…しまった、苦虫を噛み潰した顔をしてしまった。印象が悪くなる。

後ろにちゃんと骨子いるぅうううう!(キリッ!


「ぐぇえ、生きてやがるよ魔王」


“ヤベエゾ…コイツ、ヤカレタノニ オレイ イッテキタ”


(…コワ)


!!!!!!!

あぁホネコだ!ついに骨子に会えた!落ち着こう、服装は大丈夫かな、あれ?なんか俺服燃えてる?

ヒー!ハズカシイ!でも顔はキリっとしないと!


「魔王、久しぶりだな。」


おっ、首元の猫が喋ってる、そういえばこんなの付いてたなぁ。

なんだろう…眉間にしわよせて…うぅ、やっぱり服か…どうしよ…


「1年前、お前が骨子にかけた“呪い”解いてもらうぜ!?」


「…?」


呪いってなんだ?あれー?

なんかしたっけ俺?なんか酔ってベラベラ身分や機密を喋ってしまい。

禁則ワードを言ったために故郷に強制転移が発動して、慌てて彼女を探す活動を始めたのだが

…呪い?


「…呪い?」


「“しらばくれてんじゃねーぞ糞猫が!”」



骨魚と首猫が同時に叫ぶ!同時はうるさいので辞めてほしい

骨子は金色の目をキッと睨んで、けど涙目で可愛い。

うん、涙をぬぐいたい。


(…魔王様、魔王様、落ち着いて)


「どうしたんだ、平猫魔人」


(落ち着いて下さい!そしてゆっくり彼女の頭と足と、尻尾を見てください)


「尻尾?…何を言ってる、彼女は人間、尻尾などあるわ…っ!アンビリーバブルゥウ!」



美しい!



人間だったはずの彼女の頭に、あぁ、愛おしい猫耳がぁああ!

更にハァ…ハァ、なんて綺麗な足なんだ!

ウッヒャァー!スラっとした尻尾!堪らん!


「結婚してくださぃいいいいいいいいいいいいいいい!」



「魔王様落ち着いてぇえええ!」



その後、素で魚骨にカジられた、痛かった。

骨子にビンタされた、うれしかった。

首猫に唾を吐きかけられた、残念、骨子にして欲しかった。

なんだか部下のはずの猫魔人の目がとても痛かったが気にしない。



「ってーと、わざとじゃねーんだな」


「もちろんだ、彼女に呪いを掛けるなんてとんでもない!!猫耳良いけど!」


“オイ…モウイッカイ カミタイ”


「…止めておけ、こいつは痛みを快楽に換えるタイプの変態だ」


うーん、なんだか色々と誤解を受けているようだ


 誤解の元、「呪い」というのは私が彼女に渡したお菓子の事のようだ。

猫魔族が人間の国に紛れる時に飲む「人化」の薬と帰ったら飲む「猫化」の薬があるのだが、私は苦いのがダメなので、クッキーに練り込んで常備していた。


そういえば酔って彼女に喋ってる時、酒の摘みが無くて、そのクッキーを出したかもしれない。

…あぁ

彼女食べって猫化してしまったのね。悪い事した。

けど美しい、マジ女神


「…本当に悪い事をした、スマナイ」


「ったくよぉ、人間の国のど真ん中でこんなんなったホネコがどれだけ大変だったかだぜ!そりゃぁ大変な旅だったんだ!」


「…すまない」


想像するだけで胸が痛くなる…、人間の国のど真ん中で魔族の姿になったのだ。


「…お前の名前は解ったし、有名だったから探してたけどよ!猫魔国って遊牧なのな?もう駄目だと思ったぜ!」


「…すまない」


 俺が骨子を探し人間の国へ向かったのと入れ違いに、猫魔族の領地に彼女らは来ていたようだ…

もっとも、猫魔族はちょいちょい住処を変えるので領地の中にも一定の居住地が無いのだが…そうとう苦労させてしまった。


骨魚と首猫がしゃべり、俺が頭を下げ続ける中、当のホネコはうつむいたまま、何も語らなかった。

怒りに震えているのだろう、握られた拳はプルプルと震え…顔は真っ赤に燃え上がっている



「…すまない」


(…………)



彼女には本当に悪い事をした

彼女の仲間達から聞かされる、一年に及ぶ、隠れ、忍び、罪人の様に逃げる日々…魚屋の前で佇み、肉屋の前で佇み、パン屋の前で佇み

ゴミ捨て場で野良猫と残飯を漁る冒険譚は聞いているだけで胸が張り裂けそうだ。

あ、ネズミもトライしたんだ。カエルも?

女の子と思えない苛酷な日々…本当に申し訳ない…どうすれば…どうすれば償えるのだろう…


プルプルプル…

骨子は拳を震わせる

全身をカッカと燃え上がらせながら

猫魔王の言葉を考える


(…どうしよう、け…っけ…結婚とか、初めて言われたたた)


猫魔王が後悔の涙を流し

地に額をこすり付けてもなお…眼前の相手はますます震え、怒りに湯気を出すほどだ…

猫魔族の感覚では至上の美ではあるが…本当に惜しいが…

彼女の体を、あるべき姿に戻すのが…


(俺の出来る謝罪の第一歩か…よし!)


「ホネコさん」


「っふゃい!?」


深呼吸して、切り出す。

彼女を元に戻す人化の薬は手持ちに無い

一度国に帰らなければならないが、あまり待たせるのも忍びない。






「私と一緒に猫魔国へ来て頂けませんか?」





   ◆    ◇    ◆    ◇




…こうして、少女は魔族の妻となった。


初代=猫魔王と結ばれた人間「メザシ骨子」の伝承は歴史書には記されていない恋物語。

そんな馬鹿なという笑い話だ…


でもこれは真実なのだ。

我々猫魔族の間に受け継がれる秘宝「魔々(まんま)」と「御頭(おかしら)」が語るのだから…











挿絵(By みてみん)

初代猫魔王の妻 メザシ=ホネコ

魔法使いとか魔族とかカッコいいから目指して「魔道具使い」の才が発覚

魔道具マニアになり散財する…人と喋れないが道具や猫とはしゃべれる

わりとチョロい

旦那の死後、子供が育つまでの間、二代目猫魔王をつとめる。


挿絵(By みてみん)

初代猫魔王

自由気ままな種族を纏め巨大な集団を作り上げた人物

勤勉であり、人外や他の魔族の国から多くを学び

猫魔国の基盤を作り上げた。

魔力の扱いと薬学に優れる

骨子と結婚し子宝に恵まれたが、子供が10歳の時、小骨が喉にささりかえらぬ人となる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ