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第十話 尾行(前)

遅くなりました。迷惑をおかけしています。


 さて。火曜日は午前中から動くことになった。日曜日のうちに相馬優希に連絡を取ると、弟は午前中から出かけるとのこと。ならばということで、現在俺たちは、相馬優希の自宅の目の前にある喫茶店に集合している。


「君たちを全面的に信頼して依頼したのだから、方針は君たちに任せるのだが、昨日と面子が違うな。それはどういった理由だ?」


 集まったのは、相馬優希、俺、姫、そして一こと二ノ宮一輝。麻生は旅行に行っているらしく、今日は来ていない。


「そちらの君は、TCCのメンバーなのか?」

「いや、違いますが、私のイトコということで、参加してもらいました。ダメですか?」


 しゃべっているのは、猫かぶった状態の姫である。未だ、素を晒しているのはTCCのメンバーと、準メンバーであるところの天野と真嶋だけであるようだ。今更猫かぶる必要もないと思うのだが。


「いや、問題ない。君たちが協力を要請したということは、それなりに能力のある者なのだろう。今日はよろしく頼む」

「はい、精一杯努力させていただきます」


 表情と言葉遣いが硬くなっているような気がするが、特に気にしないことにする。一応(いや普通に)先輩なのだ、敬語も当然だ。この場合、敬語を使っていない俺がおかしいと言える。ま、それも気にしないでおく。とりあえず、


「今日のことだが、弟の予定は知っているのか?」

「細かくは知らない。だが、昼前に起床して、そのまま学校に行くと言っていた」


 言っていたということは、本人から聞いたのだろうか。


「その情報は信じられるのか?」

「実際のところ、解らないな。だから念のためこの時間から家の前に集まってもらったのだ。だが、私は信じている」


 あんたが信じるのは勝手だが、俺は全く信じられないな。俺がいぶかしんでいると、おそらく表情に出ていたのだろう。相馬優希は自嘲気味に笑い、


「姉バカだと思ってくれ。一応昨日聞いたのだが、一言、学校、とだけ教えてくれたんだ。無視したり罵声を浴びせたりしてこなかったところ見ると、私はまだ嫌われているわけではないようだ。目を逸らして、小声で言っていた辺り、私に対して後ろめたい気持ちがあるのだろう。きっと悪いことをしているという自覚をしているのだと思う。だから昨日の時点で、私は更生できると確信したよ。弟のこと、よろしく頼む」


 言って、深々と頭を下げた。俺としては、質問に答えていないだろうと思っていたのだが、自分にも心当たりがあるらしいこの二人は、黙って頷いていた。二ノ宮兄は、おそらく姫のときのことを思い出してしまったのだろう。若干涙ぐんでいた。正直、不安である。この面子で、本当にうまくいくのだろうか。




 その直後、部活動があるため、相馬優希は早々に出かけていった。そのため、俺たちは弟の写真と特徴が書かれたメモを持って、ぼんやり会話を紡いでいた。


「相馬暁。髪は短く刈り込まれた金髪で、制服は学ラン。身長は百六十センチ程度、体重五十キロと小柄で細め」

「ふーん。何かそのまんま、って感じね。何で不良ってみんな似たような格好するのかしらねえ」


 同感だ。見た目で判断するのはよくないと理解しているが、いわゆる不良ってやつは、みんな似たような格好をしているので、統計学上見た目で判断してしまうの仕方がない。これは俺の個人的な見解だが、おそらく同じような見た目をしているのは、社会に反発していることを見た目で表現しているからではないか。加えて、威嚇や仲間意識を高めるという意味もあるような気がする。だから彼らは見た目で判断されるべくして、ああいう格好をしているのだ。だから間違えられたくなかったら、彼らのような格好をしなければいいのだ。


「学校に行くって言っていたけど、本当にそうだといいわね。そのほうが、情報集めやすいもんね」


 そのために二ノ宮兄を連れてきたんだ。例の高校が無関係ならば、こいつを連れてきた意味がない。


「まだ出てきそうにないから、今のうちに段取りを決めておこう。俺は何をすればいい?」


 そうだな、一応やっておくか。段取りというほど、しっかり決めていたわけじゃないのだが、それでもやらないよりましだろう。

「接触したやつがあんたの知り合いなら、その場で情報をくれればいい。そいつを知らなければ、友人にでも聞いて情報を集めてくれ。ちなみに、教師に取り合う自信はあるか?」

「任せてくれ。ここでは普通の生徒だが、向こうではかなり優秀な生徒だったんだ。それなりに真面目でもあった。だから教師受けもよかった自信がある。きっと情報をくれると思う」


 ふむ。事実はどうか解らないが、その自信は期待できそうだな。


「あと、校内に入った場合、尾行はあんた一人に任せる。俺たちは高校生とは言え、無関係だからな。無許可で入るのは難しいと思うし、何しろ目立ちすぎる。その点、知り合いや知っている教師がいるあんたなら、怪しまれずに校内を動き回れると思う」

「解った」


 打ち合わせはこんなものでいいだろう。実際計画通りに進むとは思えない。具体的に決めすぎると、不測の事態になったときかえって動きにくくなってしまう。部室荒らしのときの仕事っぷりを聞くに、こいつはそこそこ優秀な働きをしている。その場その場で勝手に判断してもらったほうが、いい結果が生まれそうだ。信じられる相手か知らないが、失敗しても大した被害にならないと思うので、勝手にやってもらおう。


「私は?何をすればいいの?」

「姫は俺と一緒に、弟の尾行」

「あんたの二人で?やだ!」



 わがまま言うな。俺だって嫌に決まっている。というか、尾行自体が嫌だし、事件に関わることが嫌だ。だいたいこの事件を引き受けたのは姫の独断だろう。だったらこういう自体になることも予想できたはずだ。もし予想外だというのなら、思いつかなかった自分の頭の回転の悪さを呪うんだな。


「どうせ今日一日でどうにかなると思っていない。各自適当にやってくれ。二ノ宮兄は、学校で相馬暁自身の情報収集。俺たちは相馬暁の行動と交友関係を出来るだけ知ること。これが今日の課題だ」


 俺の言葉に頷く二ノ宮兄。頷かずに憮然とした表情を崩さない姫。考えてみれば、俺はかなり面倒な連中と一緒に行動しているな。何だ、このメンバーは。やりにくいったらありゃしない。せめて麻生か岩崎がいてくれれば、もう少しやりやすかったのだが。本当に間が悪いな。おまけに運も悪い。というかいいことがない。


 ま、今言ってもしょうがないし、何度も言うが、後戻りができない状況だ。やるしかないだろう。何とも後ろ向きなやる気だが、これが俺なのでしょうがない。またしてもしょうがないを連発しているな。いろいろ諦めている俺だが、まだスタートもしていないのに、これでいいのだろうか。


「どうした、成瀬」


 誰のせいで俺が頭を抱えていると思っている。慣れない連中と一緒に行動しなければいけない挙句、慣れないことをやろうとしているんだぞ。頭を抱えたくなるのも解るだろう。


「とりあえず、打ち合わせはこれで終わりだ。あとは具体的に何かが起きてから考えよう」

「こんなものでいいの?本当に大枠しか決めていないじゃない。こんな打ち合わせで対応できるの?」


 やってみなければ解らないだろう。というか、現在考えるべきことが解らない。しかし、この男は、


「俺には解るぞ、成瀬。一から十まで綿密に計画してしまうと、不測の事態に対応できないかもしれない。ならば、いっそ大枠しか決めず、あとは実際に起きた事態に対して、それぞれの判断で柔軟に対応したほうがうまくいく。そう考えたのだろう。つまりは俺と紗織の能力を買ってくれた計画ということだ。そうだろ?」

「ああ、そうだ」


 違うに決まっているだろう。能力を買っているって?全く以って逆だ。二人の能力についてほとんど知っていることがないから、綿密な計画が立てられないんだ。その前に二人についてほとんど知っていることがない。俺たちはそんな間柄だ。加えて、二ノ宮については何も知らん。それはお互い様であるにもかかわらず、なぜ二ノ宮の口からあんな言葉が出てきたのか、俺にはもう全く解らない。同じ言語を操る人種だと思えないほど、考えが理解できない。不安は募るばかりだ。俺は気付かれないように、ため息を吐いた。頭も抱えたかったが、それは止めておいた。



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