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エピローグ





 翌日。俺は女子寮に来ていた。実際入っていいのだろうか、などと考えなくも無かったのだが、別段疚しいことがあるわけでもないので、堂々と正面から入ってやった。エントランスで止められたが、相手の名前と用件と身分証明をしただけで、中に通してくれた。世の中堂々としていれば、結構何でもできるらしい。


 管理人との会話を終えた俺は、まっすぐ部屋へ行き、すぐさま呼び鈴を鳴らす。すると、


「はぁーい」


 あまり聞いたことのない、眠そうな返事が返ってきた。俺も、応答することにする。


「俺だ。中に入れろ」

「は?え?だ、誰ですって?」

「お・れ・だ」


 解っているだろう。面倒だから名乗らせるな。


「あ、あのー、もしかして、成瀬さんですか?違いますよねー?すみません、私寝ぼけているのかなー。えへへ」

「いいから早く開けろ!」

「は、はい!ただいま!」


 中から、どたばたと賑やかな音が聞こえてきたかと思うと、目の前のドアがゆっくり、小さく開いた。チェーンをつけていたままだったら、どうしてやろうかと思ったが、今回はそんな愚行を繰り返さなかったようだ。


「あの、本当に成瀬さんですか?」

「見れば解るだろう」

「なぜ、ここへ?」


 岩崎は五センチくらいドアを開け、その隙間から話しかけてくる。面倒だから、早く開けろ。


「理由は中で説明してやるから」

「いや、しかし……」


 俺はドアの隙間に手をかけた。


「あ、な、何するんですか!」

「うるさい。邪魔するぞ」

「ほ、本当にやめて下さい。人を呼びますよ!」


 おいおい、勘弁してくれよ。


「話があるんだよ。あんたも話すことがあるんじゃないのか?」

「…………」


 まだ何か悩んでいるらしい。俺はため息を一つついて、


「俺は話があるんだ」

「解りました。少し待っていて下さい。部屋を片付けてくるんで」


 二度と出てこない可能性もあったが、真剣な様子だったので、俺は手を離し、岩崎を見送った。




「……どうぞ」


 十分ほど待っただろうか。申し訳なさそうな岩崎が出てきて、俺を招き入れた。その申し訳ないという気持ちは、待たせたという事実ではなく、事件のほうが関係しているようだ。どうやらまだ引きずっているようだ。


 靴を脱いで、部屋に入った。間取りは1Kらしく、敷地は狭いが、なかなかいい部屋だった。


 俺は勝手に座布団の上に座ると、


「あんたも座れ。それとも、」

「あ、何ですか?」

「その寝起き丸出しの格好をどうにかするか?」

「え?あーーーーーーー!」


 やおら叫ぶと、岩崎は廊下の途中にある部屋へと消えていった。おそらくあの部屋が寝室なのだろう。




「いい加減にして下さい。女性の家に突然訪ねてくるなんて、モラルに反してますよ。本当に成瀬さんは女性の心が解っていません」


 着替えてくるなり、説教を食らった。解っているよ。ただ、連絡入れたらおそらく対応してもらえないんじゃないかと思ってな。それから、髪の毛は乱れたままだぞ。


「それで、あのう、」


 俺がここに来た理由を問いたいのだろう。話があるといったが、その内容は、


「何で部室に来なかった?」

「…………」


 昨日は日曜だった。だから俺たち三人は集まり、ついでに相馬優希も来ていたということだ。しかし、岩崎は来なかった。こいつが言い出した事なのだから、それなりにまともな言い訳があるのだろう。ま、だいたい察しはつくのだが。


「私はとんでもない過ちを犯してしまいました。みなさんに合わせる顔がありません」


 やはりな。というかそれしかないだろう。選択肢としては、中学の連中とよりを戻し、TCCには戻らない決心をした、という可能性もあったが。


「申し訳ない気持ちがあるなら、ちゃんと謝れ。それにTCCはあんたが作った団体だろう。あんたが管理しないで誰がするんだ」

「はい、すみませんでした」


 と、ここまでは一応やらねばならない事務的な作業だ。理解してはいると思うが、きちんとけじめをつけるためにやっただけなので、さほど重要ではない。


「新聞を見たが、」

「はい」

「自首した人間が何人かいたと書いてあったが、そこに吉村は入っているな」

「はい」

「あんたが説得したんだな?」

「説得はしましたが、最後は強制的に」


 相馬優希と同じ状況だったようだ。


 吉村のことは、前もって知っていた。昨日、村田たちに会ったことも理由の一つだが、終わったことにもかかわらず、二ノ宮兄が事件について熱心に調べて、俺に報告をくれた。麻生と同じように、自分が解決したとでも考えているのだろう。一種の自慢に近い行為かもしれない。


 答える岩崎の表情は、辛そうだった。仲間を売ったなどと考えているのかもしれない。もし、吉村本人がそう考えているとしたら、それは単なる逆恨みで、そんな戯言聞く必要などないのだが、こいつの耳はそううまく出来ていないだろう。


「成瀬さんのおかげです。あそこでああ言ってもらえなければ、私はもっと後悔していたでしょう」


 もっと、ということは今も後悔しているということか。責任感が強いのはいつものことだ。どちらを選んでも後悔したというなら、少ないほうがいいに決まっている。おそらく岩崎は自分の最善を尽くしたのだろう。


「成瀬さんの言うとおり、私は心のどこかで彼らの行為について、批判していたんだと思います。おそらく皆さんには嫌われてしまいましたが、私は自分のしたいことをしたので、しょうがないですよね」


 こいつは友人多いくせに、いまいち理解できていないな。連中もそうだったが、本当はお互いを理解していないようだな。


「あんたは何か勘違いしているな」

「え?何ですか?」

「友人が友人のためを思ってした行動だ。相手に届かないはずがない。あんたは嫌われていないよ。あいつらは本物の友人なんだろ?だったら間違いない。あんたは嫌われてない」


 俺の言葉を聞いた岩崎は、驚きの表情をした。


「珍しいですね。成瀬さんが根拠のない話をするなんて。今の話、かなり抽象的でしたよ?」

「俺だって精神論くらいは信じている。友人って言うのは、そういうもんだろ?」


 岩崎は表情を緩めた。その表情はどこか悲しそうに見えたが、たぶん気のせいだろう。


「成瀬さんが友情を語ると少し違和感ありますね。でも、最近は友達増えましたからね。たぶん私の偏見ですね」


 俺に友人が増えたかどうかは置いといて、岩崎が悲しそうにする意味が解らない。喜ばしいことじゃないのか?


 要するに俺の言葉だけでは信じることができないのだろう。では、もう少し信頼度の高い話をすることにしよう。


「実は昨日、内川と村田に会ったんだ。吉村のことは、そのとき聞いた」

「そ、そうだったんですか」


 ま、そのことについて話すことは何もないので、話を移行する。


「連中もかなり落ち込んでいた。あんたに迷惑かけた、友情を盾に思いや考えを押し付けてしまったってな」

「とんでもありません!私のほうこそ、悪いほうに導いてしまったみたいで……」


 そんなこと俺に言われても困る。直接言ってもらうことにして、


「あんたの幸せを本気で願っていたぞ。それって、友情が続いている証拠じゃないか?」

「私の幸せですか……」


 複雑な表情をしている岩崎。ま、理由は何となく解る。自分の幸せと言われても、しっくり来ない。友達というより家族に近い感情だよな。村田が言っていたが、本気で妹みたいなやつと思っているのかもしれない。


「変わった連中だよな。俺なんか、あんたを幸せにしてくれ、って頼まれたぞ」

「わ、私を、し、幸せに?」


 急激に顔を赤くする岩崎。おそらく友人が妙なことを言ったので、恥ずかしくなったのだろう。確かに、変わった友人を持つとどことなく恥ずかしい気持ちになる。俺にも麻生がいるので、よく解る。


「それで、成瀬さんは何て言ったんですか?」

「人任せにしないで、自分で幸せにしてやれ」

「……………」


 考えてみたら、とてつもなく無責任な話である。本物の友情だと豪語しているのはそっちだろうに、なぜ俺にぶん投げるんだ。無責任にもほどがある。それに幸せとは自分の手で掴むものだ。他人がくれる幸せなんて、本物ではない。ま、なぜこんなことを言い出したかというと、最終的にこの話がしたかったからだ。


「だからこれからもずっとあんたたちは友人関係だ。あんたたちはちゃんと両思いの友情を抱いている」


 要するに、今までどおりだということだ。さんざん悪く言ったが、どうやら本当の友情だったようだ。俺の勘違いだ。岩崎が言ったとおり、一歩道を踏み外しただけだった。


「納得いかないところが、多々ありましたが、前と変わりないってところは解りました」


 納得いかないってのが、納得いかないな。


「言っておくが、今のはノンフィクションだぞ。全て忠実に再現した」

「なおさら納得いきませんよ。もういいから黙って下さい」


 何を怒っているんだ?どうやらこの怒りは、村田たちではなく俺に向けられているようだ。俺のほうが納得いかない。必要な話だと思って、忠実に再現したのに。


 ま、固い友情に変化がないってことが解ってもらえただけで十分だろう。俺は出された飲み物に口をつける。その間に、怒りマークをつけていた岩崎が、急激にテンションを下げた。一体何事か、と思っていると、


「今回は完全に私は無関係でした。どうですか?成瀬さんが部長になりますか?」


 話はTCCのことに移ったらしい。確かに無関係だったな。事件には関係していたが、捜査には関わっていない。


「冗談も休み休み言え。俺は他人の上に立つ人間じゃない。これ以上面倒ごとを押し付けられてたまるか。この前も言ったが、部長はあんたの立ち位置だろ?少なくとも、俺の立ち位置じゃない」

「案外成瀬さんのほうがしっくりくるかもしれませんよ」


 何が言いたいのか解らないが、若干気落ちしているという事実だけは解った。


「あんたが作った団体だろう。放り出すつもりか?」

「いえ!そんなつもりはさらさらないです!ですが、もしかしたら私はふさわしくないのかもしれないと思いまして……」


 岩崎が作った団体だ。岩崎以上に適役がいるだろうか。答えはノーだ。


「へこんでいるのは解るが、妙な考えを他人に押し付けるなよ。部長の地位を誰かに譲ろうとしているならなおさらだ。言っておくが、俺は断固拒否するぞ」

「…………」


 やれやれだ。このままでは今すぐ解散を宣言しそうだな。どう考えても突発的な感情が理由なのに、勢いだけで何もかも決めてしまいそうな雰囲気がある。俺個人の意見としては、こんな団体今すぐ解散してしまえ、と思っているのだが、少なくとも一人、この意味不明な団体を必要としている人物が、目の前にいる。ここで止めないと、こいつの後悔はどこまでも後を引きそうだ。のちのち性格までも変化させてしまいそうだ。


 本当にやれやれだ。こいつはどこまで俺に迷惑かければ気が済むのだろう。


「今回の依頼者の話だが、」

「え?はい……」

「本当に感謝していたぞ。言葉だけじゃ足りないと言って、弁当まで作ってくれた。その気持ちは凄まじかったぞ。感謝していたのは今回だけじゃない。今までの依頼者だってそうだ。俺たちはきちんと依頼に沿う成果を示せているんだ。その評価は右肩上がりだと言えよう。それは誰のおかげだ?」

「成瀬さんだと思います」


 即答しやがった。どこまで気落ちしているんだ?今まで持ち合わせていた自信を、全て消失してしまったのではあるまいな。こいつは本当に理解できていないようだな。俺は説教とか説得とか、本当に嫌いなんだよ。勘弁してもらいたい。俺はため息を一つつくと、そいつを示す。


「あんただよ」


 だってそうだろう?今まで俺が自主的に何かしてきたことがあっただろうか?麻生の発言がTCCの方針を左右したことがあっただろうか。ないだろう。いつでもTCCを背負ってきたのは、岩崎だ。


「あんたがいなければ、TCCは成り立たないんだよ。今回はたまたまだ。言っておくが、かなり苦労したんだぞ。あんたが妙なことをしているせいで。あんたがいれば、もっと簡単にことが進んでいっただろうよ」

「で、ですが、結果的に私が関わらずに事件を解決できています。事件解決の中心にいるのはいつも成瀬さんです。成瀬さんがTCCの中心です」

「違うな。たとえ事件解決の中心にいようとも、TCCの中心ではない」


 事件解決の中心にいるつもりもないが、そのことについて論議を交えるのはまた別の機会にしよう。


「組織を編成した場合、一番重要なのは何だと思う?答えは優秀な指揮者だ。優秀な指揮者がいなければ、組織はただの烏合の衆になりかわる。逆に優秀な指揮者がいれば、凡人の集まりでも、普通以上の成果を生むことができる」


 これはスポーツの世界でよく見る。高校野球で、必ずしも主将が一番うまいわけではない。一流の選手が、必ず一流の指導者になるとは限らない。例え、俺がどんなに事件を解決しようとも、俺に組織を統率できるとは思えない。少なくとも、岩崎のほうがうまく指揮するだろう。


「ですが、」


 まだ何か言うつもりか。頑固なやつだな。


「あんたの様子がおかしくなってから、みんな心配していたぞ」

「え?」

「この一ヶ月、あんたは自覚なかったかもしれないが、かなり様子がおかしかった。それにみんな気付いていたぞ。麻生も姫も天野も真嶋も、心配していた。事件のことより、みんなあんたのことのほうが気になっていたんだ。それでもあんたはTCCに必要ないというのか?本当にそう思うなら、仕方ない。もう解散するしかないな。あんたがいないTCCなんて、本当に存在意義がない」


 そもそも存在意義があったのか解らないのだ。創設者が脱退するなら、存在する理由がない。岩崎が自分のために作った団体なのだ。岩崎が必要としなくなったら必然的になくなる。


「本当に私は必要なのでしょうか?」


 岩崎は未だに顔を上げない。ここまで悩んでいたのか。予想外だ。もしかしたら今回のことだけが原因ではないのかもしれない。


「私は自分の存在価値が見出せません。今の意見も成瀬さんの想像なのでしょう?成瀬さんを信用していないわけではないのですが、もしかしたら成瀬さんの勘違いかもしれません。依頼者の皆さんも、成瀬さんだけに感謝しているのかもしれません。そうなると、やはり私は必要ないのかもしれないと思ってしまいます」


 俺には違うと断定できる。なぜなら俺が濡れ衣を着せられたからだ。みんな岩崎を心配して、俺に濡れ衣を着せた。岩崎の様子がおかしい理由を必死に考えたに違いない。俺としてはかなり嬉しくないが、その気持ちが嘘でないことは明確である。加えて、今回の依頼者相馬優希と二ノ宮一輝は部室に訪れたとき、何と言っていたか。岩崎の名前を出し、いないことを残念がっていた。やはり岩崎あってのTCCなのだ。しかし、俺がそんなこと言っても嘘くさい。俺は俺の言葉で伝えるべきだろう。なので、俺はこういうことにする。


「俺が、あんたを必要としてやる」

「!」

「あんたの様子がおかしくなると、俺が濡れ衣を着せられるんだ。だから普通に、あの部室にいてくれ。今回もいろいろ言われたんだぞ。納得いかないが、そういうことらしい」


 今でも納得いかない。俺が岩崎に迷惑をかけたことなど、あっても一、二回程度だ。それなのに、なぜ真っ先に俺が疑われてしまうのだろうか。冤罪も甚だしい。


 俺が憤っていると、岩崎が妙なことを口走った。


「それ、濡れ衣じゃないです」

「は?」


 そりゃどういうことだ?俺がお前に迷惑をかけているって?いい加減にしろよ。迷惑をかけているのは、たいていあんたのほうだ。俺は被害者だぞ。


「俺が何したって言うんだ」

「いえ!いつも迷惑をかけているのは、私です。ですが、今回に限っては成瀬さんのせいと言えると思います」


 そこまで言うからには、ちゃんとした証拠があるんだろうな。


「理由を言ってみろ」

「忘れてしまったんですか?」

「何をだ?」

「夏休み、一緒にどこか行こうって言う話です」

「は?」


 何を言っているんだ?何度か行ったじゃないか。中学の連中と面会もしたし。それに、行く暇などなかったことは、あんたが一番よく知っているはずだ。


 しばらく黙り込んでいると、痺れを切らしたように、岩崎が、


「二人で出かけようって話したじゃないですか!まだ行ってませんよ」

「あー、」


 そんな話しただろうか。確かに出かけようという話は、幾度となく出てきたような気がする。しかし、二人で、という話はしていないと思うのだが。


「覚えていないんですか?最低です!約束を破るのも最悪ですが、約束自体を忘れてしまうのは、数百倍最悪です!極刑に値します」


 本当にしたのだろうか。いや、ここまで言うならしたのだろう。ならば忘れている俺が間違いなく悪い。何となく納得いかないが、仕方がない。


 どうやら本当に俺のせいだったらしい。一体誰がこの驚愕の事実を想像することができただろうか。少なくとも、俺は全く想像できなかったね。全然納得できないが、麻生や真嶋のほうが合っていたということか。本当に納得できないが、岩崎がこう言うのだから仕方がない。


「悪かったな。この非礼は、花火大会で返す」

「一応言っておきますけど、花火大会はみんなで行く予定ですよ」


 さすがにそれは覚えているが、それはもう古い情報なのだ。


「それが、みんな行けなくなったらしい」

「えっ!」


 昨日の麻生に続き、今朝真嶋から連絡があった。内容は麻生と同様で、花火大会には参加できなくなった、というものだった。ご丁寧に天野がキャンセルした事も書き添えてあった。さらに、そのことを姫に連絡すると、


「だったら私も行かない」


 と優柔不断な発言で、あっさり不参加を表明した。一体なんだろうな。この連鎖は。不都合って言うのは、連なって起こるらしい。


「だから予定を開けているのは、俺とあんただけだ」

「そ、そうなんですか?」

「そうなんだ。あんたの望みどおり、二人で出かけられるが、どうする?」

「べ!別に特別二人で出かけたいと言っているわけじゃないんですけど!せ、せっかくの花火大会ですし、今年最後ですし、予定も空けていましたから行きます。成瀬さんが奴隷になってくれるみたいですし」


 誰がそんなこと言った。非礼を詫びると言っただけだぞ。


「考えてみれば、どちらかというと、あんたのほうが悪いだろう。少なくとも俺だけに罪を擦り付けるのは、おかしい」

「む」


 というわけで、先ほどのセリフは全面訂正だ。


「花火大会の情報は俺が集めるから、あんたは金銭面を担当してくれ」

「そんな、ずるいです!それなら、私が情報を集めますよ」


 悪いがもう情報は集めてしまっている。だから担当は譲らない。譲りたくないので、こんな口車を使って説得する。


「その分、俺が完璧にエスコートしてやる」

「成瀬さんが、私を、エスコート……」


 何やら呪文のように呟いて、動かなくなる岩崎。そして、


「わ、解りました。私が金銭面を負担しましょう。ですが、もちろん上限は設けさせてもらいますからね」


 でかい声で叫ぶ岩崎だった。無駄な元気が復活している。やれやれだ。だんだん調子が戻りつつあるようだ。面倒になってきたが、これが日常だといえば、日常である。これは喜ぶべきことなのである、きっと。


 適当に会話を紡いでいると、いつの間にかいい時間になっていた。そろそろお暇するとしよう。何と言ってもここは女子寮だ。いつまでもいていいはずがない。妙な噂も出てきそうだしな。


「じゃあそれはそろそろ帰るよ。今度は部室に来いよ」

「待っていてくれるんですか?」


 俺が待っている?それでは日常じゃない。


「あんたが先に来て、待っていてくれ」

「はい!解りました」


 そこで、俺は退場。さっさと寮を出て、家路に着いた。家に帰ったらすぐに飯を食って、風呂に入って寝た。これで面倒ごとは全て片付いた。これからは残り少ない夏休みを有意義に過ごせるだろうよ。


以上でこの話はおしまいです。次話はあとがきですので、興味のない方はスルーして下さって構いません。

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