牧場カースト
真丹木調教師の来訪から数日後。
牧場を騒がせているイタズラトリオは、風にそよぐ洗濯物を眺めていた。
「あ~あ……ツバメねーちゃんのパンツにも飽きたな」
「次は、別の遊びでもすっか?」
「そーだな……せっかくだし、誰かからかうってのは?」
イタズラトリオはニタニタ笑いを浮かべた。
「いいねぇ!」
「ムカつくヤツがいいな」
「そーだな……」
その目はすぐに、牝馬の群れの一団へと向いた。
「やっぱアイツか、ストロングカグヤ」
「あ~わかるわかる。他のメスどもを家来のように従えてるもんな」
「ムカつくよな~メスのくせに」
人間たちにスクールカーストがあるように、僕ら馬にも牧場カーストというものが存在する。
イタズラトリオの話題に上がったストロングカグヤは、日本カーストで言えば1軍のボス。アメリカカーストで言えばクイーンビーに相当する。
イタズラトリオも、すぐに表情を曇らせた。
「いや、あれに手を出すのはやめとけ」
「取り巻きがうるさそうだもんな」
ストロングカグヤ:牧場カースト0歳馬ランキング。22頭中1位。
カグヤアーチャーをはじめとした取り巻きたち5頭。22頭中4位~14位。
イタズラトリオは次に、汗を流しながら走る黒毛馬3頭を見た。
「じゃあ、あいつらは?」
「牝馬どもにチヤホヤされてムカつくよな」
「ああ、わかるわかる」
グランパレードをはじめとした黒毛馬の3頭は、日本カーストで言えば1軍主力クラス。アメリカカーストで言えばジョックに相当する。
イタズラトリオも、彼らの強さを思い出したようだ。
「やめとけやめとけ。ピンでも強いヤツが3頭もいるんだぞ!?」
「ツバメねーちゃんや、スタッフたちにも可愛がられてるしな」
「仕方ねえ。他探すか」
グランパレード:牧場カースト0歳馬ランキング。22頭中1位(ストロングカグヤと同位)
ブラックグランパをはじめとした友達2頭。3位と5位。
イタズラトリオは3番目に、寝そべって牛を眺めているグループを見た。
「仕方ねえ。あまり張り合いはないけど……あのマヌケ8の誰かにすっか?」
「まあ、現実的なところだな」
「誰かいるか?」
チャイロジャイロをはじめとした牡牝混成チームは、日本カーストで言えば2軍中位から3軍。アメリカで言えばプレップスやスラッカーもいるが、半分以上はナードと言われるオタクや人見知りである。
ただ、先ほど説明した1軍から落ちてきた仔馬たちの受け皿になるグループであり、保険の意味で彼らと付き合う仔馬も多い。
「さて、どいつにすっか?」
「……いや待て。チャイロジャイロのヤローを敵に回すと厄介だぜ」
「ストロングカグヤの取り巻きや、グランパレード組と仲のいいやつもいるからな」
チャイロジャイロ:牧場カーストランキング。22頭中8位。
カグヤウインドをはじめとしたチームメイト7頭。22頭中12位~20位。
イタズラトリオは辺りを見回した。
「よし、こうなったらチビシュババにしようぜ」
「おっ、あの小賢しいサイレンスアローか……いいねぇ!」
「でも……どこいった!?」
そうなると思ったから、僕は森の中に隠れているよ。
僕を日本カーストで言えば4軍かな。アメリカで言えば良くてブレイン。悪ければターゲットやバッドボーイだろう。
ちなみに、イタズラトリオのポジションは日本で言えば1.5軍から3軍。アメリカで言えばプリーザーとバッドボーイを足して2で割った感じだ。
サイレンスアロー:牧場カーストランキング。22頭中22位。
イタズラトリオの3頭。13位~18位。
「いねえよシュババのヤツ……」
「こういうときだけ空気読むなよな……あいつ」
「あ!」
イタズラトリオの1頭がエレオノールペルルを見た。
「じゃあ、アイツにしねーか……ペルカス!」
「あ、いいねえ……あのアホ毛女なら、からかったところで誰からも文句出ねえぞ!」
「よし、悪役令嬢を討伐だ!!」
誰が悪役令嬢だ!
僕は久しぶりにイライラしながら、藪の中から姿を現した。
そして数分後……
さすがのイタズラトリオも、僕が後ろ脚立ちをしたら大きく距離を取っていた。
「ひいっ! やめろー!!」
「何でテメーは、こういうところでシュバって来るんだよ!」
「ペルルは板野社長のウマだぞー! 何かあったら責任とれるのか!?」
「ひぃっ!」
「お、俺たちにそんなんカンケー……」
「少しでも危害を加えてみろー! 明日から僕と一緒に……真丹木厩舎だぞーー!?」
「いやーーーーーー!?」
3頭は我先にと逃げ出した。やはり、泣く子も黙る真丹木調教師は凄い!
元の体勢に戻ると、僕はペルルに微笑みかけた。
「さあ、ペルル……行こうか」
「…………え、ええ」
立ち去ろうとしたら、イタズラトリオは遠くから罵ってきた。
「お前、悪役令嬢のこと好きなんだろ!」
「アホ毛ブスが好きなんだろーーー!」
「あ?」
そう言いながら睨み返すと、イタズラトリオは叫び声を上げながら逃げていった。
「…………」
何かペルルが言った気がしたので振り返ると、彼女は視線を逸らした。
「な、何でもないよ……行こう」
「う、うん」
まあとにかく、僕たちはこうして牧場生活をエンジョイしている訳だ。
【0歳馬の仲良しグループ】
グランパレードの走るの大好きトリオ(3頭)
ストロングカグヤと愉快な牝馬たち(6頭)
牧場お騒がせイタズラトリオ(3頭)
転がって牛を観察するグループ(8頭)
牧場カーストの外(サイレンスアロー&エレオノールペルル)
※ちなみに、筆者から見て一番居心地がよさそうなのは牛を観察するグループです。