第十三話 意外な闖入者
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
「で、二人で何をしていたの?デート?」
気まずいことこの上ないのだが、こいつらにはそんな空気感じられないようで、普通に話しかけてくる。こんな空気の悪いデートがあるわけないだろう。あるとしても、そいつらはもう別れる寸前だ。引き止めてくれるなよ。
「あんたたちに話すつもりはない。一応言っておくが、デートではない」
「そうなんだ」
空気が読めない連中を相手にするのはとても面倒だ。
「そういえば、麻生君は中学の友達と旅行に行くって言っていたけど、成瀬君は行かないの?確か、同じ中学だったよね?」
「いつでも一緒にいるわけじゃない。行ってなくても不思議じゃないだろう」
会話するのも億劫だ。姫は機嫌悪そうな表情で一切口を利かないし、どいつもこいつも自分勝手なやつばかりだ。俺の不機嫌も膨らむ一方だ。
「だから二人なんだね。仲いいね」
「全くよくないわよ。不名誉もいいとこだわ」
内川の言葉に、姫が反応する。俺だって右に同じだ。こいつをTCCに入れてよかったなどと思ったときもあったが、今では最悪だったと意見を正反対にしている。こいつは単純に気に入らないことを口に出してしまうだけだった。俺と考え方が似ているのかと思ったが、そいつは大間違いだった。
これ以上この話題を引っ張られるのは、さすがに嫌なので、こちらから話題を振ることにする。
「そっちだって二人じゃないか。あいつはどうした。吉村だっけ?」
「君がさっき言ったでしょ。いつでも一緒にいるわけじゃないって」
解っている。単純に話題を変えたかっただけだから、いつでも一緒にいると誤認していたわけじゃないぞ。
「吉村は何をしているんだ?」
またしても適当に振った話題だが、その質問が大きな波紋を呼んだ。
「今、岩崎の家にいる」
は?今なんて言った?岩崎の家だと?
「家ってどこだ。実家か?」
思わず声が大きくなってしまう。未だ尾行中だと言うことは解っていたが、これは反射的な問題だ。それほど村田の答えは俺の動揺を誘った。姫も前のめりになっている。
「ああ、実家じゃないよ。寮だよ。女子寮って男子を入れても怒られないんだね。女の花園っぽいけど、その辺は寛大なのかな。ああ、勘違いしないでね。別にやらしいことしているわけじゃないよ。遊びに行っているだけ。あたしたちは友達だからね」
そんなことはどうでもいい。聞いていないことを答えられるのがここまで不愉快だと思わなかった。二ノ宮兄もいろいろ言うやつだが、不愉快と言うより呆れてものが言えないような感じだった。でも今は違う。不愉快すぎて、頭にきている。
「先輩、今寮にいるの?実家に帰っているんじゃないの?」
「ん?いるよ。知らなかったの?というより、ずっと寮にいたよ。少なくとも夕方には寮にいたけど。岩崎、実家に帰っていたの?」
これはどういうことだ?電話ではしばらく向こうにいるって言っていた。毎日通うという意味だったのか?いや、それじゃあしばらく向こうにいるなんて表現は使わないはずだ。理解できない。いや、理解できている。この可能性はずっと前から考えていた。ついさっきもそのことが原因で姫と口ゲンカをしたのだ。
「詳しく説明しろ」
「え?説明って何?詳しくってどういうこと?」
当然の疑問だが、今の俺にとってはかなり面倒なやり取りだ。
「全部だ。最初から全部説明しろ。岩崎は実家に帰っていなかったのか?」
内川と村田が帰ったとき、すでに時刻は六時を迎えていた。そとはまだ十分明るいが、俺の気分的にずいぶん長い間ここにいたような気がした。俺は携帯電話を見た。この店に入店したのは確か、二時ごろだったと思う。結局今日尾行した時間は、二時間くらいだったと思う。疲れた。いろいろあった。今日は慣れないことがたくさん起きた。ご苦労様と言われれば、確かに間違いじゃないが、依頼人から労をねぎらわれるような働きはしていない。なぜなら途中で放棄してしまったからだ。
「一にメール送っておくよ。もう帰っていいって」
「ああ」
俺たちは未だにレストランにいた。ターゲットである相馬暁はすでに帰宅しているにもかかわらず、だ。つまるところ、俺たちは内川たちの話に聞き入っていたため、相馬暁のことをすっかり忘れていたのだ。最悪だ。TCC失格だろう。今ではどうでもいいことだが。
「あの人たちの言うこと、信じられると思う?」
「解らん」
解らんが、嘘をつく意味がないような気がする。岩崎に確かめればすぐに解る嘘などついて、一体何の意味があるだろうか。どちらにしろ確かめずにはいられないな。
「姫」
「何?」
「真嶋たちに連絡して、あいつが明日買い物に行くかどうか聞いてもらってくれ」
先ほどケンカしたばかりだ。そんな相手から命令されては、さぞかし気分が悪かろうと思ったのだが、姫は何も言わずに携帯電話を開いて、メールを打ち始めた。どうやら、そんなこと気にしていられないほど、混乱してしまっているのだろう。俺だってそうだ。岩崎が嘘をついている可能性が濃厚になってきている。岩崎が悩み事をしていると言う可能性についてはまだ何も言えないが、少なくとも部活をずる休みしていると言うことが確定した。俺としてはそっちが許せん。
「どういうことだと思う?」
知らないね。考える気も起きない。だが、理由を聞かないで済ませようとは思わない。
「直接聞けば解ることだ」
先ほど姫に対して、一人で行けと言ったばかりだが、前言撤回させてもらう。俺も同行させてもらおう。何だか知らないが、俺が直接話を聞かなければ気がすまない気分なのだ。明日から出かけなければいけない。ならば、今日今から行かなければならない。
俺は立ち上がって、伝票を取り上げる。そういえば、内川と村田から金をもらっていないな。と思ったのだが、あいつらは何も注文していなかった。一体何しにきたんだか。ま、ラッキーだと言えるだろう。余計な金を払わずにすんだんだからな。
「どこ行くの?」
慌てて立ち上がった姫が尋ねてくる。今更何を言っているんだ?
「女子寮に行く。あいつらの話なら、夕方にはいるらしいからな」
姫は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐさま後についてくる。
「行かないんじゃなかったの?」
「部長であるあいつが、部活をずる休みしているかもしれない。副部長である俺が問いたださなくてどうする」
「岩崎先輩のそばからいなくなるつもりはまだないってわけね?」
皮肉だろうか。いつもに比べて威力が弱い気がする。皮肉を言うなら、
「そいつに関してはノーコメントだが、」
これくらい言わなきゃ意味がないぜ。
「俺があいつのそばを離れる前に、あいつが俺たちのそばからいなくなるかもしれないな」